Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第407夜

やけどするよ



 先々週も書いたが、なんか台風が次々に来るなぁ。北西方向に進んでた癖に、ご丁寧に九州沖で北東に転進しやがる。
 電気完全依存の世界で、まぁペンライトくらいは用意してあるからなんとかなるが、停電するとタイマーを設定し直さなきゃいけない機械がたくさんあって大変だ。面倒なので、もはやタイマー録音することもなくなった CD ラジカセはなんかは、こないだの停電以後はほったらかしである。
 そんな中で CATV のチューナーはタイマー設定を電池でバックアップしているのでありがたい。
 だが、バックアップされているのは時間とチャンネルだけで、その設定を使うかどうか、というのは消えてしまう。
 だから設定が残ってることで安心していると、実は無効になっているので録画に失敗する、ということを二度やった。
 電気依存かつ CATV 依存の生活。その中に「ケータイ刑事」という番組がある。

「ケータイ刑事」というのは、銭形という警視総監の孫娘で IQ180 を誇る天才少女が事件を解決していく、というドラマである。最後の決めわざとして携帯電話から真っ赤な紐などを伸ばして犯人を拘束する*1。これまで、宮崎あおいが長女の堀北 真希が三女の、現在、黒川 芽以が次女のを演じている。*2
 彼女達は警視正もしくは警視であり*3、パートナーとして巡査部長または巡査のオジさんが設定されている。それが山下 真司草刈 正雄。基本的には、小娘にオジさんがいいようにからかわれているが、最後は二人できちんと決める、時折ホロっとさせる、という構図である。
 最初はコメディだったのだが、回が進むに連れてハチャメチャな感じになってくる。最近はチープであることを開き直って悪ふざけの域に入り込んでいる。正直言って現在の銭形泪はついていけないことが多い。*4

 そういう番組だから別に目くじら立てることはない。どんな話になろうと、あぁまたやってらぁ、と思っていればいいのである。
 その前提で。

 時折、田舎者が登場する。
 ベッタベタの方言を話す。
 名前も「北川鼻太郎」とか「安西鼻男」とか「南野鼻介」だから、ここはやはり、お笑いノリの番組だと受け止めておくべきなのかもしれない。俺も、そのステロタイプにケチをつける気はない。方言話者を馬鹿にしようという意図が感じられない。

 ただ、方言に限らず難しいのは、そういう意図がない、ということと、そう受け止められない、ということとは必ずしもリンクしないことである。
 よく聞くのは、大阪の人間は「バカ」と言われると、東京の人間は「アホ」と言われると大変に傷つく、ということだ。
 側面としては、その逆、つまり、大阪では「アホ」が、東京では「バカ」が日常的に使われており、悪意や軽侮の意味を担っていない場合が多い、ということがある。言った方は、相手がそれほど傷ついたり怒ったりするとは予想していないのである。
 これを反対から見れば、大阪における「バカ」、東京における「アホ」が日常的な表現ではないため、非常に鋭利な表現となってしまう、ということである。前の「隣のことば」でも取り上げたような話だが、親疎が「意味」を持ってしまうケースがある、ということだ。
 更につけくわえれば、愛知あたりの「たあけもん」を知らない人は全国的には少なくない。この場合、言われても意味が理解できないので、罵倒の用を成さない可能性がある。表情や文脈で理解されることはあるだろうが、「バカ」や「アホ」とは様相が異なる。
 その意味では、この「バカ」や「アホ」は「気づかない方言」だという見方ができるかもしれない。

 初夏の頃のエピソードでは、「もろこし村」が舞台になった。架空の地名であって、どこだかは特定されていない。
 そこの村の住人は、全国各地の方言をしゃべる。ある者は東北、ある者は九州、ある者は東海、という具合である。それでちゃんと意思疎通ができている。
 そのことは謎解きとは全く関係ないし、なんじゃそりゃ、と一笑に付すのも、まぁかまわないと思う。それもまたスタッフの意図したところかもしれない。
 ただ、これはこれで「ある村」であることをコメディ的に表す一方法ではないか、と思う。
 いわゆるドラマ方言は、何度も書いている通り、ところどころ関西風が混じるものの、南東北の方言をベースにしている。多くの人はそこでやはり東北を連想するのではないか。まぁ日本の田舎のイメージが東北だからしょうがないんだが。
 そこで、現実の方言が入り混じった地域を提示することでニュートラルな「ある村」としたのだ、という見方をしてみる。

 フィクションを楽しむ、というのは実は高等な技術なのではないか。
 その作品が基準として引いている線は、現実には存在しないのだから、鑑賞する側が導入部で読み取るしかない。それには知識も――たとえば、主人公が警視庁の刑事だったら舞台は東京に決まっているし、夕日が海に沈んだらそこは日本海側だ――必要だし、そういうこともあるかも、という柔軟性も必要だ。
 こういう作品に耽溺していると、そんなことあるわけないだろ、とか言われたりするが、あったら大変だろ、とお答えしておく。本当にバルタン星人が襲ってくるかもしれない、と思っているのか? と。現実とフィクションはきちんと区別したほうがよい。*5
 というわけで、なんだかんだ言いながら毎週見ている。
 彼女達は時々、こちらがドキっとするような、すごくいい表情をする。





*1
 スポンサーは NTT ドコモ。今時珍しい一社提供。(
)

*2
 設定上は四女もいるらしく、彼女を主人公にしたシリーズが製作されれば、シリーズ数としては、パート 3 で終わったスケバン刑事を超える。尤も、その前に「ルーズソックス刑事 銭形紅子」というのがあったと聞く。未見だが、これを加えれば現時点で 4 シリーズ。
 ただしスケバン刑事は、斉藤由貴版が半年、南野陽子版と浅香唯版が 1 年だったのに対し、ケータイ刑事は銭形愛が半年、舞が 3 ヶ月、泪が現在 3 クール目で、話数としては残念ながら届かない。(
)

*3
 大雑把に言うと、警視で小さな警察署の署長、警視正で大きな警察署の署長、というあたりである。(
)

*4
 ヘリで急行する、と言った直後に、明らかにオモチャのヘリコプターを映したりする。しかも釣ってあるだけで飛んでない。お笑い番組のノリだ。(
)

*5
 たとえば、「
新選組!」をどう見るか、というあたりとも似ているか。史実と違う、と話題になったが、フィクションとして見るんなら全然オッケーっすよ、という声もある。
 二時間ドラマでご当地ものをやると、事件が起こった場所と、たまたま巻き込まれた旅行者の主人公が泊まっているホテルは 1 時間やそこらでは移動できないのに、平気で行ったり来たりしている、とかいうことはしょっちゅうあるはずだ。バルタン星人が否定できて、これが許容できる、というのは筋が通らない、と俺は思う。()





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