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1998年3月15日号 241

PA SMEとは

   PA SME:Postantibiotic sub-MIC effecとは抗菌剤が細菌と接触した後に持続してみられる増殖抑制効果である(PAE)とsub-MIC効果(MIC以下の濃度でかつ細菌に対する何らかの影響を及ぼす濃度:薬剤ニュースNo.195参照)を結び付けた画期的概念です。

 抗菌剤によりPAE期に誘導された細菌では正常な細菌に比べsub-MICレベルでの抗菌剤に対する感受性が増強していることを表すことから、抗菌薬の使用方法、特に与薬間隔を考える上で重要となります。

{参考文献}医薬ジャーナル 1998.2

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PAEとは「ある抗菌薬が微生物に短時間接触した後にみられる増殖抑制効果で、sub-MIC効果によらないもの」と定義され、抗菌薬が血中または組織内より消失した後も、細菌の増殖がある期間抑制されていることを表しています。

 しかし実際、生体内に与薬された抗菌薬はある一定以上の濃度、例えばMIC以上の濃度(above-MIC)から突然消失するわけではなく、ある期間はsub-MICレベルの濃度で推移します。

 そのため、MIC以上の薬剤作用により、PAE期に誘導された細菌(PAEの影響がある、またはその効果が残っている細菌)に対する薬剤のsub-MICでの抗菌効果もまた重要となります。

 そして、近年この現象はPA SMEと呼ばれ抗菌薬の与薬間隔を考える上で、PAEと同様またはそれ以上に重要な意義を持つと考えられます

 アミノ配糖体は、グラム陽性、陰性菌に対してPAE、PA SMEを有し、その作用はβラクタム系薬に比べ長い傾向を示し、また、その効果は作用濃度に依存して増強することが知られています。

 また、アミノ配糖体の作用によりPAE期に誘導された細菌は、βラクタム系薬のsub-MICレベルでの感受性が増強されることが、今までにMRSA、緑膿菌などsub-MICでの抗菌効果が問題となる耐性菌で報告されています。 しかし、一方ではPAE期に誘導されることにより、MIC以上の濃度above-MICでの抗菌効果が減弱する場合があるとも指摘されており、黄色ブドウ球菌ではアミノ配糖体先行作用により、緑膿菌ではβラクタム系薬先行作用により、後続薬の殺菌効果が期待できなくなる可能性が示唆されています。
 
血中濃度動態でアミノ配糖体とβラクタム系薬を与薬順序を変えて併用した場合、黄色ブドウ球菌では同時もしくはβラクタム系薬先行、緑膿菌では同時もしくはアミノ配糖体先行で優れた併用効果が得られることが報告されていますが、これらはPAE期がもたらす抗菌効果への影響が、臨床治療上、実際に起こる現象としてとらえることを示唆するものです。

 近年、耐性菌の増加に伴い、抗菌薬併用療法が抗菌活性増強を目的に行われる機会が増えていますが、併用でのアミノ配糖体のPA SMEはPAE期のabove-MICでの減弱作用とともに、併用薬剤の与薬のタイミングを考える上で重要となることが予想されます。

 アミノ配糖体の効果的使用法は1回量を増量し与薬間隔をあけることと理論的に推測されます。1日1回の使用で、副作用の点からはもちろん、抗菌活性の面からも今後注目されるべき使用法であると思われます。

<<PAEのメカニズム>>

 未だ不明な点は多いが、βラクタム系薬では、細胞壁合成を司る酵素であるPBP(ペニシリン結合蛋白)が薬剤から解離、もしくは新たに産生されるまでの時間、テトラサイクリン、クロラムフェニコール、マクロライド系薬では、細菌のリボゾームと薬剤の可逆的な結合が解離されるまでの時間と推測されています。

