1996年3月15日号 195
Sub−MICとは
その臨床的意義
Sub−MICとは、抗菌剤が細菌に対して、in
vitro ,in vivoとも何らかの影響を及ぼすMIC以下の濃度範囲、言い換えれば最小抗菌濃度のことで、1970年後半以降、Sub-MICでの抗菌剤の多核白血球の化学走性と食菌能、血清の殺菌作用に対する影響、細菌の粘膜上皮細胞への接着能に対する抑制効果、細菌の病原性への影響など宿主-細菌-薬物相互関係における抗菌剤のSub-MICでの概念(役割)が明らかにされています。 {参考文献}日本薬剤師会雑誌 1996 2 |
’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’ 抗生物質がその作用を発揮するには、一定の濃度(MIC:最小発育阻止濃度)を維持することが必要ですが、現実には、血中・臓器内濃度はMIC以下で推移する時間の方が長いことから、抗菌剤の低濃度、あるいはSub-MIC以下におけるhost
defense メカニズムの相互関係、すなわち抗菌剤療法におけるSub-MICの臨床上の役割の解明は抗生物質適正使用のためのキーポイントと理解されています。
抗菌薬は低濃度において細菌の生化学的性状(代謝系)に及ぼすとの報告があり、これは細菌の病原性を規定する毒素産生能への抗菌薬の影響をうかがわせるものです。
これらの事実はSub−MIC領域でも抗菌薬は細菌の感染症発現のための接着能あるいは感染惹起能に対して抑制的に作用することを示すもので、臨床的には抗菌薬の低用量による再発防止あるいは感染予防の可能を示唆します。
低用量の抗菌薬が多核白血球内に移行し、かつ白血球の機能を阻害しないとすれば、食菌された細菌は容易に殺菌されて、抗菌薬の臨床効果はさらに向上するものと思われます。
Sub−MICの臨床的意義は、抗菌薬少量使用の有効性が明確にできる感染症ないし症例は極少数に限られることからSub−MICの主たる臨床適用は抗菌薬の適正使用にかかわる使用方法の設定にあると思われます。
抗菌薬の使用方法、特にその使用間隔は当該抗菌薬の体内動態を基準として決定され、一般に血中半減期がそのパラメーターとして採用されていますが、Sub−MIC効果はMIC以下の濃度領域における宿主・細菌・薬物相互関係であって、いったん原因菌のMICを凌駕する有効濃度で使用抗菌薬が病巣内に到達し、一定時間その濃度が維持されれば、病巣内原因菌は著しく減少し、その後は低濃度下においても宿主防御機構との協力によって減少し続けるはずです。
このSub−MIC効果は濃度依存性であり、Sub−MIC領域が大きいほど、長時間持続するものと考えられるので、PAE同様Sub−MIC領域幅が大きい場合には使用間隔を延長できることになります。従ってSub−MICは血中半減期、PAEとともに抗菌薬の適正使用のチェックポイントとして採用されるべきものと思われます。
<Sub−MICにおける細菌の性状の変化>
1)抗菌剤の細菌に対する直接の作用〜増殖能の減退、表層構造の変化、生物学的活性の減弱
2)宿主・細菌・薬物・相互作用としてみられる変化〜病原性の減弱、粘膜上皮細胞への接着能の減弱、ヒト多核白血球による食菌能の亢
進、血清による殺菌能の亢進など
MIC
minimum inhibitory concentration
最小発育阻止濃度
その細菌の増殖を阻止する(殺菌ではない)ための抗生物質の必要最小量
この数値MIC値。すなわち使用する抗生物質の量が少ないほど、その抗生物質の効き目は強いことになります。逆にその数値が多ければ多いほど、その菌の耐性は強いことになります。
・菌の種類,菌株の違いによってそれぞれ異なる値を示します。
MBC
minimum bactericidal concentration
最小殺菌濃度
薬剤に対する最近の感受性を調べる方法ですが、同時に細菌が薬剤に耐性かどうか調べる方法でもあります。MICの測定に比べ少し面倒ですが、寒天希釈法や液体培地希釈法などがあります。
