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Shuno の方言千夜一夜
第210夜
恐るべき讃岐弁
何を隠そう、俺は「
路傍の麺
」党の党員である。秋田支部長まで拝命している。
詳しいことは党のオフィシャル サイト
(リンク切れ/110731)
で確認していただきたいが、「路傍の麺」略して「路麺」というのは、早い話がいわゆる「立ち食いそば/うどん」である。
記憶力のいい方は、ここでも
何
度
か
立ち食いソバもとい路麺が登場していることを思い出されるであろう。
俺は基本的には味オンチで食い物には頓着しない方だが、路麺はかなり好きなのだ。秋田にはほとんど無いので、東京に行ったときなど、朝と昼は路麺で統一しさえする。
バイブルである『旨い!立ち食いそば・うどん』は、
小学館
文庫から出ている。これもオフィシャル サイト
(リンク切れ/110731)
から購入可能。
東京が中心になっているので、発売当初は首都圏のみでの配本だったが、売れ行きが良かったので、間もなく全国に配本されるようになった、という代物である。
それに対抗して
*1
、
新潮社
のOh!文庫から『恐るべきさぬきうどん』が発売された。
俺は路麺党員であり、「稲庭うどん」を誇る秋田県民であり、しかもソバ派なのだが、だからと言って四国の雄、「さぬきうどん」を無視してよいわけがない。敵情視察のため、早速、買った。
白状すれば、義弟夫妻が四国旅行し、裏からネギを抜いてくる店だの、自分で大根をおろす店だのの話を聞いていたので、興味津々だったのである
最初は、うどん食べ歩きのガイドブックか、さぬきうどんの歴史を語る真面目な本
*2
だと思っていた。
ところがところが。食べ歩きの本ではあるのだが、食べ歩いているのは執筆者である香川のタウン情報誌編集部であり、その顛末が関西ノリのふざけた筆致で面白おかしく書かれている。しかも、讃岐弁が要所要所にちりばめられている。方言好きな路麺党員には二度おいしい本だったのである。
まず、讃岐が「〜ている」に相当する「
とる
」と「
よる
」を使い分ける地域であることを確認する。「
道端でうどん食いよる
」というのは、「うどんを食っている」ということである。「
とる
」の方は、
前
にも取り上げたが完了相である。
次に語尾。
「
や
」には「なんか」という意味があるようだ。「
釜あげや頼むからですよ
」という形で登場する。
「
けに
」は、理由を示す「から」に相当するらしい。「
カレーかけて食べるいうけに
」という風に使われている。そう言えば、土佐では「
き
」というのがなかったか。
非常に特徴的で、やたらに出てくるのが「
な
」である。
うどんを注文すると「
熱いんな、冷たいんな
」と聞かれる。「
ぬくいんな
」というのもある。この「
な
」である。
意味はわかる。熱いのが欲しいのか冷たいのが欲しいのかを聞かれている。
「熱いの」という、形式名詞「の」を伴った形の音便化だとすれば、それは撥音便であって「ん」で完了するはず。「
な
」は疑問を示す語尾であろう。
他に、「
なんよんな
」が「何を言っているんだ」であるというのもある。「何を言いよんな」が大幅に撥穏便化されたものだろう。
ついでだから音の話を続けると、「
走っりょったら
(走っていたら)」「
探っしょん
(探している)」という促音も多い。
秋田弁と共通点があり、古語との関連をうかがわせるのが「
まける
」。「こぼれる」という意味である。
東北〜北海道に広く使われていて置換不可能な俚言「
まがす
」と同系の言葉であろう。
食い物関係に目を移す。
「
めし入りイイダコ
」というのが登場する。
「いいだこ」が、体内の卵が飯粒のように見えることからの命名であることをご存知の方もあるだろう。では「めし入りイイダコ」とは何か。卵だから、オスには「飯」が入っていないことになる。メスを特に指したものか。
「
土三寒六
」というのは、うどんの配合の比率で、夏は塩 1 に対して水 3、冬は塩 1 に対して水 6、ということを言ったものらしい。
「寒」が冬というのはわかるとして、「土」が夏なのは何故か。勿論、真っ先に土用のウナギが思い浮かぶわけだが、これまたご存知の通り、「土用」は夏に限ったものではない。あるいは、昔も今も「土用」と言えば夏、というイメージが強くあった、ということか。なお、「土三寒六」を Internet の検索エンジンにぶちこむとうどん関係のサイトがヒットするが、ほとんどがさぬきうどんである。
「
土三寒六常五
」というのが正しいらしい。よく考えたら、これは方言ではないのか。
食べ物ではないが、「
じょうれん
」というのも登場する。農機具で、「鋤簾」と書くのだが、辞書には「じょれん」で載っている。
*3
最も多く登場したのが、「
何とかー!
」である。
これは「何だって!」という驚きの表現。
全体としてオチャラケ風の文章なので、「珍しい店を見つけました」「
何とかー!
」という形で頻出する。
これ、同等か目下の人間に対して使う表現らしく、相手が目上であれば「
何とですかー!
」、やや丁寧に言おうと思えば「
何となー!
」となるのだそうである。これは、きちんと解説してあった。
\200 で腹いっぱいになるという安くて旨いさぬきうどん、一遍、食ってみたいと思う今日この頃である。
義弟夫妻が目下、長野県民なので、蕎麦も食いにいかねばならない。
だがしかし。路傍の麺党秋田支部長としては、その前に秋田県内の路麺をリストアップしなければなるまい。鉄道の駅以外の店は、秋田市に 4 店あるのが確認されている。これで全部かね、やっぱり。
*1
嘘である。「恐るべきさぬきうどん」の連載は平成 2 年頃から始まっているし、単行本にまとめられたのも随分と前。
(
↑
)
*2
無明舎
から『稲庭うどん物語』というのが出ているが、これは真面目な方。
(
↑
)
*3
うどんについて、気合の入ったホームページを作っている方からメールをもらった。その方も「じょれん」について関心を持たれたようである。
→
寿庵
→
allaboutJapan うどん
(
↑
)
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