Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第550夜

網戸替えました



 去年、ちょっと触れたが、ついに網戸を張り替えた。
 理屈としては難しくない。
 網戸のフレームには溝が切ってある。フレームに網を置き、上からゴム紐をその溝にはめ込むことで固定する。
 そのゴム紐の太さは何種類かあるわけだが、要注意なのは、ゴム紐は溝にがっぱり嵌っていて周囲を網が覆っている形になるので、フレームに嵌った状態では実際よりも細く見える。まぁ、それがわかるのは、俺が細めの奴を買ってしまったからなのだが。
   
 しょうがないので、今まで使ってた紐を再利用した。今のところ、特に問題はない。
 早速なので、これを元ネタに一席。

 勿論、網戸に相当する俚言はない。
 常識的に考えて古いものではなさそうだ。平安時代に端を発する、とか言ったら大分びっくりする。
 網戸などを作っているセイキ グループページによれば、アルミサッシの普及がきっかけ、時期としては 1960 年頃ということになる。
 そら俚言はないわなぁ。
 ただ、そのページに書かれているように、材料から「サラン」という呼び方はあったらしい。

 だが「網戸」は夏の季語である。

 ところで、「網戸」という言葉に疑問を持った人はいないだろうか。俺は持った。窓に戸?
 いつもの大辞林より。
窓や出入り口、門・戸棚などに取り付け、開閉して内部と外部とを仕切ったり、出入り口を閉ざしたりするための建具の総称。
 前の文章に戻るのだが、つまり「窓」というのは開口部のことで、そこを閉めるために滑らせたり回転させたりするのが「戸」。アルミも木製も、可動部は「戸」なのだ。
 で、窓ではなく、部屋の仕切りになっているのは「障子」。これもに取り上げた。
 へぇぇ、そうなんだ。

 似たようなものとして、「蚊帳」はどうか。
 結論から言えば、見当たらない。古いもののはずだが、これも「」「」と同じ種類の、生活に密着していて古いものなのに俚言が生まれなかった単語、だろうか。
「かや」という呼び方は「蚊屋」なんだろうが、「かちょう」って読み方が衰えていったのはなぜだろうな。
 蚊帳は昔、母方の祖父母の家にあった。子供はそういうものらしいが、確かに楽しかった。自分の家にはないから珍しいこともあっただろうし、押入れとか机の下にもぐりこむのと同じ、胎内回帰願望の一種だろうか、と思ったりする。

 一字延ばして、「蚊遣り」はどうか。蚊取り線香を入れる「蚊遣り豚」くらいにしか残ってない単語だが。「蚊遣り豚」自体が、「残っている」と言っていい単語かどうか、って問題はあるな。
 なんで「遣る」のかについては、もともとは殺虫目的ではなく、追い払うためのものだったから、という話がある。
 俚言はやはり見当たらず。

 あれがなんで豚なのかについては諸説紛々だそうな。
蚊遣り豚の謎―近代日本殺虫史考』という本も出ているらしいのでそちらをどうぞ。

 網戸がないなら雨戸はどうか。
 これは単なる蓋だから古くからあるはずだ。40 年前ってこたぁあるまい。
とぼ」という語が関東北部にある。「とんぼ」「とぼー」という形もある。
 戸の裏に露出している骨組みからトンボを連想したのか、と思ったが、「とばくち」であろう、という解説が見つかった。
 北国にないのは、もともと開け閉めしやすいものではないから、凍りついたら閉じ込められてしまうため、という文章を見たが、「まくりど」「まぐりど」という形が能登と山形にある。

 防虫関係で調べてみると、沖縄の言葉がよく引っかかる。「サンニン」というのは「月桃 (げっとう)」のことらしいのだが、そもそも、その「月桃」がわからん。
 そういや「虫除け」という言葉はあるが、それに相当する「虫を殺す」という意味の言葉はないような気がする。「殺虫」の砕けた奴。やっぱり、虫は「除け」たり「遣っ」たりするものだったんだろうか。

 今回の文章を書くためにあちこち調べていて、「やっぱり日本の夏は、蚊取り線香に浴衣だよね」という文章がやたらと目に付いた。
 が、キンチョーのページにあるように、蚊取り線香の原料だった除虫菊が日本に入ったのは明治時代、やっと 120 年経ったところである。別に、そのキャッチフレーズにケチをつけるつもりはないが、日本古来のものだという認識は間違い。
 まして、「蚊取り線香に浴衣」というのがノスタルジックで観念的なものに過ぎないだろ、ということは指摘しておく。日本の夏を本当にそれで乗り切れる人が一体、どれだけいるものやら。

 網戸の網は、てぼっけ (不器用) な俺でもピンと張れた。目が曲がっている、という気はするが、意外に簡単という印象を持った。ゴム紐を嵌め込むのにちょっと力が要るが、躊躇している方はすぐにでもやってみるとよい。




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