Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第105夜

さらば豆ゴハン




 ちょっとに、「大阪豆ゴハン」という漫画の連載が終わってしまったらしい、という
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話をした。実はあの直後に、最終巻を見つけてしまったのである。つまり、本当に終
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わっていたのだった。最終巻が出た、ということは最早、次はない、ということだ。
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 悲しい。


 この漫画は、題名が如実に示す通り、大阪が舞台になっている。
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 方言が堂々と使われている漫画ってどれくらいあるだろうか。


 「博多っこ純情(長谷川法世、双葉社)」「ぼっけもん(いわしげ孝、小学館)」「じゃり
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ん子チエ
(はるき悦巳、双葉社)」あたりはメジャー作品で、今更、解説もいらないだ
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ろう。「博多っこ純情」と「じゃりん子チエ」は映画にもなっていなかったか。
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 最近のでは、「エデンの東北(深谷かほる、竹書房)」が注目を浴びているようだ。
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 モーニング(講談社)誌では、終わってしまったが「ナニワ金融道(青木信二)」が、
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ネタがネタだけに各方面で話題になったし、「クッキングパパ(うえやまとち)」も有名。
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これは、福岡が舞台で、多くの登場人物がご当地の言葉を使っているが、なぜか主
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人公一家は標準語。小品だが「3年目の田中さん(英恵)」というのもある。これは名
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古屋の「ドターケ」OLが主人公のギャク4コマ。
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 「クレヨンしんちゃん(臼井儀人、双葉社)」は舞台が埼玉県春日部市だったと思う
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が、方言は出てきてないようだ。父親は秋田県大曲市付近の出身らしいが、秋田弁
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は出てきたっけ? 作者は静岡出身だそうだ。
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 楠桂の「恋してフローズン集英社)」という作品は、雪女が題材のコメディだが、秋
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田弁がかなり出てくる。母親が秋田出身だとかで、校正は受けているらしい。
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 4コマでは、いしいひさいち(岡山)が大阪あたりを舞台にした作品を多く発表してい
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るし、丹沢恵(大阪)の「ごめんあそばせ(竹書房)」は大阪出身で東京在住(多分)の
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OL2人が主人公。
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 ギャグ漫画では、作者自身が出てきて出身地の方言でしゃべったり、ボケに対する
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突っ込み
が方言であったりする。
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 登場人物の出身地として、作者自身の出身地を取り上げることも少なくない。
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 作者が方言だとは気づかずに使ってしまう方言も時々見られる。担当者も気づかな
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かったのか、持ち味としてそのまま通したのかは分からない。
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 あんまり漫画を読まない俺でもこれだけ出てくる。


 その理由を考えてみた。
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 方言が必然的に登場する、というのは、そういう地域が舞台になっている、ということ
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である。
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 例えば歴史物だと、戦国武将を主人公に据えたりすれば、当然、その地域の言葉を
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使わざるを得ないわけである。この辺の事情はTVドラマも一緒だ。尤も、「〜だがやー
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とか言っている織田信長も、「〜だっちゃねー」と言う伊達政宗も見たことがないが。
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 不思議に、西郷隆盛は「〜でごわす」で、坂本竜馬は「〜だぜよ」。この辺は、時代が
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近いかどうかも関わってくるのだろうか。
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 下っ端は方言で、権力者は標準語か? 公家は京言葉(というよりは公家言葉、御所
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言葉か)が多いようだが。


 印刷媒体の特性で分かるまで読み返せるし、欄外に注釈を置けるので、非ネイティブ
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には理解しにくい「ボテボテ」の方言を使い易い、というアドバンテージはありそうだ。


 TVドラマに比べて、淡々とした日常生活を描きやすい、という点も言えるように思う。
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刺激の多い都会を舞台にする必要が無い。「大阪豆ゴハン」「エデンの東北」などは、ま
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さにこのタイプの作品であろう。
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 大きな事件も修羅場も無いTVドラマというのは、特に最近は存在しにくいような気が
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するが、どうだろう。


 秋田出身の漫画家というと、ベテランでは「釣りキチ三平講談社)」の矢口高雄、ドラ
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マ化された「味いちもんめ小学館)」の倉田よしみが思い浮かぶが、他の方について
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は、寡聞にして知らなかった。森村大とか、結構、好きな作家もいたので、自分の不勉
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強がショックだ。
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 詳細は、漫画家マップを見てもらいたい。労作である。


 「大阪豆ゴハン」は、主要な登場人物については色々と解決して終わったわけだが、あ
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の「東洋一の外食魔」の野元サンはどうなったのだろう。後半、あんまり出番が無かった
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が、その後、痛風になったりしてないだろうか。
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 また、別の作品で会いましょう、サラ・イイネスさん。



余談:秋田県増田町に「まんが博物館」というのがある。常設展示はタダらしいので、な
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 にかのついでにでも寄って見て下さい。詳しくは、こちら



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第106夜「五段動詞−秋田弁講座プロジェクト」

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