Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第630夜

『篤姫』終了



 NHK の大河ドラマ『篤姫』が終了した。
 惜しくも 30% には届かなかったのだそうだが、平均視聴率もここ十年で最高の数字だったらしい。鹿児島では 50% 近く行ったと言うし、DVD-BOX 発売決定もいつもより早かったのだそうで、その人気のほどがわかる。
 それにしてもその DVD-BOX、上下買うと 9 万円。売れるんだろうなぁ…って、「帰ってきたウルトラマン」に 4 万つぎこんだ奴が言うことじゃないな。

 話題になったのは、篤姫はじめ島津家の人たちが薩摩弁を使わない、ということ。主役の言うことがわからないとドラマの進行に支障をきたすし、イメージの問題もあるだろうから (西郷隆盛はいいが、薩摩弁の島津斉彬は想像しづらい) 俺はそうも思わなかったのだが、気になる人はかなりいたようだ。
 それには、NHK の FAQ が答えている。それはつまり、質問した人がいた、ということだが。
 どうやら薩摩藩の武士達は「標準語」を話していたらしい。25 代・島津重豪 (しげひで) が「薩摩ことばを出来るだけ使わないように」という通達を出しているのだそうだ。
 ほかの藩主達がどうだったのかはわからないが、先見の明というか、最初っから打って出るつもりだったんじゃないの、と思わせるエピソードである。

 そういえば、藩主達は結構、お国替えとか転封とかあったはず。転勤と言うより、会社の移転に近いような気もするが、そういうとき、言葉遣いってどうだったんだろうね。
 どこの藩も薩摩と同じように標準語使用命令を出してたのか。
 地元と、江戸に出たときでも違うかな。江戸で仕事してると自分の方言ってわけにはいかないだろうし。地元では、慣れるまでは自分の方言を使いまくってたりしたんじゃないかな。なんせ権威しょってるし。

『篤姫』に戻る。
 FAQ と同じことを、「薩摩ことば指導」の西田聖志郎氏が新聞に寄稿している。
 準備期間も含め、一年以上、『篤姫』に向き合う生活なのだそうだ。
 考えてみりゃ、週に一本ってすごいペースだよな。
 その記事にはおおまかなスケジュールもあるけど、45 分番組だからって、作業が 45 分で終わるわけではない。倍なんてものでもないわけで。
 脚本を上げていく田淵久美子もすごいけど、翻訳するべき個所を見極めて、年齢や性別を考慮しつつ翻訳する、って作業も半端じゃないよな。
『篤姫』であったかどうか覚えてないけど、普段は標準語だけど、あるときだけポロっと方言が出てしまった、なんてのがあったらそれは翻訳というより演出の作業。現場で直すこともあるんだろうし、役者以上に大変かもね。

 あんまり出番がなかったかもしれないが、土佐弁にも指導の人がいる。
 その岡林桂子氏の場合、「ハルウララ」という映画でのエピソードが紹介されている。撮影中は役者自身も張り詰めている。そこに方言指導で口を挟むのには、かなりの気遣いが必要なのだそうだ。

 前に堀井令以知氏を大河ドラマの常連と書いたが、この二人と、京ことばの指導をした井上裕季子氏も常連らしい。ググると色んなのに出てることがわかる。
 堀井氏以外は三人とも役者。「スイングガールズ」でも役者の眞島秀和氏が方言指導をしているが、「ハルウララ」のエピソードを読むと、役者であるということには、「ついで」以上の意味があるのかもしれない。

 色んな指導役がいるもんで、囲碁指導には梅沢由香里氏。
 ホームページによれば、やっぱりそれぞれの実力がどれくらいかを考えた上で、配置を決めてたらしい。袖がぶつかるとか、片付けるシーケンスが絵にならないので配置を変える、とかいうこともあったそうだ。

 明治維新といえば、薩長土肥。
 群像劇ではなく篤姫が主人公だったせいか薩摩の連中は一杯いたが、土佐は坂本龍馬だけ。まぁ、後藤象二郎も中岡慎太郎もいるにはいたけど。長州も、木戸孝允は何回か出てたが、基本的には薩長同盟のときに顔を出したくらいでほとんど台詞無し。まして肥前をや。
 思い切った切り方をしたもんである。したがって方言指導も必要なかったわけだが。

 おそらく収録が始まってすぐの頃、宮崎あおいが、自分は童顔だから少女時代はそれほど無理なくやれると思う、と言っていた。
 それはまぁその通りなのだが、後半はどんどんと風格を増して凛々しくなり、最後数話はずっと見惚れてるって感じになってしまった。
 最終回は知っての通り、第一話のシーンが挿入されるのだが、その成長というか差にはやっぱりびっくりする。一年という長い期間であったが、あれだけの幅を持っているということが、彼女の評価の裏づけの一つなのだろうな。

 俺の手元にある作品は「ケータイ刑事 銭形愛」と「パコダテ人」だけだが、これに総集編が加わる予定。
 いや、さすがに DVD-BOX は買いませんって。金額もそうだけど、45 分×50 話=37.5 時間。そうそう見返せる量じゃありませんぜ。




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