Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第155夜

味噌煮込みの季節




 今年は名古屋に縁があって、1.5 回行った。暮れに行くチャンスもあったのだが、つま
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らない仕事のおかげで実現に至らない模様。や、復活したゴダイゴのおっかけをしようと
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思ってたのだが。その代わり、清水義範の『大名古屋語辞典(学研、ISBN4-05-400396-6)』
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というのを見つけた。
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 奥付を見れば 94 年暮れで、俺が秋田にUターンするために荷造りをしてた頃なのだ
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が、後書きによれば、最初はパソコン通信での有料情報として公開され(おそらく NIFTY-
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SERVE (*1))、後に Macintosh 版 CD-ROM が発売され、最後に本になったものらしい。よ
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く読めば落合がまだ巨人にいる。


 で、に行ったとき、「呼ばる」という表現が、秋田弁と同じであることに気づいた、とい
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う話をした。
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 この『大名古屋語辞典』に、そういう例が他にも載っているのである。


 まずは「いっつか」。
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 秋田では「いっつに」と言う。
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 にもふれたが「既に、とっくに」という意味である。語尾が若干、 違うが、意味も用法
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も同じである。
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 名古屋の中村区の一部では、「つっか」と短縮されることもあるそうだ。強調の際には
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つっかつか」になるらしい。
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 ま、後半は、本当かどうかは分からない。いやに細かいのが気になる。なにせ清水義
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範だし。


 もうひとつが、「ぼう」。
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 これもに取り上げたが、「追う」である。
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 例文を見る限り、「追い掛ける」の方みたいだが。秋田ではどちらかと言えば「追い払
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う」の方である。野良犬が来たときなど「ぼってやる」わけである。
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 いずれにしろ、「追う」が「ぼう」になっていることに変わりはない。


 「ひゃぁ」と「」の類似、というのもある。
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 「もう (こんなに早く)」というのを強調するとき、「もうはい」「もうひゃぁ」と言うらしいのだ
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が、秋田でも「もう、は」と言うことがある。この場合、「」が意外性というか、驚きを担
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っている。


 この見事な一致はどうだ。
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 誰か説明してくれないか。


 他に面白い言語現象としては、「めいえき」がある。
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 これは名古屋駅のことなのだが、なんと「名駅」という地名になっているというから驚
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きである。
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 ま、秋田市にも「千秋城下町」というなんじゃそりゃという地名があるので人のことは
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言えないのだが、「名駅」という単語が発生すること自体が興味深い。
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 まずは都会であることが考えられるだろう。駅を細かく区別する必要があるから。
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 田舎だと、「駅」とだけ言えば、その人を生活圏を考えればほぼ一意に決まると考えてい
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い。なにせ、奥羽本線では、秋田駅から両隣の駅まで 10 分もかかるのである。市街地を
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出れば、その傾向はもっと強くなる。
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 が、都会では行き先別に最寄り駅が選べたりする。「駅」だけでは複数の駅が当てはま
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る可能性が高い。
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 しかし、東京では「名駅」のような例に記憶がない。単に省略ということなら、「池袋」の
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ぶくろ」、「御茶ノ水」の「ちゃみず」などがあるが、これは必ずしも駅を示さない。
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 そもそも、「池袋」にしろ「御茶ノ水」にしろ長い。省略したくなる。しかし、「なごや」はど
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うだ。「なごやえき」としたところで、省略の必然性が生じるほど長いとは思えないのだが。
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 「名港」「名城」となるとさらに不思議度が増す (*2)


 「覚わる」が「覚えることができる」である、という話はなかなか面白い。


 この本について一つだけ言わせてもらうなら、巻末の「名古屋語について」に苦言を呈
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したい。
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 例えば音便である。
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 “AE”が“YAA”になることがある。例えば「お前」が「おみゃぁ」になるわけだ。
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 いや、「になる」と言った時点で、他に標準があることを肯定している。
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 つめがあみゃぁでかんわ


 物事には順番が大事である。
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 俺みたいに、清水義範のイラストはサイバラと刷り込まれてしまった者には、なかむ
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ら治彦の絵になれるまで時間がかかる。



*1: 今の @nifty
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*2: これ、漢字変換がやたらにスムーズに行くと思ったら、「すばらしい港」「美しい城」
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 という意味ではないかと思い当たった。であれば「名駅」も含め、愛郷心の発露である
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 ところの洒落か?



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第156夜「ENDANGERED LANGUAGE」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp