四月である。
今年は結局、秋田市では雪は積もらなかった。あぁ、今年って言うとまた正しい日本語の人に怒られるな。昨年の暮れからこの三月までの間、である。
かと思うと四月になってからも雪の予報が出たりして、一体、いつ車のタイヤを替えればいいのだ、って感じである。今にして思えばスタッドレスにする必要がなかったわけだが、まさか一日も積もらないなんて冬があるとは思うまい?
例年、車だと時間が読めないから歩いて通勤するのだが、面倒くせぇなぁ、という気持ちが起きるとバスにしようかどうしようか悩むことになる。今年は、自転車にしようかどうか迷ったり、予報では雪だって言ってるけどみぞれとか雨とかになるんじゃないの、とかそういう迷い方。どんな冬だ。
そんな状態だから会社の方はずっと秋。
換気の悪い会社なので (人間関係の比喩ではなく、物理的な話) 部屋の中央部はモワっと暑苦しい。そこにいる人たち、なんと冷房をつけるのである。
が、窓際の人と、空調の吹き出し口に近い人には寒いことこの上ない。例年、暑がりが入れ寒がりが止める、という夏場だけの暗闘が冬にも展開されることとなった。そういう意味では雰囲気の悪い会社である。
三月下旬辺りからは窓を開けることにした。少しでも空気を入れ替えておけば、冬に冷房を入れるなんて暴挙を改めるだろうと思ったが、空気を入れ替えるには、部屋をはさんで反対側も開けなければ意味はない。そっちは出入り口で、セキュリティが何かと取りざたされる昨今、扉は開放厳禁、やっぱり中は暑いままである。
それにしても、空調から吹き出す風より、窓から入ってくる風の方が温かい、ってのはどういうわけだ。
さて、「窓」に方言はあるのか、と思って調べてみたが、あんまり見つからない。
大辞泉によれば、「半戸 (はんど)」という、普通よりも低い戸を指す語が、関東で窓を指すことがあるらしい。
「背の低い戸」と言われてもピンとこなかったのだが、たとえば会社の受付カウンターで、こっちとあっちを、50cm 四方くらいの板で隔てていることがある。どっちにも開くあれのようなものらしい。
窓の意味になったときには、蝶番式にしろスライド式にしろ、板は二枚あるのだが動くのは一方だけ、という窓のことのようだ。まぁ、「半戸」だからね。
実は、「窓」ってのは日本に古くからある概念じゃないんじゃないか、と思ったのだが。
というのは、人に言えるほど数は読んでないけど、古典でその字を見たという記憶がない。「しとみ」とかそんなのは見たような気がする。もちろん、時代劇で「窓」という単語を聞いた記憶もない。尤も、なかった、と断言できるほどの確信もない。
古語辞典で調べたら、「窓」そのものはなく、「窓の中 (うち)」が載っている。「家の奥深くの、世間と没交渉のところ。また、女性がそのような環境で育てられていること (
大辞林)」だそうだ。「窓」がないのは、説明の必要がないからだろうか。
辞書といえば、「窓」について、「岩稜が大きく切れ込んで低くなった所」という説明をみかけた。風が通るからしいのだが、これについて「
きれっと」と書いてある。
きれっと?
何の補足もなし。単に、「きれっと」。
こういう不親切な表記は久しぶりに見た。
しょうがないので引きなおす。「切れっ処」という語が出てくる。「鹿島槍ヶ岳と五竜岳の間の『八峰(はちみね)きれっと』」などが有名」。初めて聞いたってば。
確かに、ググると用例は少なくない。カナの語なのでノイズを除去できないのだが、ひらがなカタカナで十万は超える。ただし、「窓」と AND をとると一気に 1,000 を切る。つまり、「窓」を「きれっと」で置き換える語義説明が適切かどうか、というのはやっぱり疑問なわけ。悪いけど、「鹿島槍ヶ岳」の時点で説明が必要なんじゃないか、一般向けには。
「切戸」が元だ、というページ多し。
また、「きれっと」が新潟方言、「窓」が富山方言、というページも散見される。
山には、ドイツ語を起源とする専門用語が多いことは、改めて言うまでもあるまい。ここではいちいち刺さらない。
とは言いながら一つだけ。
一日分の荷物を入れるものだから“daypack”なわけだが、「デイハ
゛ッグ」と「デイハ
゜ック」の混乱はありそうだな、と思って、「デイバッグ and デイパック」でググったら、そういう混乱を取り上げた、言葉に関する文章がほとんど見当たらないことに驚いた。
何かといえば、カバン屋ばっかりなのである。つまりカバン屋は両方を使っている。細分化してるのかと思ったらそんなことはなく、単に混在しているだけなのである。
前に、タイヤ屋が、検索用キーワードとして (META タグの) 「スタッドレス」と「スタットレス」の両方を書いてあるのは検索してもらうための方便、商売として当然と書いたが、今回のはちょっとびっくりした。自分の扱う商品の呼び方に無頓着な店がこんなに多いとは思わなかった。
あれ、意外に長文になった。
次回に続く。