Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第628夜

冬耳冬鼻



 今年の初雪は先月の下旬。
 普段なら初雪なんてパラパラと降っておしまい、気づかない人もいる、って程度のものだが、今年はたっぷり降った。
 朝は強めの雨だったんで車で職場に出かけたのだが、着いた途端に雪に変わり、窓から外が霞むくらいになった。職場はちょっとした騒ぎになり、中には、少しでもあったかいうちに、って昼休みにタイヤを交換しに家に帰ったりする人もいた。
 結局、屋根の上は白くなったものの道路、特に幹線には積もらなかったので、夏タイヤのままの俺も無事に帰宅することができた。
 今のところ秋田市では、はっきりとわかる雪はあれと先週だけである。したがって、依然として自転車通勤中。
 通勤は朝と夜に行うものだから当然、寒い。よく「耳がとれそうだ」なんて言ったりするのだが、その辺のパーツの話。

 まずは、その「耳」。
「耳」自体の俚言形は見当たらない。
 体のパーツは、「耳」や「手」など俚諺形のない (「ない」と断言するのは問題かもしれないが、とりあえず) 語と、「頭 (津軽の『じゃんぼ』)」「目 (秋田の『まなぐ』)」など俚諺形があるものとに分かれる。この違いについて調べてみるのも面白いかもしれないなぁ。
「耳たぶ」は、『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』によれば「みみたっぷ」「みみたんぽ」。前者は「耳たぶ」と同じものだろうが後者はどうだろう。まずは同形と見ておこう。まさか「きりたんぽ」と関係はあるまい。「きりたんぽ」にしろ、その元になった「たんぽ (練習用の槍の先っちょについている綿)」にしろ柔らかいものではあるが。
「耳たぼ」という意見もあるようだが、これは辞書に載ってるらしいので、ひとまず除外。
 九州方面の「みみんは」「みんのは」の「」は「端」だと思うのだがどうだろう。
 同じく九州で「みみのす」「みみんす」は「耳の穴」。人の話を聞くときにかっぽじるところ。どうやら「」は穴のことらしく、「鼻の穴」は「はなんす」になる由。
 それより、これを研究した人がいる。
 法水正文という人で、『耳垢の方言―全国通信調査による300余の語形とその分布について』という本が出ているようだ。どうも耳鼻科の先生らしい。
 この本は未見だが、確かに耳垢のバリエーションは豊富のようだ。
やちみみ」は「谷地」で、秋田市にも「西谷地」という地名があるが、「谷」でわかる通り、水の染み出す低湿地のことである。当然、「やちみみ」も湿った耳垢のこと。
ねこみみ」という言い方をするところもあるらしいのだが、これをググると「萌え」系のページばかりがヒットする。条件を変えても一向に求めるものに行き当たらないので、探索断念。

 既に出てしまったが、「鼻」。
 これも、「鼻」そのものの俚諺形は見つからなかった。
『秋田のことば』では、「鼻が低い人」ということで「はなびちょ」「びしぱな」が見つかる。『語源探求 秋田方言辞典 (中山健、秋田協同書籍)』とあわせて読んでみたが、どちらも「ひしゃげる」らしい。単に鼻が低いのではなくつぶれた感じである。擬態語なので「鼻ぺちゃ」と同じと言ってもさほど外れてないのではないだろうか。
「鼻の穴」は、「はなんす」のほかに「はなめど」がある。「めど」が穴で、まぁ、「けつめど」なんて語もある。
 面白いのは徳島の、「鼻がいる」で「夢中になる」という意味の表現。確かに、興味があるときに突っ込むのが鼻だからな。詳しくは、四国放送―「おはようとくしま」―「仙波教授の阿波弁講座」の記事
 気になったのは、どうもネット ジャーゴンがあるらしい、ということ。中学生のことを「厨房」と呼ぶあれと似たような感じで「鼻がいる」というのが見つかった。どうも、「鼻」である種の人を指しているようなのだが、意味がつかめなかった。
 ネットではこっちがほとんどで、逆に言えば、徳島弁の「鼻がいる」は、その記事にもあるように、ほとんど使われていない、話題になることも少ない、ということなのだろう。
つっぺかる」は北海道で、本来は「栓をする」という意味だが、これを鼻に当てはめると、鼻血などのときにティッシュを突っ込むことを言う。あれ、本当はいけないんだってね。首筋をトントンとやるなどもってのほか、だそうな。
 山陰では、鼻をかむことを「すむ」「しゅむ」と言うらしい。字はわからんが、それを言ったら、「かむ」だって不明だ。[才鼻][才夷] らしいんだが、表外字。

 というわけで耳と鼻だけで紙面が尽きた。ほかに指先とか首筋とかも考えていたのだが、それはまたいずれ。




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