メインページへ

PAE

1992年8月15日号 No.113

PAE:Postantibiotic effect
抗菌剤が細菌と短時間接触した後にも持続する菌の増殖抑制効果

     グラム陽性菌(ブドウ球菌、連鎖球菌等)にはβラクタム剤をはじめどの抗菌剤にもこの作用がありますが、グラム陰性桿菌(大腸菌、緑膿菌等)に対してはβラクラム剤はこの作用はありません。

 アミノ配糖体、ニューキノロン剤などは、PAE作用があるため一定間隔で与薬されれば次の与薬で効果が加算され、与薬間隔ににゆとりができます。これらの薬剤は用量依存性でPAEが長いため、必ずしも有効濃度を長時間持続する必要はありません。

 逆にβラクタム剤(ペニシリン、セフェム)は有効濃度を長く維持する与薬法が効果的です。MIC(最小発育阻止濃度)以上の濃度を維持することをtime above MICといいたとえば与薬量を1/3にして3倍の頻度で与薬したほうが、最高血中濃度は低いにもかかわらず、効果は増加し、点滴時間の短縮が有効性に影響のあることを考慮する必要があります。

   {参考文献}日本薬剤師会雑誌 1992.7

’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’’

 抗生物質を併用する場合、その順序についてはあまり注意が払われていないのが現状ですが、与薬順序が有効性と関連することが報告されています。

*アミノ配糖体とβラクタム系の場合、アミノ配糖体を同時又は先に与薬した方が治療効果は優れています。

*MRSAにフォスフォマイシンとβラクタム系を併用する場合、ファスフォマイシン1時間前に接触させると効果が増します。

*テトラサイクリンとβラクタムを併用すると、両者の作用が減弱されますが、βラクタムを併用を先に与薬すると、両者の作用が減弱されますが、βラクタム剤を先に与薬すると、作用が減弱しないという報告もあります。

βラクタム剤  PAE(h):in vivo
G(+) 2〜6
G(−) <1

その他
アミノ配糖体、ニューキノロン、テトラサイクリン、マクロライド、クロラムフェニコール、RFP
G(+) 4〜10
G(−) 2〜8


PAE:Postantibiotic effect

抗菌薬が細菌と短時間接触した後、持続する菌の増殖抑制効果

 具体的には薬剤を除いた時の菌数が10倍になるまで増加する時間から、対象の菌が10倍になるまでの増殖時間を引いたもので、一般的に時間であらわします。

 アミノG系は1日1回投与が殺菌効果が高く、腎毒性が低いが、敗血症ショック患者や発熱性好中球減少患者などの免疫能が著しく低下している患者(抗癌剤投与などで)にはPAEを期待できないため、トラフ値をMIC以上にコントロールする必要があります。

 PAEは抗菌薬でたたかれた細菌が増殖を開始するまでの準備期間ではないかと推測されています。(生体の抵抗力と菌の戦い)

  アミノG系は、用量依存的に効果が短時間で発現するので、必ずしも有効血中濃度を長時間持続させる必要はありません。またPAEを有すること及び腎毒性の点から1日1回が 一般的です。しかし、好中球減少例、compromised host(注:下記)ではPAEは正常者に比べ短くなり考慮が必要です。

 一般的にβラクタム薬はG+球菌にPAEを有するのに対し、アミノG系やキノロンではG+球菌、G-桿菌にPAEを持っています。

  βラクタム薬は、PAEのないG-桿菌に対しては有効濃度を維持する投与間隔が必要ですが、G+球菌に対してはPAEを示すので1日2回でも効果を示します。

  キノロン薬は、アミノG系に比べPAEは、一般的に短いが血中半減期の長い薬剤では1日1回投与も可能です。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

注:compromised host

先天的、または後天的に感染防御能のいずれかの機能に障害があるため、感染を受けやすく、感染症を発症しやすい人(宿主)のこと。このような人では、健常人では病原性を発揮しない弱毒微生物による日和見感染がみられます。


メインページへ

グリコペプチド耐性グラム陽性球菌

2000年11月1日号  302


 グリコペプチドは、多剤耐性化したグラム陽性球菌感染症の治療薬です。そのグリコペプチドに耐性を示す腸球菌やMRSAの出現が、感染症患者の化学治療の上でも、院内感染対策の上でも大きな問題となっています。

現在使用されているグリコペプチドは、バンコマイシンとテイコプラミン(タゴシッド注)です。

 バンコマイシンは分子量が大きく、細胞膜を通過しにくいため、外膜をもつグラム陰性菌には無効ですが、外膜のない黄色ブドウ球菌や腸球菌、肺炎球菌などのグラム陽性菌には強い抗菌力を持っています。

 グリコペプチドは細菌のペプチドグリカン合成を阻害して菌の増殖を抑制します。同じペプチドグリカンの合成を阻害するペニシリン、セファロスポリンなどのβラクタム系の場合はペニシリン結合蛋白(PBP)、つまり細胞壁合成を阻害します。

 これにたいしてグリコペプチドは、ムレインモノマー末端のD-アラニン-D-アラニン(酵素の基質となる側)に結合し、ムレインモノマーが細胞壁の一部として組み込まれるステップを阻害します。

VRE(バンコマイシン耐性腸球菌)

VREにはいくつかの種類がありますが、代表的なものはvanAタイプとvanBタイプです。

 vanAタイプはバンコマイシン、テイコプラミンの両者に誘導型の耐性を示します。vanBタイプはバンコマイシンに対しては誘導型の高度耐性を示しますがテイコプラミンに対しては感受性です。vanA、vanBともにその耐性機構はほとんど同じです。VREは、バンコマイシンの結合部位となるD-アラニン-D-アラニンを末端に持つムレインモノマーを細胞内から取り除き、代わりに末端にD-アラニン-D-ラクテートをもつバンコマイシンが結合できないムレインモノマーを作るという巧妙なシステムを獲得して、耐性化しています。

