悪口にはセンスが必要



 読んだ本をすべて紹介しているわけでないので、なんらかの選別が働いているはず。しかし明確な基準なんかはない。ただその本が他の人にすすめるに値するかどうかだ。これまでに佐高信氏の本は何冊か読んでいるのに、1冊も紹介していなかった。

 『タレント文化人100人斬り』で佐高氏がまな板にあげているのは、西部邁、猪瀬直樹、長谷川慶太郎、渡部昇一、大前研一、田原総一朗、堺屋太一、谷沢永一などである。著者には申しわけないが、関心のない人ばかりだ。

 この本を手にした理由は、ビートたけしと大島渚の名前があったからだ。私は、芸人や映画監督に文化人?になってほしいとは思ってないので、どんな批評をしているのか楽しみにして読んだ。

 たけしを「時代のタイコモチ」と評しているが、これじゃ誉め言葉に聞こえる。だって太鼓持ちって、芸者の芸を食わずに引き立てる、すなわち相手もたててかつ自分も生きる術を心得る人のことでしょ。また大島渚に関する記述も期待はずれ。ただ野坂と大島のけんかの舞台が、小山明子との結婚30周年を祝うパーティーだったと分かったのが収穫だった。

 これまで私が取り上げた本の著者も含まれていたので、興味を持って読んだら、これまたひどくがっかり。私が評価していることをひとつも否定してくれないのだ。

 たとえば呉智英を「中年おたく」と評しても、私は彼をマンガ評論の先達と見ているので、その価値は減じない。梅原猛が議員さんに直訴したことを批判しているが、私はその結果を評価しているので、ちっともアナザー・オピニオンを提供してくれていない。吉本隆明でも、彼の文学に関する視点を打ってくれなくては参考にならない。司馬遼太郎の作品が経営者に人気があるのは、司馬さんの罪ではない。勝手に持ち上げるほうが悪いのだ。

 荒川洋治の『言葉のラジオ』では、流行作家のひとりとして司馬さんを取り上げ、「街道をゆく」シリーズから読みなさいとアドバイスしている。さらに「その小説世界よりも格段に潤沢」というコメントをつけている。これですべてを語っているように思うのだが。同様に五木寛之では、『風の王国』をすすめている。コメントが、「影の日本人史への序章となる秀作」とある。荒川氏がどんな人か知らないが、こっちの本のほうがはるかに参考になった。

  • タレント文化人100人斬り 佐高信 社会思想社 1998 NDC281 現代教養文庫 \680+tax

  • 言葉のラジオ 荒川洋治 竹村出版 1996 NDC914.6
(2000-03-31)