あきらかに秋田弁なんだけど、辞書を引いてみると載っている、という単語をみてみる。
考えてみれば同じ日本語なわけだし、濁点をとったりつけたり、訛りをちょっといじってやれば、国語辞典や古語辞典に載ってたとしてもなんの不思議も無いわけである。
ただ、辞典というのが、ある時期の標準的な日本語を切り取ったものである、という関係で、若干、意味がずれていたり、古い表現になっていたり、ということはある。
「
かしげる」という単語は、当然、国語辞典にも載っている。古語辞典にはなかった。
「傾げる」と書くわけだが、標準語としては「
首を傾げる」という形でしか使われないのではあるまいか。
秋田弁では「傾ける」という意味で現役である。「傾く」という意味の自動詞も「
かしがる」という形で使われている。
傾くものであれば何にでも使う。「
なに、あの塔だば かしがってらね」とピサの斜塔を評することもあれば、「
花瓶 かしがってだがら 気つけれや」と小さなものにも使える。
ちょっと、会社や国には使いにくいかもしれない。
「宛」は、標準語ではもう消えかかっているのではないだろうか。「宛名」の方ではなく、「数量を表す名詞について、…あたり、…について、の意味を表す」の方である。「
ひとりあて 3 つづつ」なんていう例文が載っているが、これを使っているのは聞いたことがない。
東京では。
秋田では「
あで」という風に訛った形で使われる。「
ひとりあで 3 つづつ」は勿論、「
なんか適当に \1,000 あで買ってこいでゃ」というのは「\1,000 分買ってこい」という意味である。
時代劇で、
「殿、水野家の屋敷の絵図面、首尾よく手に入れましてございます」
「なに、まことか。でかしたぞ!」
というのはよくあるやり取り。
「できる」を他動詞にすると「
でかす」になるわけである(「できる」だって他動詞といえないことはないが)。古語辞典によれば「出来す」と書くようだ。
この、「作り出す」「完成させる」という意味の「
でかす」は秋田弁にもある。
仕事で「
その書類 水曜日までに でがしとげや」ということはよくある。夏休みの子供なら、「
宿題、朝の内に でがせや」というのもあるだろう。
なお、「よくやった!」という意味で「でかした!」を使うことはない。
「ほめてとらすぞ」
「いえ、造作もないことでございます」
「造作ない」は、標準語でも使わないことはあるまいが、あんまり日常的に使う単語でもないだろう。ちなみに、この文章を入力するのに使っている仮名漢字変換システムの辞書には、「
造作ない」と表示されているところを見ると、「造作ない」は登録されていないようである。
秋田では「
じょさね」「
ぞさね」という形で使われる。
「あいかわらず、でかい口を叩くのぉ。うむ、大儀であった」
辞書によれば、金がかかることも「大儀」というようだが、基本的には「手間がかかる」というような意味である。
これは、そのものズバリ。「
今日も会社がぁ。大儀だな」と使うが、どちらかといえば「面倒くさい」「億劫」という意味の方が近いようだ。
違っている以上は、同じではないわけである(当たり前だ)。
一方で使われているとすれば、もう一方では使われてないし、双方の使い方は異なるわけだ。音も違うし。
方言って、こういうものの固まりだと思って間違いない。
使用した辞典(参照順)
『角川新版古語辞典』(1989) 角川書店
『大辞林』(1989) 三省堂