Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第415夜

服飾と社会



 こないだ、ちょっと過去の出来事を確認していて気づいたのだが、俺が今の会社に入社してからの期間の内、今の職場にレンタルされている期間が、半分以上を占めていることが判明した。現地作業というのも含めあちこちに出されているので「籍はあるが席がない」期間が半分以上だということはわかっていたが、この職場だけで半分とは思わなかった。

 その職場は、今年になってからドレス コードが変わって厳しくなった。時代に逆行、技術者が大半という職場で、通勤中も含めポロシャツ禁止なんて言い出すとは思わなかった。大丈夫かよおい、って感じである。どうやら上の方に、ネクタイをしないと仕事モードに入れない、自律能力の低いのがいるらしい。
 悪法も法なり、しょうがないので、不要な出費だとは思いつつイトーヨーカ堂で色々と買い込んだのだが、寒くなってきたので夏物をしまったところ、ズボン (「ボトム」って言うのか?) が青系しか残らなかった。配色を間違ったらしい。慌てて買い足したのだが、これこそ不要な出費以外の何者でもない。我ながら情けなかった。
 店内を見渡したら、「どんぶぐ」があったのでびっくりした。綿の入った厚手の半纏。「綿入れ」とも言うが、これが紳士用品の隅っこに並んでいるのは、なんとも言えずほほえましいと共に、かなりの違和感があった。さすがに秋田店というべきか。

「どでら」なんて言い方もあるようだが、俺にとっては理解語彙止まりである。
 なお、大辞林では「どてら」を「『ててら』の転」とし、「ててら」も「襦袢」「ふんどし」ということで立項してあるが、元がなんだかの解説がない。どことなく外来語っぽい響きだ。
「ちゃんちゃんこ」は、ゲゲゲの鬼太郎の連想か、薄手のもの、というイメージがある。大辞林は、多くは綿入り、としているが。

 今、使っているどんぶぐは 2 代目である。ずっと読んでる人なら、俺の年齢がどの程度か、というのは大方の見当がついていると思うのだが、それで 2 代目、である。
 とは言っても、初代は高校生の頃までで、上京したときに一時、着なくなった。どうしたんだっけなぁ。トレーナーを重ねてたような記憶はある。
 今の 2 代目は、朝霞市に住んでたときに買った。いやぁ東京 (埼玉だが) にもあるのか、と思ってその驚愕半分で買ったもの。

 と、ここまで書いて思ったのだが、ひょっとしたら途中にもう 1 つあって、今のは 3 代目なのではないか、という気がしてきた。

「半纏」は、函館で「はんぢじゃ」、福島で「はんきり」、富山で「ばっとこ」と色々ある。寒いところでは重要な着物のようだ。

 これが「丹前」になると足元まで来る。だから、仮に室内であっても、あんまりこれを着て歩く人はいないと思う。寝起きとか、風邪引いて伏せってるときとか位じゃないかなぁ。大辞林は、これも「どてら」に含めている。
 これは布団の下で着る。肩まですっぽりで暖かい。

 さて、「着る」と書いた。
 袖のあるものだが、袖に腕を通さずに、上からかけるだけ。仰向けでそんなことしたら襟が首を圧迫する。背広を前後逆に着たのと同じだ。
 かけるだけでも「着る」と言う。
 では、布団はどうか。
 主に中部以西のようだが、布団についても「着る」と言うようである。
 まぁ、なんとなく理解はできる。
 服部嵐雪という人の俳句で、「布団着て寝たる姿や東山」というのがある。

 これはどうだろう。
 
 まぁ、形態は布団と似てると言えないこともないが、ちょっと違和感はぬぐいがたい。でも、そう言う地域はあるのだ。
 ググってみたら、「もしかして:傘を切る」と表示されているのでびっくりした。Google の方で、「傘を切る」と間違ったんじゃないの? と指摘してくれているわけだ。いつのまにそんな機能が。
 でも「傘を切る」も不自然さではさして変わらないと思うぞ。
「かさにきる」という表現はあるが、この「かさ」は「笠」で、「きる」は「着る」。手で持たないで体にくっつけるので、「着る」でも、「傘」ほどの違和感はない。

 ルールでは、ネクタイ着用義務はない。
 が、ドレス コードみたいに明文化できないルールの場合、ある服がダメなのかどうかは、着て行って怒られてみるまでわからない。背広で行っておけば間違いがない。怒られて、契約を切られる口実を用意してやるわけにはいかん。
 まぁ、こういう自己防衛によって社会が狭苦しくなっていくのだ、というのは事実だが、世間一般では、金を出す方がえらいことになっているので、レンタル組はそっちに傾かざるを得ない。
 田舎者が、都会で標準語もどきを使うのと、ちょっと似てるかもね。




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