Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第567夜

「ケータイ」な方言 (上)



 ちょっと数えてみてびっくりした。
 俺、ここで「ケータイ刑事」に 11 回も言及してるのな。
 これが 12 回目となる。

銭形海 (大政絢)」ファースト シーズン (この番組は「クール」という言葉を使わない) は先月末に終わったのだが、最終回の一つ前のエピソードが「ほんなこつ、このばかちんが〜方言教室殺人事件」というものだった。これをネタにしてみよう、というわけだ。
 その前に全体を振り返ってみようと思うのだが、2002 年スタートの「銭形愛 (宮崎あおい)」から通算で 170 話くらいある内、方言を前面に押し出したエピソードが 9 話ほどある。
 そもそもこれはタイトルが示すとおり「刑事もの」なので言葉遣いが犯人やトリックのキーになることは多い。それには当然、方言も含まれるわけだ。その 9 話のうち、全体の雰囲気だけでなく事件のキーになっているエピソードは 4 つ。その辺を順番に紹介していく。

 いきりに脇道にそれるが、Wikipedia によれば、「クール」はフランス語の“cours”のほかにドイツ語の“Kur”だという説もあるらしい。
 その「シーズン」はアメリカの用法で、イギリスでは「シリーズ」の由。アメリカでは「シリーズ」を別の意味で使っているというからややこしい。

 まずは、堀北真希の出世作「ケータイ刑事 銭形舞」から、第 4 話の「暗闇の惨劇!〜陰陽師殺人事件 (脚本:林誠人)」。
 これは野村萬斎主演の「陰陽師 II」の公開とひっかけたエピソードで、陰陽道には東京・名古屋・京都・鹿児島の流派がある、という設定、その主導権をめぐって殺人事件が起こる。それぞれの代表者がそれぞれの地域の方言を使って話すのだが、勿論、ドラマ的に簡略化、ステロタイプ的使い方。事件の鍵にはなっていない。
 鹿児島陰陽道の西郷隆盛 (林和義) はやたらと「どすこい」を使うが、これは鹿児島弁ではない。おそらく西郷隆盛の体格からの連想であろう。
「どすこい」の語源は諸説紛々で、「どこへ」「ドスンと来い」「六根清浄」などなど。どれも今イチ民間語源臭い。
 名古屋陰陽道の木下ねね (畠山明子) は「おそがい」とか言っている。説明無し。まぁ、わかるからいいか。
 京都陰陽道の菅原道真 (半海一晃) は「所詮、東京は『東の京』」と言う。東京には「東亰」という表記、「とうけい」という読み方もあったが、ググってもあんまり記事がない。その表記を使った本などの紹介文しか見当たらないのはなんでだろうね。

「ケータイ」中興の祖、黒川芽以の「銭形泪」から第 5 話「浦島太郎一族の悲劇 〜目撃者は亀!殺人事件 (小杉晶子)」。
 これは金持ちの資産をめぐる殺人事件。被害者は亀の剥製で殴られて死亡。
 犯人は――はい、ネタばれしますが、3 年半も前の番組なので勘弁してください。
 大阪在住の娘 (網浜直子) が殺害したのだが、彼女はその亀が二億円もする珍しい種類であることを知らなかった。彼女が資産だと思ったのは大きな「瓶」の方だった。
 発覚したのは、彼女が「端」と「箸」を勘違いしたことがきっかけだった。つまり、アクセントの違いが鍵となる物語。
 細かく言えば、関西風「箸」は、関東風「端」とは違って、「し」の音が単純に高いのではく、わずかに揺れているような気がするのだがどうだろう。

 え、銭形泪って 3 年半も前なのか。

 セカンド シーズン第 14・15 話の「BS 初のミュージカル!!〜歌って踊って殺人事件 (林誠人)」についてはすでに紹介している。
「もろこし村」という架空の村が舞台なのだが、そこの住人は日本全国のさまざまな方言を話している。これはひょっとしたら、どこかの村を漠然と指し示す、「昔々あるところに」の現代風コメディ的手法といえるのではないか、といささかこじ付け牽強付会気味の意見を述べた。
 同じくセカンド シーズンの第 4 話は「高村刑事、絶体絶命!〜正しい日本語殺人事件 (渡邉睦月)」。タイトルでわかるとおり、「正しい日本語」教の信者が殺人を犯す、というエピソードだが、話の中盤で草刈正雄演ずる高村一平がいきなり九州弁を話し始める。これは電話で旧友と話をしているシーンなのだが、草刈正雄が小倉出身であることによるもの。
 なお、冒頭で報告される殺人事件の被害者は、「『情けは人のためならず』を『情けをかけるのは人のためにならない』という意味に使っていた小説家」「茨城県を『いばらぎけん』と読んでしまったアナウンサー」。『ら抜き言葉殺人事件』という小説 (島田荘司)、「ら抜きの殺意」という芝居 (テアトル・エコー) もあるくらいで、「正しい日本語」教はまことに物騒である。*1

 案の定、語りすぎてしまったので、来週に続く。
 なお、「銭形愛」は、まだ「推理もの」としての色が濃いせいか、軽めのエピソードは少なく、したがって、方言がらみの事件も見当たらない。




*1
 
Wikipedia の「日本語の乱れ」の記事が面白い。()





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