『
言語』誌の 1 月号が、「【小辞典】ふるさとのことば」という特集をやっている。都道府県単位の構成になっていて、いつもより厚い。
書いている人は、有名な人が多くて――それにしても、50 人集めて原稿管理するの大変だったと思うが――まぁ、口悪く言ってしまうと「いつものメンバー」なのだが、内容はなんとなく、いつもと違う、という印象をもった。
いつもと違う、と言えば、1 月号といえば連載切り替えのタイミングでもあるわけだが、斎藤 美奈子氏の連載が始まった。その名も「斎藤美奈子のピンポンダッシュ」。
今年の
大修館書店、ちと気合が違う。
話を特集に戻す。
おそらく、「若者ことば」と「気づかない方言」に一定量を割いているのが、「いつもと違う」と思わせた原因だと思う。
例えば、岩手 (田中 宣廣氏) の頁で、「
いずれ」が方言であることがわかった。
わかった、とは書いたが、自分で使いながら、「標準形じゃねーよーな気がする」とは思っていたのだ。それが確認された。使い方は、「
『〜ある』の問題」「
人情の人称」「
お正月映画劇場」あたりを見てもらうとわかる。
秋田 (日高 水穂氏) の「
もんね」は、前にいた会社の女性が気づいていて、俺も感心した例である。彼女はパソコンのインストラクターだったのだが、
という風に言っていた。一定の親しみを維持したまま、相手に説明するときに使う表現である。勿論、目上の人には使えない。
おそらく、表情なんかで意味を理解することはできるだろうが、県外の人が誤解する可能性はある。
滋賀 (増井 金典氏) で、「天守閣」はもともと「天主閣」、つまりキリスト教の神を祭る場所だった、というのは驚いた。
これが滋賀の頁にあるのは、戦国を語るとき「近江」が重要なポイントだからである。
大阪 (田原 広史氏) で、大阪人がどこに行っても大阪弁を押し通す件が触れられている。
「なんで変えんならんねん」という精神と、実際に通じる、という現実に加え、その結果、他の言葉づかいを習得する能力が育たない、ということが挙げられていた。
確かにそれは言えるだろう。何も難しい話ではない。大人になるまで秋田を一歩も出なかった秋田衆、というのと同じことだからだ。
前に、「ビートたけし」を「ピーポパペピ」に置き換えられない俳優、というのを書いたが、そういえば、その人も大阪であった。
「
ムズイ」「
キモイ」「
メンドイ」という形容詞が取り上げられている。それぞれ「難しい」「気持ち悪い」「面倒くさい」という意味だが、これ、大阪なのか。全国区のような気がするのだが。
というような表現は他にもあって、「
アオナジミ (青あざ)」「
チゲー (違う)」「
ヨコハイリ (列への割り込み)」なんかは複数の地域で出てくる。「
ヨコハイリ」なんか、神奈川や埼玉のページに書いてあるけど、俺、子供のころから使ってたような気がするなぁ。
「
キモイ」は時々、別の話題で取り上げられることがある。
「気持ち悪い」という意味だということはすでに書いたが、「気持ちいい」が「キモイ」にならなかったのは何故か、という話題だ。
これには、「あえて省略形で口に出したくなるような感覚」と言ったら、やはり「気持ちいい」ではなく、「気持ち悪い」という嫌悪感のほうではないか、という説明がついている。
北海道 (道場 優氏) では「雰囲気」を「
フインキ」と言うようなことが書いてあるが、これも、北海道特有ではないのではないか。「一応」を「いちよう」だと思っている人とか、「うる覚え」とか、結構いる。
付け加えると、「雰囲気」って「フインキ」じゃないよね、みんな間違ってるよ、と感じている人も相当、いる。検索エンジンに「ふいんき」をぶち込むと、数千件ヒットするのでお試しあれ。
あ、この特集とは全く関係ないけど、メモ代わりに書く。忘れそうなんで。
ザッピングしてたら、なんか集団戦闘もののアニメが放送されていて、その主人公らしい男が、「よーし、この勝負、貰い受けた!」と叫んでいた。
どういう意味だ、それ。
いや、絵があるから、挑戦を受けた、という意味だということはわかるのだが。勝負って「貰い受ける」ものか? それに「この勝負、貰った」だと全く違う意味になるぞ。
まぁ、言葉で金とってる奴もその程度だ、ということで。「ふいんき」「いちよう」が使われるのも当然か。それとも、今の若い者は「勝負を貰い受ける」のか?
*1
なんか話がそれ気味だな。
こういう、全国の方言を網羅した本もよく見かけるが、値段が安いと内容も安いことが多い。好事家的見地の面白おかしいだけのものだったりする。
これは、『言語』が編集しただけあってしっかりしている。参考文献も全県分、並んでいるので、お勧めしたい一冊である。次が出ちゃったからバックナンバーってことになるけど。
*1
こうした間違いを指摘しているページは多いが、はっぱのいえというのが、わざわざ調べていて、一覧になっている辺り、なかなか面白い。たしかに「〜ざるおえない」は多そうだ。
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