Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第568夜

「ケータイ」な方言 (中)



 というわけで「ケータイ刑事」で語る方言、二週目。

 次に行く前に、愛・舞・泪における、言葉絡みのエピソードを並べておく。
銭形舞」第 7 話「忙し過ぎる死体 〜チーフ脚本家殺人事件 (渡邉睦月)」は、古語辞典に載っているような言葉を使ったことがきっかけで犯人が特定される。ゲストは、「萌の朱雀」「殯の森」の尾野真千子。
 第 10 話「まぎらわしい! 〜警察隠語殺人事件 (林誠人)」は、「被害者」を示す「ガイシャ」と「外車」とを混同、捜査が混乱するエピソード。
銭形泪」セカンド第 8 話「おーっほほほほほほほ! 〜お犯人はアナタお殺人お事件 (岩村匡子)」は、金持ち令嬢 (西山繭子) が何にでも「お」をつけるため、ヒットチャートの「オリコン」と「お離婚」の混同で事件が起きる。なお、このエピソードは、台本・予告・オープニング・エンディングで「ほ」の数が違う、というおまけもある。
 同じくセカンド第 16 話「ああ、さそり違い 〜銭形泪誘拐事件 (中邨武尊)」も警察の隠語が絡んでいて、「馬肉」で「虫や動物の毒を使った殺人事件」を指すらしい。ただ、裏は取れなかった。

 今回は、第一期の集大成、夏帆の「ケータイ刑事 銭形零」から。セカンドシーズン第 5 話の「富豪刑事もビックリ!勝手にコラボレーション 〜刑事まつり殺人事件(いずみ吉絋)」。
 でもに紹介している。全国の腕利きの刑事を集めて刑事キングを決める、という大会があるのだが、そこで秋田代表の「マタギ刑事」が殺される、という事件。犯人は――二年半前の作品だけどネタバレします――青森代表の「イタコ刑事 (中原翔子)」。
 イタコは下北半島、恐山にいるのだから南部なのだが、どうも津軽弁っぽい感じがする、ということはすでに書いた。
 レギュラー出演していた佐藤二朗はずっと名古屋弁というような設定があって、確かにそうなんだが、それがどういうことか、ということは全く語られていない。

 9 ヶ月の休みを挟み、満を持しての再スタート、小出早織の「銭形雷」。
 ここまでの主演俳優はすべて東京出身だったのだが、小出早織は京都出身。特にシリーズの前半においては、京都弁の特徴がはっきり確認できる。
 名前先行の設定だと思われるが、気象予報士の資格を持っている。第 1 話「カミナリ刑事登場! 〜お天気クイーン殺人事件〜」で、自分の予報が当たったことを喜ぶシーンがあるのだが、そのときの「予報的中!」がわかりやすい。
 東日本の発音では、「的中」はほとんど無声化し“tkchu”に近い音になるのだが、小出早織の発音ははっきり“tekichuu”になっている。
 また東日本の「」は“khi”で息が漏れるのだが、彼女の「」は息が漏れていない。
 映画「ケータイ刑事 THE MOVIE2 石川五右衛門一族の陰謀〜決闘!ゴルゴダの森」の DVD に舞台挨拶の様子が収録されているが、京都で彼女は京都弁で話している。普通、周りに方言話者がいない場合、非常にやりづらいものなのだが自然である。それはおそらく、そこが地元であること、また、京都弁が大阪弁などと並んで説明の必要がない方言であることが理由であると思われる。
 なおドラマ中では、銭形雷と西日本との関係を匂わせるようなエピソードはない。
 ちなみに、三代目パートナーの国広富之も京都出身だが、こちらはそういう現象は確認できなかった。芸歴の違いであろう。

 まずセカンド シーズン (パートナーが草刈正雄に代わっている) 第 5 話「かなりバッチリナイスガイの高村さん 〜「まだらの紐」殺人事件(加藤淳也)」。
 まずサブタイトルから説明するが、これはアナグラムである。つまり、文字に分解して並べ替えると別の語または文になる。このタイトルはドラマ中で「推理違いばっかりな高村さんなの」と並べ替えられている。正反対の意味。ストーリー中では 13 種類のアナグラムが登場するが、脚本家も大変だ (ただし、そのうちの 10 種類は手がかり探しのためのもので、意味のある言葉になっていない)。*1
 話は変わるが、ケータイ刑事では、主人公が推理に行き詰ったときの発想転換法として回文がよく登場する。銭形愛の第 1 話で「チンパンジイから怪人パンチ」というのが登場しているが、以後「桜は楽さ」「私、今月、拳固したわ」などが使われ、「雷」第 7 話の「何か、ただならない、いわくつきの何か、そんな感じ 〜銭形雷の悪夢〜 (坪田塁)」には「素手です」にはじまって「あなた、しまりなくなりましたなぁ」など 41 個もの回文が登場する。
 で、この第 5 話で殺されるのは、宮城出身の女性 (真下有紀) で、犯人はそのヒモの男性 (中村まこと)。
 被害者が最後につぶやいた「まだらの紐」は、シャーロック・ホームズのエピソードを連想させ、それで捜査が混乱するわけだが、そのココロは「なまだらのヒモ」であった。「なまだら」というのは宮城の方言で「なまけもの」という意味。
 なお、被害者の発話に宮城方言の特徴はなかった。
 最終回、第 40 話の「さらば友よ 〜相棒の絆事件(三宅隆太)」については紹介済み。沖縄方言の「また会いましょう」が、女性は「またやーさい」、男性は「またやーたい」であることから、女性に変装した犯人が実は男であることが露見する、というしかけ。

 あれ、また語っちまった。
 すいません、来週で終わります。




*1
 日本で最も有名なアナグラムは、いろは歌だろう。「色は匂へど」以外にもたくさんある。 (
)





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