Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第616夜

誰も寝てはならぬ



 俺は本を読む人間だと思われているようだが、そうでもない。いや、よく見かける読書時間のアンケートなんかで出てくる平均値よりは長いけど、読書家です、と胸をはれるほどではない。
 にも書いた様な気がするけど、昼の休み時間に寝るようになってから激減。グイン・サーガは一時間あれば読みきれるんだけど二日かかるようになっちまった。最近は更に、職場での自転車置き場を確保するために早めに出るようにしてるから夜の寝つきもいい。更に減る。
 本はオンラインで注文することが多くなったし、まぁそれには田舎の本屋に品揃えを期待してはいかん、ということでもあるのだが、探すというのではなく、店頭をぶらぶらするということも減ったおかげで、大事なものを見落としていた。
 サラ イネスの新刊が出ていたのだ。
 にこの人の『大阪豆ゴハン (この頃は、サラ・イイネスという名前だった)』というマンガを取り上げたことがあるが、『誰も寝てはならぬ』というシリーズが始まっていて単行本になっていたのだ。1 巻が出たのは 2004 年、遅れること 4 年で 6 巻まで一気に買った。それ以降は店頭とかネット上の情報に注意するようになったので、コンスタントに入手できている。3 巻連続のキャンペーンもはられていて、売れているようである。

 舞台は赤坂のデザイン事務所だが、主人公の二人が大阪出身なので、作品中では例によってディープな大阪弁が飛び交っている。
『大阪豆ゴハン』ではナレーションにあたる部分は標準語だったが、こっちではそれも大阪弁になっている。
 そういえば、この文章を書くに当たってネット上の文章をいくつか読んでみたのだが、このナレーションの部分を「字幕」と読んでいる文章が多いことに気づいた。
 確かに、それっぽい感じがないことはないが、テレビや映画の「字幕」が補助的なものであるのに対して、マンガの文字部分はそれがないことには話が理解できない。翻訳字幕も、それがないと我々は理解できないのだが、それは外国人たる我々だけの話で、オリジナルから見たら補助であろう。

 あ、そのナレーション部分や台詞が活字になっているのはちょっと驚いた。らしくない、とか思ってしまった。

 大阪弁語彙については『大阪豆ゴハン』の書いた。
 やっぱり気になるのは「〜しながら」という意味の「もって」である。この人の作品以外では耳に (目に) することのない表現だ。聞くところによると、古い表現だ、というような説もある。でもその割に頻繁に見るなぁ。
 もう一つ気になるのは「〜やん」。『豆』のときには「承知しやへんで」という形を取り上げたが、たとえば、「早よ帰って寝やんと」「慣れやんとアカンのかい」という風に使う。ちょっとニュアンスがわからん。
 と思って Google にぶちこんで見たら、それについて質問を発している人が結構いることがわかった。やっぱり微妙すぎてわかりにくい表現なんじゃないだろうか。
おってやで」というのもあった。「ここにいるよ」という意味なのはわかるんだが、ニュアンスはどうなの。

『誰も』を取り上げている文章は大概、大阪弁にも触れている。
 その多くが「コテコテ」「ベタベタ」「バリバリ」と表現している。
 前に「ボテボテ」と表現したが、なぜ大阪弁はこういう形容をされるのだろう。まぁ、「バリバリ」は「丸出し」「満載」などと同系統の表現だろうから別として、さらに「ベタベタ」は「そのまま」というようなことだと解釈するとして、「コテコテ」「ボテボテ」は詳しく言うとどういう意味でどういうニュアンスなんだろうね。いや、見当はつくんだけど、なんで大阪弁は「コテコテ」であり「ボテボテ」なのか、と。
 また Google 頼みになっちまうんだが、やっぱり「ボテボテの秋田弁」という表現は見つからなかった。「コテコテ」はあった。津軽弁、京都弁も同様。ひょっとしたら「コテコテ」は「ベタベタ」というような意味なんだろうか。あるいは、「ボテボテ」が大阪そのものをさすのか。
 この辺り、研究してみると面白いかもね。あるいは、各地の方言のイメージを表す擬態語とか集めてみてもいいかも。
 なお、作品そのものについては「グダグダ」「まったり」という表現が見つかった。これが決してケナしているのではない、というのがこの作品の特徴、つか特長。

 方言ではないが、「ガススタ」という単語も出ていている。ガソリンスタンドのことだ。
 面白い形だよね。後半は「スタンド」をぶっつり切ってあるのに、前半は「ガソリン」が「ガス」。英語では“gas station”なのだが、それを真似た?
 Google は「ガソスタ?」と聞いてくる。

 サラ イネスについては、『豆』終了後に毛色の違うマンガを描いていたような記憶がある。大学教授かなんかが登場して、なんだか乗り切れない感じがあったのだが、話を聞かない。
 と思って調べてみたらファンサイトがあって、それによれば『月は見てたぞ』か『そのワケは。』のどちらかのようだ。
『豆』の文庫が出てるとは知らなかった。書下ろしもあるらしい。このままだと注文してしまいそうな気がする。




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