 VREは耐性の発現に関与する酵素を作る遺伝子を、外から獲得して耐性化しています。
vanAはD-アラニンとD-ラクテートを結合させる酵素の遺伝子です。このvanA遺伝子を持つものがvanAタイプですが、その耐性遺伝子群は動く遺伝物質として知られるトランスポゾンTn1546の中にあり、プラスミド上にも存在しています。そのためプラスミドの伝達とともに腸球菌をはじめ、他のグラム陽性菌へも伝達されます。(vanBも同じ働きをする酵素の遺伝子ですが、vanAと少し異なった塩基配列をしています。)

関連項目:耐性菌(MRSA以外;ESBL,MDRMT,MDRP,VREF

VRSA(バンコマイシン耐性MRSA)

 MICは8で、VREの示すMICに比べてはるかに低い値のため、バンコマシンは有効とも思われますが、このMICでもバンコマイシンは組織への移行性が低いため、効果の無い場合もあると思われます。

 ヘテロVRSA:MICの上では感受性ですが、その細胞集団の中にバンコマイシンを1mLあたり4μg含む寒天板上でも増殖できる耐性菌を含みます。

 ヘテロVRSAによるMRSA肺炎では、バンコマイシン単独では治療できない場合が多いことから、ヘテロVRSAは、VRSAの前駆細胞であると同時に、感染した組織の中で、高頻度にVRSAを生み出し、バンコマイシンの治療が奏効しない感染症の原因となると考えられています。

 現在、世界中でMRSAの治療薬としてバンコマイシンの使用量が増加しています。安易な大量使用は、VREの蔓延を招くばかりではなく、今後さらに多くのVRSAおよびヘテロVRSAを生み出す危険性を持っています。

 いったんバンコマイシン耐性菌が生じますと、次には、その中でもっとも病院環境に適した菌株が選択され、院内感染の起因菌となる可能性があります。

関連項目 ヘテロ耐性菌

{参考文献}JJSHP 2000.9 順天堂大学医学部細菌学 伊藤 照代


未来への贈り物

<<新GCP:治験>>

 日本での治験が行き詰まっています。

 グローバリゼーションのシリーズは先週で終わりにするはずでしたが、これもグローバリゼーションと関係があるので、もう1回だけ続けます。

 日本での治験が行き詰まっている原因は
新GCPにより、インフォームド・コンセントがより重視されるようになったためです。新GCPでは文書での同意が必要とされています。

 グローバリゼーションのシリーズでは
ICH、ヘルシンキ宣言の順で取り上げてきましたが、一番重要なことは、国際的な流れとして「患者中心の医療」があるということです。

 そこでポイントとなるのがインフォームド・コンセントです。今日本で、治験が止まってしまっているのは、このインフォームド・コンセントの段階でです。

 説明すればするほど、治験に協力しようという患者さんはいなくなります。いままで適当にごまかしていた副作用などをきちんと説明する必要があるためです。

 治験(臨床試験)とは 1、薬品の評価を目的に、2、ヒトを用いて、3、意図的に行う、4、科学的な実験 のことですが患者さんからすれば、人体実験、生体実験といったイメージが浮かび上がります。また同意文書にサイン(捺印)するのは日本ではかなりの抵抗があります。

 欧米で治験が比較的うまくいっている理由は様々ありますが、ボランティア精神が広く行き渡っているからです。

 治験で徳をするのは、製薬会社であることは疑いようがありませんが、患者さん自身にはそんなメリットはないのです。薬剤費、検査費用がただになるなどのメリットはデメリットの解消であって決してメリットとはなりません。医療関係者にしても手続きがめんどうで、治験などしない方が楽でいいのです。

 要するに治験を受けようと決意するには(また、医療機関で治験をしようとするには)、メリットやデメリットを考慮しないで「医学の発展に役立とう!」と思う心が必要となるのです。

 欧米では、治験に参加する人を「創薬グループ」の1員として扱っています。「創薬グループ」とは、新しい薬を作り出すためのもので、医師・医療スタッフと患者さんが同等の立場で意見を述べ合うのです。

 「創薬」は未来への贈り物なのです。

 日本がグローバルになかなか成れないのも、日本人が目の前の事しか見えていないからです。

 「自分たちの子供のために良いお薬を創っておこう。」という発想が必要とされているのです。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

<治験関連用語>

SMO
site management organization
治験施設支援機関

 SMOにより、患者主導型治験へ:臨床医が治験という診療ツールを手に入れた以上に、患者が治験を使いこなす時代。
 これまでの治験のイメージ(大病院で行うものという)とは異なる診療所レベルでの治験。現場の医師や患者の治験へのアクセスが改善されてきた。

CRO
contract research organization

開発業務受託機関

SMOもCROも、治験の実施に必要な業務を受託します。いわば「治験ビジネス請負会社」です。CROが製薬会社の業務を受託するのに対し、SMOは医療施設での治験業務を受託します。

 治験データの信頼性確保のため、すなわち企業が開発中の新薬候補物質が有効と出る方向へとデータが傾くバイアス(偏り)を避けるために、CROは企業の業務、SMOは医療施設の業務に限定して受注し、相互に独立性が保たれていなくてはなりません。

IRB:institutional review board:治験審査委員会

CRC:clinical research coordinator:治験コーディネーター

  出典:臨床と薬物治療 2003.9 等


<用語辞典>

プロセス化学

       安全、安価な大量製造法を確立する実践化学。

メインページへ