Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第629夜

冬手冬頭



 先週、寒くなると冷たくなる体のパーツの話をしたので、今回はあったかいもの。体ではない。

 まずは手袋。
 これを「はく」と言うのかどうかについてはあちこちで話題になっている。靴下を履くのも手袋を「はく」のも、動作は概ね同じじゃん、という話はにもした。
 で、ふと気になったのは、逆の動作はなんと言うのだ、ということ。
「脱ぐ」かなぁ。いや、この場合は標準語のことは頭に無くて、俺や、周囲の人々が何と言うだろうか、ということをあれこれ想像 (言語学で言う「内省」) しているのだが。
「とる」のような気もする。でも、これの反対語って「する」だよなぁ。
 大体、それを口にするだろうか。
「寒いから手袋を着用しなさい」と言うことはあっても、「暑いから手袋の使用をやめなさい」って言うことはないような気がするんだよなぁ。

 ネットで見つかったのは「ぼっこ手袋」。いわゆる「ミトン」。北海道だからと言ってマトンではない。
「棒っこ」だという説が多いようだが、あれは「棒」だろうか。大いに疑問。「坊っこ」で子供のことだったりしない?
『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』によれば「てかえし」「てきゃし」の語がある由。
 これの語源もはっきりしないが、昔は動物の皮で作ったことから「手皮」だとか、それをひっくり返して (毛のある方を内側にする) 使うことから「返す」なのだ、とか書かれている。
 で、気づいたのだが、このミトンが本来の「手袋」なのだ。現在の我々が使っている五本指のやつは「袋」ではないではないか。
ぼっこ手袋」が北海道で生まれた表現なのであれば、開拓当時すでに五本別の「手袋」はあったと考えられ、4+1 の形に改めて「ぼっこ手袋」という形を与えたのでないか、という想像がつく。

 次、帽子。
『秋田のことば』に「ぼっち」という語がある。「帽子」の変化したものだろうが、「帽子」ってそんなに古い単語か?
 でも、よく考えてみたら「烏帽子」ってのもあるわけで、古い単語なんだろうな。ちなみに「烏帽子」は「カラスのような色をした帽子」。
 これも不思議なのだが、フランス語の“chapeau”の変形も多い。「しゃっぽん」「しゃっぷ」があるが、ネットでも多数。なんでフランス語なんだろうね。
 面白いのは「ぼんこ」。毛糸の帽子の先っちょについてる丸い奴。
 どうも、広くは「丸いもの」を指すらしい。新潟には猫背の人を指す「せぼんこ」という表現がある。
 で、なんで「ぼん」が丸いのか、というのはちとわからず。ウィスキーボンボンを思い出した人もいるかもしれないが、これはおそらく (また) フランス語の“bonbon”で意味はキャンディー。いくらなんでもこれだとは思えない。
「梵天 (ぼんてん)」という説があった。確かに、大辞林を引くと「漁具につける浮標。延縄(はえなわ)や流し網などにつけるガラス球の類」という説明もある。
「雪洞 (ぼんぼり)」なんてのも思い出したりするんだけどね。

 三つ目、夏を除けばぬくもりと心地よさの代名詞のようなもの。布団。
 これを「着る」ところがある、という話はにした。
 また、「引く」のか「敷く」のかというもした。「引く」が正しいと思っている人もいるようである。確かに、そういう動作ではある。
 茨城辺りでは「すく」と言うらしい。
 中国地方には、布団から「あずる」という表現がある。布団を蹴飛ばすなど寝相が悪いため、布団から出てしまうこと、だそうだ。「はみ出す」「ずれる」というのがもともとの意味らしい。布団を蹴飛ばすだけだったら、秋田でも「ふんざらう」というのがある。
 面白いのは、「ふとんまき」。沖縄の表現で、「頭まで布団をかぶって寝たため、唇が布団にすれて荒れる、ひどいときには出血すること」だそうである。「ふとんまけ」という形であればわかりやすい。
 寒さではこっちの方が負けてないはずだが、単語は勿論、そういう症状自体を耳にしたことが無い。
 あかばしというフォークシンガーに「ふとんまき」というアルバムがある由。

 下旬になってもまだ雪は積もっていない。昨今はもうそういう感じなんだが、二年前の豪雪の時も正月明けから急にドカっときた。さて、今年――っていうと「正しい日本語」の人に怒られる、今年から来年にかけての冬、どういう冬になるのだろうか。




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