Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第322夜

琉球歌合戦



 暮れの紅白歌合戦は、さしずめ琉球歌合戦とでも言えそうな様相を呈していた。
 BEGIN、THE BOOM、夏川りみ、DA PUMP、安室 奈美恵…と、全部で 54 組しかいないのに琉球関係者が 5 組。
 尤も、安室 奈美恵とか MAX、SPEED あたりは、発話はともかく、音楽活動の上であんまり地元色を出さないので、ここに括るべきかどうか、という問題はある。DA PUMP は、アルバムの中で琉球語の曲を公開した、と聞く。
 これは種子島が舞台だが、NHK の朝のドラマ「まんてん」の主題歌を歌っている元ちとせも出るとか出ないとかいう話があった。
「ちゅらさん」も続編が作られるとか。
 なげーな、琉球ブーム。
 あれ、Kiroro は?

 レとラのない琉球音階をベースにした独特のメロディや、「てーげー」に代表される「癒し系」の世界観が受けているのは事実。俺も、「島唄」なんかは知らないうちに口ずさんでいることがある。
 もちろん、何を言っているかはわからない。
「涙そうそう」なんてのもいい曲だが、このタイトルだけではどういうことかわからない。漢字があればまだしも「なだそうそう」では意味不明。歌詞を聞くと、前後関係からやっと「そうそう」の意味がわかる、という具合。

 昔、ゴダイゴが「ガンダーラ」に続けて“MONKEY MAGIC”をヒットさせたとき、「なんで英語で歌うんだ!」という非難が、結構、真剣な感じで聞かれたが、昨今はどうなんだろう。なんで標準語で歌わないんだ! という声はあるのだろうか。
 尤も、日本語の標準語以外の歌って、あのころに比べると、かなり受け入れられるようになった。これはやっぱり、ゴダイゴの功績だろう、とか言ってみる。
 だけど、「全部英語」って歌は、やっぱりないよね。
 この辺に入っていくと、「分衆」とか「個衆」という話になってしまうんだな。よく言われるのは、かつては、100 万枚のヒットを記録した曲は 1,000 万人以上が知っていたが、今は、500 万枚のヒット曲を知っているのは 500 万人だけ、というもの。数多あるヒット曲の中には、全部英語、ってのもあったのかもしれないが、俺は記憶していない。

 確か「涙そうそう」だと思ったが、1 番が標準語、2 番が琉球方言で字幕つき、という形になっていた。
 こういう形だと、比較的わかる。今、発音された単語は、字幕のこの単語だね、というようなことが見当つけられる。間違ってるかもしれないが。確かに、同じ日本語なんだ、ということがはっきりわかる。

 が、こういう楽しみ方って少数派なのではないかと思うのだ。
 この沖縄ブームって、紛れもなく「エキゾチシズム」だろう。
言語」の 1 月号で「【小辞典】ふるさとのことば」という特集があり、沖縄のページで かりまた しげひさ氏が、宮古方言の歌について
 沖縄島の人は歌詞の意味がまるで理解できないので、外国語の歌のようにことばのリズムとメロディーを楽しんでいる。
 と書いている。これが全国的に起こっている、というのが現実だろう。

 悪いが、ブームってそういうものである。
 2-6-2 の法則っていうのがある。この例で言えば、沖縄の歌がとても好きだという人が全体の 2 割、嫌いだと思う人が 2 割、どっちでもないという人が 6 割。この 6 割が支持する、というのがブームでありヒットである。
 別の例えを引っ張ってくると、全国民の中における特撮オタク (ファンでもいいが) の数って微々たるもののはずだが、ゴジラもガメラも公開すればヒットする。これは、オタクじゃない人が見に行くからである。健全そうなカップルをよく見かけるもの。
 おそらくこの 6 割は、沖縄の (あるいは特撮映画の) スピリットを理解していない。というより、理解しようとしない、その必要を感じない。「っていうか、みんな、沖縄って言ってるし」。だから、彼らは簡単に他所に目を移す。そのときにブームが終わる。

 方言で歌われる歌は、土着臭のある演歌やフォーク、「おら東京さ行ぐだ」のようなコミック ソング、言葉というよりは音であるラップなどには例が多い。
 だが、未調査で不勉強なのを承知で言うが、普通のポップスのメロディに方言が丸ごと乗る、っていうの、あんまり例がないはずである (無い、とは言わない)。この話では、実験的要素の強いインディーズと、各地に根を下ろしたローカルのミュージシャンを除外する。
 琉球方言だけが例外的に、全国区でヒットした、ヒットしているのである。
 これはおそらく、標準語からの距離が遠いため「音」として聴くことができる、つまり、何言ってるかわかんないからであろう。
 琉球方言を音として聞くことができるのだとすれば、時々、フランス語みたいだ、と言われることのある秋田弁や津軽弁、南部弁あたりの歌もできそうなものだが、それはほとんどない。わかってしまうからだ。そうなると、東北弁の持つマイナス イメージとあいまって、ポップス分野でヒットは難しい、ということになってしまう。*1

「やまとんちゅ」が琉球や沖縄に何をしてきたか、ということを考えれば、軽軽しく「沖縄ってなんかいいよね」とは口にできないはずである。
 それが「ブーム」になってしまうあたり、6 割の影響力って怖い、と思うわけだ。





*1:
 秋田県出身、名古屋在住の
伊藤 秀志氏が、秋田弁の「大きなのっぽの古時計」を発表して話題になっているとのこと。(030216 加筆)
 CD 入手。感想はこちら(030309 加筆)()




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