Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第17夜

豆ゴハン



「週刊コミックモーニング」に連載されている「大阪豆ゴハン」という漫画がある。
 大阪市内の大きな、しかし古い屋敷に住んでいる一家を主人公にした話で、単行本もかれこれ 8 冊出ている。俺は大好きで全部持っているが。
 で、この作品、当然のごとく大阪弁が乱舞している。TV ドラマで言えばナレーションにあたる作者の言葉以外は、基本的に大阪弁である。

 大阪弁は、ドラマや寄席芸人の言葉などで、全国的な理解度はかなり高いと考えられる。
 多少のすれ違いはあるにしても、多分、大阪の人は全国どこに行っても大阪弁で通すことができるだろう。実際、やっている人も多いと思う。逆に、大阪出身ではない人でも、胡散臭いながらも、大阪弁風にしゃべることはできるだろう。
 しかし、ドラマの方言が嘘くさいものであることは、我々東北の人間は身に沁みて知っている。それに、一口に関西の芸人と言っても、全員が大阪出身ではないから、それを捉えて、これが大阪弁である、と考えるのは問題であろう。何かで、「明石家さんまの言葉が大阪弁だと思って貰っては困る」という意見を耳にしたことがある。彼は奈良出身の筈だから、正調の大阪弁ではないのであろう。

「大阪豆ゴハン」には、我々が耳にすることのない大阪弁が登場する。

 例えば「もみない」。
 これなどは、「ボテボテの」大阪弁だそうだが、実は古語辞典を引くときちんと載っている。由緒正しい単語なのである。意味は「おいしくない」。

 あるいは「〜もって」。
「ほなら、うどんでも食いもって考えよかー」という風に使う。「〜しながら」という意味で、こ の文は「じゃ、うでんでも食べながら考えましょう」となる。

 しかして「ちょけた」。
 安物の、どうでもいいような、すぐに壊れそうなものを指すらしい。

 はたまた「つぶれてる」。
 これは、「壊れている、故障している」。外見は問わない。象が踏んだ、ということではない。

 さりとて「ドッチコッチ言わん」。
どっちもたいした変わりがない」。言われればなるほど、だが。

 もう一つ「間ンの悪い」。
 関西方言には、1 音節の単語が 2 音節になる、という特徴がある。「気づかない」が「気イつかん」となるように。
 で、「間が悪い」というとき、「間」も 2 音節になる。我々がマスコミから得た知識で考えると「間アの悪い」かと思うのだが、「間ンの悪い」となるのが、「ボテボテ」らしいのだ。

 こういうの、聞いたことありますか?

 最後に「しやへん」。
「承知しないぞ」を「承知しやへんで」という事もあるらしい。ニュアンスの違いは、よそ者の 俺には分からないが、前後関係から考えて、強調しているようだ。若干、興奮しているとでもいおうか。使い方から考えて、女性の表現かもしれない、という感じもする。

 口が酸っぱくなるほど言ってきたが、方言は「生活の言葉」だ。
 別の言い方をすれば、よそ行きの言葉ではない。その地域の住人でない人と話すときには使いにくい。
 東京在住の折、よく「ねぇ秋田弁使ってみてよ」と言われたが、それはちょっと無理な注文なのである。
 方言の調査などでも、ここが問題になる。余所の大学から調査にきたぞーと身構えられてしまうと、実態を正確に反映した結果が得られない虞があるのだ。

 そこで、こういう風な、ネイティブスピーカーからの情報が重要な意味を持つ。
 真意をご理解いただけますでしょうか。

 作者のサラ・イイネスさん、期待してますよ。
 松林もいいけど、大清水さんが好きです。



補足:このマンガは、1998 年に連載終了している (000423 追加)


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