Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第631夜

雑誌から



 さて、歳が変わったところで早速、昨年を振り返ってみたい。
 つっても、別になんかを定点観測しているとかいうわけでもない。年末年始に多い、雑誌から拾った話題。

日本語学』が面白い連載を始めている。
「無アクセント地域からアナウンサーに」というもので、タイトルの通り、無アクセント地域出身でアナウンサーになった人たちが文章を書いている。4 回が終わったところだが、宮崎、栃木、佐賀、福島と続いている。
 何回か書いたような気もするが、改めて解説すると、日本語でアクセントによって語を区別しないパターンには二つある。一つが、この連載のタイトルになっている「無アクセント」、もう一つが「一型アクセント」である。
 前者は、アクセントの型が決まっていない。その時々で高低が変わるため、アクセントが語の弁別に寄与しない。「崩壊アクセント」とも言う。
 後者は「いちがた」ではなく「いっけい」と読むのだが、アクセントの型が一つしかない。常に同じパターンで発音されるため、やはりアクセントでは語を識別できない。
 この連載は、それをまとめて「無アクセント」と読んでいるようだ。
 それぞれ相当に苦労しているようで、最初の杉尾宗紀氏は、自分の方言から共通語への翻訳ではなく自分の中から直に共通語アクセントがでてくるようになるまで 10 年かかったというし、中村宏氏はニュースをひたすら真似て練習、佐賀出身の二宮正博氏は現在、福岡にいるが、周囲の環境に引きずられて故郷のアクセントに戻っている様な気がする、と書いている。
 彼らに限らず NHK のアクセント辞典を持ってる人は多いのだろうが、用言は終止形しか載っていない。一つの動詞でも活用形によってアクセントは変わる。
 たとえば「食べる」は、終止形は「食る」だが、連用形で「た」に接続すると「べた」になる。
 こういうのはまとめて巻末に載っているらしいのだが、それを調べずに済む方法を中村氏は見つけている。
「ます」をつければいいのだそうだ。「ます」が接続すると、アクセントは「ます」に支配され、どの動詞でも「食べます」「見す」の型になるらしい。
 また、最初の音が高い場合は必ず二音目で下がる (「雨」)、最初の音が低い場合は二音目が上がる (「飴」) などの法則を中村氏は発見している。疑問詞 (「いつ」「どこ」「なぜ」) が頭高である、というのは俺も気づかなかった。耳立たせる必要から生じた形だろうか。
 石川循一氏は早い時期から、自分の言葉と共通語とが違う、ということは認識できていたらしい。鼻濁音を含め、その違いを区別できない人もいたらしいから、それは大きなアドバンスであろう。
 この人の文書は、これまでの人のものとは違い、福島出身であることから、周りからアクセントを信用してもらえなかった、ということに紙幅が裂かれている。

 さて、『言語』の方。
 一月号で真田信治氏の「東アジア残留日本語のダイナミクス」という記事が掲載されている。戦前・戦中に日本語を習得した人たちは今でも日本語を使えるそうで、その報告である。
 台湾の日本語は西日本の特徴が濃いのだそうだ。昭和 10 年当時は、台湾在住の日本人の 44% を九州で締めていたらしい。反対に、樺太では北海道・東北で 77% だそうで、当然、その地域の特徴が残っている。
 ほかに朝鮮半島の様子もあるのだが、英語が経験したのと同じような単純化が観察されるらしい。で、それが現在の日本でも進行している。
 つまり、使用範囲 (地理的なものに限らず) が広いものである限り、言語の単純化、変化は避けられない、ということである。

 続く、宮元正興氏の「『ことば喰い』と『難攻不落』の言語」も興味深い。
 タンザニアで、スワヒリ語の位置が後退しているのだそうだ。代わって強くなっているのが英語だ、と言えば、よくあるグローバリゼーションかと思うが、話はそう単純ではない。
 タンザニアには 110 の民族言語があるらしいが、それを飲み込んでいるのがスワヒリ語である。民族間の共通語としてのスワヒリ語だが、その成長 (つまり民族言語の衰退) を支持する声もある。
 言語とイデオロギー、あるいはアイデンティティとは深い関係がある。権威を振り回し人の言葉遣いをコントロールしようとする「正しい日本語」教を俺が毛嫌いするのはその辺もあるのかもしれない。

 亀井肇氏の「新語・世相語・流行語」に「ドデンマン」が紹介されている。これを読むまで知らなかったのだが、ロッテのお菓子「ビックリマン」の秋田版らしい。作っているのは、いつぞやも紹介したポルカ舎
どでん」は「びっくり」てな意味で、「どでする」「どでこぐ」などと言う。「動転」だと思われる。

 というわけで、2009 年スタート。
 どんどん中身の薄くなっていくこのホームページを今後ともよろしく。




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