Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第565夜

言語楽さんぽ



 井上史雄氏が『日本語学』に連載している「ことばの散歩道」をまとめたもの。
 出たのは 4 月だが、ここまでずれこんでしまった。
 残念ながら田舎の本屋に並ぶような種類の本ではないからオンライン書店で注文することになる。この場合、送料がかかるので欲しい本が溜まるまで待つ。
 で、我ながら問題だと思っているのだが、最近、会社で昼寝をする癖がついてしまった。一時間の休みの内、20 分、長ければ 30 分近くも寝てるので、読書時間が大幅に短くなった。勢い、注文できる冊数になるまでにも時間がかかる。
 というわけでこの本が手元に来たのはお盆前。やっとたどり着いた、という感じ。

方言観察
 氏は方言グッズ コレクター (?) としても有名である。山口で、方言を名前にした駄菓子を見つけたときのことが紹介されている。
 俺も今年の春に三本木の道の駅で方言せんべいを見つけた。袋に入ってて、どうやらせんべいの一枚一枚に方言が印刷されているらしい。南東北版とか書いてあったと思う。フーンと思うだけで買わなかったのだが、この辺が俺の弱いところだ。あ、と思ったのは家に帰ってから。
 でも、石ノ森章太郎ふるさと記念館の売店にあった『宮城県北方言の語源』という冊子は買った。まだ読んでないけど。
 ちょっと「方言せんべい」でググったが、名古屋と新潟のものについてはいくつかの場所で話題になっている。俺が見た奴の雰囲気は新潟版に近い。名古屋版はちょっと高級そう。

新方言気持ちい
「きもちい」という形容詞について。
 意味は「気持ちいい」で、間違いなくそれを短縮したものだと思うんだが、たとえば否定の時に「きもちくない」と言う。紛れもない一語の形容詞。
 そのエピソードが掲載されたのは 1999 年で、その時点では goo で一例、という状態だったらしい。今は、Google で 12 万件、カタカナにすると 1 万件。「きもちくない」が意外に少なくて、1,600 件。
 これですごいのは、語が語だからだと思うんだが、エロ系ページがものすごく多いこと。会社でこんなことする人がいるかどうかわからないが、フィルタリング ソフトなんか入れてたら検索結果のページ自体が引っかかりそうな勢い。うかつにクリックしたらウィルスくらいかねん。
「気持ち悪い」が「キモい」で、「気持ちいい」が「キモチい」という非対称性について文句を言っている人もいる。これは発生した順番の問題と、「キモチワルイ」と「キモチイイ」とでは、どっちがより略したくなるか、という語形の問題ではないだろうか。おそらく「キモチい」には、そういう風に字で書くようになる前の段階として、そう言う風に発音するという段階があったと思う。
 白状すると、俺がこの表現に気づいたのは今年の頭。「激獣戦隊ゲキレンジャー」にて。南海の孤島 (?) で一人で生きていた野生児が使っていたので幼児語を引っ張ってきたのだと思っていた。まぁ、こういう告白は、色んな意味で恥ずかしい。

大名調査
 方言調査には俺も一度参加した。
 と言っても、手順、覚えてないなぁ。
 JR の各駅を中心に、10 代から 70 代まで一人ずつ、その辺りの顔役の人に事前に選んでもらって、というのは覚えているんだが、実際の時間ってどうやって決めたんだっけか。
 地域も覚えていない。東海道線だというのは確かで、名古屋まで行って東に戻った、って感じだったかなぁ。豊橋近辺か。
 すごかったのは、その家に行ってみたら引越しの最中だった、というもの。どう考えたって調査に協力してもらえる状況じゃない。でも、何も言わないでいるのもそれはそれで失礼だと思って、一応、声はかけた。それでちょっと話をしたのだが、この辺の言葉は東京と同じだよ、と言われた。
 あのあたりでは、そういう意識を持っている人は多いようである。

 方言から離れる。
 こないだ、コミュニケーションにおいて言葉そのものが果たす役割は 10% 程度だ、という話をしたが、たしか外国語学習者のエピソードを最近、読んだ、と思って『言語』と『日本語学』をひっくりかえしたのだが見つからなくてあきらめた。
 雑誌じゃなくて、この本だった。「映画ポリグロット」という節。
 ビルマ語専攻の学生がミャンマーに行き、しばらくしてから映画を見たら話がよくわかったので、実力がついた、と喜んでいたのだが、習ったこともないヒンディー語の映画を見たらそれもよくわかってしまった、というエピソードがある。

 Amazon の書評では、読んでいると吹き出してしまうことが多いので電車の中では読めない、とある。ある意味、最高の賛辞ではあるまいか。

言語楽さんぽ
明治書院




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