Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




前夜

秋田弁・東京弁・標準語・共通語



 『新版国語辞典(講談社学術文庫)』によれば、「標準語」というのは「音韻・語い・文法などの点で、標準・規範となることばの体系」で、「共通語」は「一国内で、方言をこえて全国に通ずるものとして用いられることば」となっている。
 また、これについて議論があることも承知している。
 これから、方言にネタを得た話を続けていくについて、この辺ははっきりさせておかなくてはなるまい、と思う。
 基本的に「標準語」という言葉を使う。
 理由は、大多数の人が「標準語」を使っているから。それだけだ。
 勿論、違いをはっきりさせる必要がある場合には、最初の定義にしたがって使い分けるつもりではいる。

 俺は秋田県秋田市出身である。ご幼少のみぎり秋田県大館市に引っ越し、青森県弘前市で幼稚園の前半までを過ごし、青森県青森市に小学校 3 年まで在住。小学校 4 年生になるときに、秋田市に転校してきた。聞くところによれば、見事な津軽訛りであったらしいが、本人は覚えていない。
 大学入学時に上京する。当初、県人寮にいた。全県から学生が集まっているから、各地の方言が乱れ飛んでおり、ここでちょっと自分の秋田弁が乱れる。
 外では、一応「標準語」で話をしていた。文法的には間違っていなかった筈だが、どうしようもないものがある。
 アクセントだ。
 具体的に言うと、「椅子」は「(「イ」が高く「ス」が低い)」であり、「後ろ」は「シロ」であった。
 一般に、アクセントや発音は変更しにくいものだそうだが、これが「イ」「ウシロ」になるまでに、本人が努力しなかったせいもあるが、10 年かかった。その後すぐに秋田へ U ターンしているので、無駄に終わるのだが。
 逆に、「うざったい(鬱陶しい、面倒くさい)」「ため(同年齢)」などの、主に若い層が使用する東京弁は、ほとんど使わなかった。

 不思議なもので、出生地・秋田に帰った今、仕事のときは完全に共通語を使っている。
 というのは、小中高とスポーツに縁の無い生活を送った俺は、人格すら否定されるような厳しい上下関係にさらされたことがない。他人はともかく、先輩・後輩程度なら、最低限の敬意は払うにせよ、基本的には友達同士のような環境で暮らしてきた。そのため、秋田弁の敬語を操ることができない。
 仕事は、オフィシャルなものだ。相手が間違っていた時でも「馬鹿しゃべすな(馬鹿なことを言うな)」とは言えない。「お言葉を返すようですが、それには同意いたしかねます」という様なことを言わなくはならないのだが、それができない。したがって、共通語でしゃべるしかないのである。
 そんなわけで、仕事絡みの人とは、酒の席でも共通語で話すことが多い。

 とは言え、Uターンしてまもなく2年。電話で東京の知り合いと話していても、「そんなことするか、普通?」「したがら(そうだよねぇ)」などと、うっかりすると秋田弁が出そうになる今日このごろである。




音声サンプル(.WAV)

椅子(13KB)
後ろ(13KB)
馬鹿しゃべすな(2KB)
したがら(21KB)



"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第1夜「なげる」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp