Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第566夜

県都検討



 久しぶりに、地名がらみの話をしてみようと思う。

 まずは「県都」。
 最初に取り上げたのは 99 年の 3 月だった。
 そのときは、用例はあんまりなかった。一部では、「県都」なんて言葉を使うの秋田だけじゃねぇか、とまで言われたくらいである。
 99 年の文章では、秋田市秋田県の人口の 30% 弱を占め、まさに県の中心であることから使われるのだろう、とした。青森山形のように県庁所在地に人口が集中していないところでは使われていない、というのが根拠だった。
 Wikipedia は、人口の集中が進んで都市としての風格が出てきたことが、「県都」という言葉が使われるようになった理由だろう、としている (「都道府県庁所在地」)。
「道都」はあって、大阪では「府都」と言うそうだが、京都では言わず、また「都都」もないらしい。
 なお、この記事は、県庁所在地より人口の多い市、とかあって、読んでみると面白い。
 ちなみに、Google で「県都」を探すと、77 万件もヒットする (ただし、「宮崎県都城市」なんてのも含まれる)。

 次、かねてから気になっている「鹿県」。鹿児島県のことで、どうも、鹿児島県内でのみ使われる形のようである。
 これは 02 年の 9 月に紹介したことがあるが、現在の Google では 4.5 万件ほどヒットする。ざっと見たところ、鹿児島県内ユースであることに変わりはないらしい。
 ニュース記事での使用が目立つが、個人のブログでも使われている。そういう人たちって、どうやって入力するんだろ。「しかけん」とかやってる?
 都道府県の中では最も長いものの一つだから、省略したくなる気持ちはわかる。だが、前にも書いたとおり、神奈川和歌山もそういう省略形を使っている様子はない。なぜ鹿児島だけが、という疑問があるわけである。
 あるいは、長さとは関係ないのだろうか、と思って試しに「秋県」を検索してみたが、これは「秋の県大会」がヒットしてしまう。また、「秋田県立大学」の省略形「秋県大」などもあり、ノイズだらけのため探求断念。
 ほかの二文字県名も入れてみたのだが、どうもタイプミス (というか誤削除) との鑑別ができず、どうにも心もとない。たまにあったと思うと県発行の公文書の番号だったりする。
 厳密には、「和県」や「神県」もないわけではない。だが、臨時の省略形や、ニュースの見出しにだけ出てくる形のことが多く、文章中にもバンバン出てくる「鹿県」とは使われ方が異なる。
 なお、「神県」はどういうわけか、コンサート情報で、「神奈川県民ホール (会館)」のことをさしている例が多い。
 長さだけで言うなら、これまた Wikipedia の情報だが、日本で一番長い市名は茨城の「かすみがうら市」「つくばみらい市」と、鹿児島の「いちき串木野市」だそうである。だからといって、これらの市が「か市」「つ市」「い市」と呼ばれているとは思えない。
 町で長いのは「富士河口湖町」、村では秋田の「上小阿仁村 (かみこあにむら)」ほか 5 村がある。
 こういう風に分解可能な名前はおそらく省略のしようがない。俺も、「上小阿仁」の省略形を見た記憶はない。あるいは、表やなんかの中に詰め込む場合で誤解の可能性がなければ、「上小」ということはあったかもしれない。自信ないけど。
 分解できる場合、分解要素の頭だけを組み合わせる、ということはあるのかもしれない。「富士河口湖町」を「富河」とか (同じ山梨の南部町にそういう地域があるようだから、これはないとは思うが、例として)。
 県、あるいはその前身の藩のなりたちや、名称の由来と関係あるのかとも思ったが、関連は見当たらず。

 長い地名には例の市町村合併も絡んでくる。
 もし実現していれば、「南セントレア市 (愛知県知多郡美浜町南知多町)」が文字数でも読み仮名でも最も長い、ということになったはずなのだが、合併そのものがポシャっている。名前のせいだ、という話もあるようだが、納得できる。

 和歌山について調べていたら、「プライメイト シティ」という単語を見つけた。またしても Wikipedia によれば、「地域の中で最も大きく、二番目の都市を規模で引き離している都市」だそうで、和歌山市は和歌山県人口の 40% を占めることから立派なプライメイト シティで、秋田市も当然、含まれる。

 まさに Wikipedia は知識の宝庫で、まぁときどき思い込みが書かれていたりして注意は必要ではあるものの、たとえば、「県庁所在地」という呼び方。ほとんどが「市」にあるわけだが、東京都庁は「市」にはないので、「都道府県庁所在地」というように「地」と言うしかないとか、あぁそういえばそうだねぇ、という風に大いに知的好奇心をくすぐってくれる。
 だからって仕事中に更新していいとも、権力に都合のいいように書き換えていいとも思わないが。「知」は純粋に「知」でなければならい。




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