Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第321夜

【小辞典】ふるさとのことば



言語』誌の 1 月号が、「【小辞典】ふるさとのことば」という特集をやっている。都道府県単位の構成になっていて、いつもより厚い。
 書いている人は、有名な人が多くて――それにしても、50 人集めて原稿管理するの大変だったと思うが――まぁ、口悪く言ってしまうと「いつものメンバー」なのだが、内容はなんとなく、いつもと違う、という印象をもった。

 いつもと違う、と言えば、1 月号といえば連載切り替えのタイミングでもあるわけだが、斎藤 美奈子氏の連載が始まった。その名も「斎藤美奈子のピンポンダッシュ」。
 今年の大修館書店、ちと気合が違う。

 話を特集に戻す。
 おそらく、「若者ことば」と「気づかない方言」に一定量を割いているのが、「いつもと違う」と思わせた原因だと思う。
 例えば、岩手 (田中 宣廣氏) の頁で、「いずれ」が方言であることがわかった。
 わかった、とは書いたが、自分で使いながら、「標準形じゃねーよーな気がする」とは思っていたのだ。それが確認された。使い方は、「『〜ある』の問題」「人情の人称」「お正月映画劇場」あたりを見てもらうとわかる。
 秋田 (日高 水穂氏) の「もんね」は、前にいた会社の女性が気づいていて、俺も感心した例である。彼女はパソコンのインストラクターだったのだが、
ここを指定してから、このボタンを押すんだもんね
 という風に言っていた。一定の親しみを維持したまま、相手に説明するときに使う表現である。勿論、目上の人には使えない。
 おそらく、表情なんかで意味を理解することはできるだろうが、県外の人が誤解する可能性はある。

 滋賀 (増井 金典氏) で、「天守閣」はもともと「天主閣」、つまりキリスト教の神を祭る場所だった、というのは驚いた。
 これが滋賀の頁にあるのは、戦国を語るとき「近江」が重要なポイントだからである。

 大阪 (田原 広史氏) で、大阪人がどこに行っても大阪弁を押し通す件が触れられている。
「なんで変えんならんねん」という精神と、実際に通じる、という現実に加え、その結果、他の言葉づかいを習得する能力が育たない、ということが挙げられていた。
 確かにそれは言えるだろう。何も難しい話ではない。大人になるまで秋田を一歩も出なかった秋田衆、というのと同じことだからだ。
 に、「ビートたけし」を「ピーポパペピ」に置き換えられない俳優、というのを書いたが、そういえば、その人も大阪であった。
ムズイ」「キモイ」「メンドイ」という形容詞が取り上げられている。それぞれ「難しい」「気持ち悪い」「面倒くさい」という意味だが、これ、大阪なのか。全国区のような気がするのだが。
 というような表現は他にもあって、「アオナジミ (青あざ)」「チゲー (違う)」「ヨコハイリ (列への割り込み)」なんかは複数の地域で出てくる。「ヨコハイリ」なんか、神奈川や埼玉のページに書いてあるけど、俺、子供のころから使ってたような気がするなぁ。

キモイ」は時々、別の話題で取り上げられることがある。
「気持ち悪い」という意味だということはすでに書いたが、「気持ちいい」が「キモイ」にならなかったのは何故か、という話題だ。
 これには、「あえて省略形で口に出したくなるような感覚」と言ったら、やはり「気持ちいい」ではなく、「気持ち悪い」という嫌悪感のほうではないか、という説明がついている。

 北海道 (道場 優氏) では「雰囲気」を「フインキ」と言うようなことが書いてあるが、これも、北海道特有ではないのではないか。「一応」を「いちよう」だと思っている人とか、「うる覚え」とか、結構いる。
 付け加えると、「雰囲気」って「フインキ」じゃないよね、みんな間違ってるよ、と感じている人も相当、いる。検索エンジンに「ふいんき」をぶち込むと、数千件ヒットするのでお試しあれ。

 あ、この特集とは全く関係ないけど、メモ代わりに書く。忘れそうなんで。
 ザッピングしてたら、なんか集団戦闘もののアニメが放送されていて、その主人公らしい男が、「よーし、この勝負、貰い受けた!」と叫んでいた。
 どういう意味だ、それ。
 いや、絵があるから、挑戦を受けた、という意味だということはわかるのだが。勝負って「貰い受ける」ものか? それに「この勝負、貰った」だと全く違う意味になるぞ。
 まぁ、言葉で金とってる奴もその程度だ、ということで。「ふいんき」「いちよう」が使われるのも当然か。それとも、今の若い者は「勝負を貰い受ける」のか?*1

 なんか話がそれ気味だな。
 こういう、全国の方言を網羅した本もよく見かけるが、値段が安いと内容も安いことが多い。好事家的見地の面白おかしいだけのものだったりする。
 これは、『言語』が編集しただけあってしっかりしている。参考文献も全県分、並んでいるので、お勧めしたい一冊である。次が出ちゃったからバックナンバーってことになるけど。




*1
 こうした間違いを指摘しているページは多いが、
はっぱのいえというのが、わざわざ調べていて、一覧になっている辺り、なかなか面白い。たしかに「〜ざるおえない」は多そうだ。()





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