Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第328夜

ドとド#とレとレ#とミとファとファ#とソとソ#とラとラ#とシの音が出ない



 母方の祖父の家にも、大きなのっぽではないが、手巻き式の掛時計があった。居間の柱にかかっていた。茶色系。割にはっきりと思い出せるが、人の記憶だからどこまで正確かは疑問。
 祖父が生まれた朝に買ってきたのではなくて、祖父が買ってきたものだと思う。誰かのプレゼントなのかもしれないが。
 農家で、牛がいた、という記憶はかすかにある。餌を作るためのサイロみたいな奴もあった。深さは 2m 位だと思うが、子供なので、それを覗き込むのはかなり勇気の要ることだった。今では博物館に並ぶような農機具もたくさんあった。
 おそらく引っ越したときに捨てたんだろうなぁ。

 伊藤 秀志氏の、秋田弁版「大きな古時計」が話題になっている。
 地元の新聞で読んだのが2月の初めで、その日のうちには、サンクス (コンビニ) のレジにあるディスプレイに、ニュースとして流れていた。翌日には、Yahoogoo などのニュースサイトでも紹介され、あちこちの BBS でも見かけるようになった。大騒ぎである。

 ちょっと探すのに手間取ったが、TOWER RECORDS で入手して聞いてみた。
 氏の声は、大きなのっぽの平井氏よりやわらかいので、これを「癒し系」と評する人がいるのは理解できる。4 曲の内、伊藤氏自作の歌が 2 曲あるのだが、これは昔懐かしいフォークソングの香りがある。
 悪いが、平井氏の歌い方は、「巧いでしょ」って匂いがキツ過ぎて苦手だ。

 なるほど。確かに、フランス語に聞こえる。
 歌もそうだが、間奏に入っている台詞は、まるっきりフランス語。
 この「通り過ぎる時間」というアルバムには、同じく秋田弁版「クラリネットをこわしちゃった」も収められているが、これにはドイツ語やらフランス語やらに聞こえる会話が入っている。

 例えば鼻母音など、フランス語と東北弁には共通点が多い。
 難しく言うと、なんじゃそりゃ、ということになるかもしれないので例を挙げる。
 フランス語っぽく聞こえる単語の遊びがある。例えば「麻布十番」とか「足十本 (タコをフランスで何と言うか、というあれ)」とか。これの「ばん」「ぽん」の、ちと鼻にかかったような音である。
 という具体的な説明ができるのはなぜかと言うと、歌の中に出てくるからだ。「古時計」の間奏に入る台詞って「もんぺとクワ」とか「田さ落ちればジャポン」とかなんである。
 それはつまりどういうことかというと、フランス語に聞こえるように歌っている、ということなのだ。

 秋田魁新報に紹介された記事では、秋田弁を笑いものにするな、と祖母に言われた、と書いてあった。なので、真面目に取り組んだものだろう、と思っていたのだ。
 歌の部分は確かにそうだ。
 だが、この「歌うあんで来い」は受けを狙ったものではない、と言えるのだろうか。
 つまり、にも書いた、歌詞の内容は二の次で、音だけを楽しむもの、という作品なのでないか。
 尤も、歌詞は大抵の人が知っていると思うから、何を言っているかわからない、ということはない。何て言っているのかわからない、ということはあるだろうが。
 それでも楽しめる、ということではある。

 ただ、俺が考える、ウケ狙いでない方言を使ったポップスではない。
 秋田弁と歌、ということにがっぷり勝負を挑んだものではないと思う。
 別に、そうである必要はこれっぽっちもないので、だからと言って、このアルバムの雰囲気を損なうものではない、ということは書いておこう。

 販売店の固有名詞が 2 つばかり出てきた。
 この「通り過ぎる時間」は、東海地方のサンクスで発売された。これは氏が名古屋在住だからである。
 話題になったので、秋田でも発売される。が、サンクスではなかった。
 新聞では、カシワヤというチェーンが扱っている、と紹介されていた。これは確かに、俺の行動半径にあって、時折、店の前を通るのだが、残念ながら時間帯が合わない。19 時過ぎに通るとシャッターが下りている。
 秋田駅前にある TOWER RECORDS では、カウンターの前に特設の台を作り、POP も用意して売っていた。
 カシワヤは秋田の店だからいいとして、TOWER RECORDS の動きは速かった。
 だが、なぜサンクスではないのだろう。

 伊藤氏がこれを最初に歌ったのが昨年の暮れ、12 月だそうだ。CD が発売されたのは、1 月末。
 あきたファン・ドッと・コムには、2/6 に報告がある。秋田の報告例では、これが一番、速いのかもしれない。秋田放送のラジオで取り上げたとも聞くが、いつだか不明。
 新聞に載ったのは、2/16.
 これを、遅い、ということはできるが、やはり大きく話題になったのが新聞よりも後であることを考えると、ネットでモノが大きく動く、という状態にはまだなっていないのかもしれない。



 プレジデントの 2003/4/15 号でも取り上げられている。
 それによれば、祖母に「方言を笑い者にするな」と言われていたが、今回のことで、その封印をといた、とのこと。
 魁の記事とは全く違う。が、改めて読み返せば、魁の記事は、氏がそれを尊重しつつこの曲を作った、とは書いてない。
 なお、クラウンから発売されるようになってから、サンクスにも並ぶようになった。あるいは、店舗の大小に左右されるのかもしれないが。(030323 加筆)




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