MPC
mutant prevention concentration
抗菌薬の血中濃度がMICに到達すると最近の発育を阻止する物と考えられますが、この濃度付近で細菌を完全に殺滅できるとは限りません。MIC付近では細菌が多く死滅しますが、中には突然変異によって耐性菌(mutant:ミュータント)が出現し、ミュータントが生き残る可能性も考えられます。しかし、MICより更に高い濃度では、細菌はミュータントも含め死滅します。このときの濃度をMPCと呼びます。
MICとMPCに挟まれる領域はMutant Selection
Windowと呼ばれ、耐性菌が選択され発育する可能性があるとされています。この意味からMPC/MICが小さい値を取れば、Mutant
Selection Windowは小さくなり耐性菌の選択は少なくなります。
T>MIC 〜MICを凌駕する血中濃度を維持している時間はtime
above MIC
T>MPC 〜MPCを凌駕する血中濃度を維持している時間はtime
above MPC
多くのβラクタム剤ではT>MICが40〜50%に達すると有効な治療効果を得られることが示されていますが、T>MPCが一定時間以上得られれば、耐性菌の出現が抑えられると考えられています。
トレーリング発育
トレーリングとは、薬剤濃度を引っ張るという意味
フルコナゾールの感受性を測定すると、低い濃度から高い濃度まで広い範囲にわたって不完全発育阻止を呈するような菌株が少なからず見つかります。このタイプの菌株は、特にカンジダ・アルビカンスやカンジダ・トロピカリスといったカンジダ症の代表的な菌に多く、培養時間が長くなると細小発育阻止濃度急激に高くなります。
動物実験の結果から、トレーリング発育菌は耐性菌ではなく、実は感受性菌であることが確かめられています。そのため、トレーリング発育菌は、通常の48時間培養後だけでなく、24時間培養後のエンドポイントも読むようにNCCLS法が改定されました。
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NCCLS:臨床検査標準化委員会は米国の国家的組織で、専門小委員会を設け、病原真菌の中でも特にカンジダ、クリプトコッカス、トリコスポロンなどの酵母、または酵母様真菌と呼ばれる単細胞性の真菌を対象とする薬剤感受性試験の標準化を目指し検討を開始しました。
Herxheimer反応
ヘルクスハイマー反応
ヤーリッシ・ヘルクスハイマー反応
化学療法剤や抗生物質によって死滅した微生物から遊離された毒素によると考えられている反応(異論もあります)
症状は第1回目の注射数時間後あるいは1〜2日後に症状増悪、悪寒・発熱・頭痛、リンパ腫腫脹、骨痛、全身違和、嘔吐、発疹等があり場合によっては動脈破裂、冠動脈閉鎖、視神経萎縮による失明、急死を起こすことがあります。
この反応は治療目的の殺菌に由来すると言う考え方からすれば、場合によっては避けられない性質のものです。
通常は一過性に留まることから治療の中止を必要としませんが、危険な結果が起こりそうな場合には少量から漸増していく方法がとられていて、この反応が起こりやすいと注意されている例は駆梅剤(ペニシリン)、腸チフスでのクロラムフェニコールなどがあります。
出典:医薬品作用の基礎と応用 吉成昌郎 著
初日強化療法
アミノ配糖体による初日強化療法
発熱性の細菌感染症を診断し、外来で経口抗菌剤で治療する場合に、より確実に早く症状を緩解させるために、経験的治療として初回にアミノ配糖体を1回併用する方法
アミノ配糖体はグラム陽性〜陰性菌に強い抗菌力を持ち、グラム陽・陰性菌いずれに対してもPAEを持っているため、また腎毒性の点からも1日1回が推奨されています。
外来で簡便に使用でき、本療法には最適と思われます。
出典:医薬ジャーナル 1998.2