   関連記事 PAE


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新しいホルモン

2005年10月1日号 No.415

 主なホルモンは発見し尽くされたと長らく思われていましたが、近年、新しいホルモンの発見が続いています。

 これらのホルモンは、遺伝子の同定、受容体に対するリガンドの検索、アミノ酸配列を基盤としたペプチドの検索など極めて幅広い方法で見つけだされたものです。

そしてこれらの発見は、摂食、エネルギー代謝、睡眠、生殖、血圧調節など基本的かつ複雑なシステムの解明に貢献しています。

※ ウロコルチン

 ウロコルチンは副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン(CRH)のタイプ2受容体に作用する関連ペプチドとして発見されました。

 視床下部や中脳などの中枢神経系に存在する他に、消化管、心臓、副腎など種々の末梢組織にも存在しています。

 食欲抑制作用、抗不安作用、下垂体−副腎系の収束作用、バゾプレッシン合成・分泌の抑制作用、血管拡張作用、免疫系での催炎症作用、学習記憶に対する作用、腸管に対する作用など様々な作用が報告されています。

※ アクチビンとインヒビン

 アクチビンは脳下垂体からの卵胞刺激ホルモン(FSH)分泌を促進する蛋白質として発見されました。

 卵胞の発育調節、細胞の分化誘導、組織修復・再生などの作用が知られています。

 インヒビンはFSH分泌を抑制する蛋白質して発見されました。 アクチビンに対する相反作用を持ち、また、精巣での細胞増殖作用、造血作用、神経細胞の生存作用など多岐にわたっています。

※ サリューシン

 サリューシンの作用としては、細胞増殖促進、心拍数の抑制を伴う血圧低下、バゾプレッシン分泌促進などが確認されています。

 その他にも、免疫活性を持ち、循環制御をはじめとする恒常性の維持に関与している可能性も示唆されてます。

※ オレキシン

 オレキシンは覚醒・睡眠の調節に関わっています。オレキシンの異常がナルコレプシー(睡眠発作)の病態に深く関わっています。

 オレキシンは睡眠・覚醒の各ステージを安定化させる役割をしており、その安定化の作用機序はオレキシンがモノアミン作動性神経活性化を介して覚醒維持することによると考えられています。

 またオレキシン神経は末梢のエネルギーバランスをモニターしており、絶食のようなエネルギーバランスが負に傾いたとき、オレキシン神経が活性化することによって覚醒レベルが上がり、同時に視床下部で摂食に関与する機構を介して摂食行動を促す作用を発揮するとされています。
 

オレキシンと薬物依存

 オレキシンは、オーファン受容体の内因性リガンドとして同定された神経ペプチドです。
元来、オレキシンは、摂食行動を制御する生理活性物質として見出されたのですが、近年その他にも様々な薬理活性を持つことが報告されています。

 ラットやマウスの脳室内にオレキシンを投与すると、自発運動量の亢進、常同行動の顕在化、飲水量の増加、覚醒レベルの増加、交感神経系の活性化が認めらます。また血中コルチコステロン濃度の上昇やプロラクチン濃度の低下など、内分泌系への作用も観察されます。

 さらに最近では、薬物依存の形成にもオレキシンが重要な役割を担っていることが明らかにされています。

 薬物依存の形成には、腹側被蓋野(VTA)から側坐核に投射している中脳辺縁系ドパミン神経系の活性化が深く関与していることが示唆されています。

 オレキシン神経系は中脳辺縁系ドパミン神経系の機能を促進的に制御しており、モルヒネの精神依存形成に一役を担っている可能性が考えられています。

 

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その他の最近発見されたホルモン

グレリン:成長ホルモン分泌,摂食亢進、脂肪蓄積,胃酸分泌
レプチン:摂食抑制、エネルギー消費亢進,:血圧上昇、生殖機能維持、糖代謝調節
新規RFアミドペプチド:プロラクチン分泌促進,アルドステロン分泌促進

          {参考文献}  日本病院薬剤師会雑誌 2005.8


医薬トピックス(14) 胃潰瘍とタバコはこちらです。

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