Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第32夜

点製人語



 逆に、濁点がつくってーとどうなるか。

「無調法」が「ぶじょほ」となる。
 これは失礼をわびるときに使われることが多い。「なんと この前だば 無調法したす」という形で使う。自分や身内のことに使うことが多く、標準語での「口は無調法だが腕のいい職人」というような、第三者を形容する用法はあまり聞かない。
 煙草を吸わない、酒を飲まない、という意味も無い。

べご」が牛のことであるというのは有名な話であろう。濁点の話だからと言って「へこ」とかいう単語があるわけではないと思う。
べご」の語源等は不明。(→「」)
 どうでもいいことだが、「べご肉」「べご革」という言葉はない。日本人が牛肉を食べるようになったのがつい最近であることを考えれば納得が行くだろう。
 なお、馬は「うま」でそのままだ。

でゃ」という音の言葉が秋田弁にはある。ウルトラセブンが言う「デャッ!」とは発音が違う。
 例えば「さびでゃ」という感じで、他の単語にくっつけて使われる。「さび」については以前とりあげたから説明しない。
 意味は…何と言ったらいいのか。終助詞で、多分「よ」に相当するのだと思う。「さびでゃ」は「寒いよぉ!」ということなのだろう。*
「ゃ」をつけずに「」だけで使うこともある。この場合、ちょっと独白には使いにくくなる。「さびで」は、「今は雪の季節なんだからそんなに薄着だと寒いよ」という時に使えるが、外に出たときに思わず口を衝いて出る言葉ではない。そういうケースでは「さびでゃ」の方が多い。勿論、端的に「さび!」というのもアリだ。
 ま、独白用だと思って間違いない。

「はらう」に相当する「ほろう」という単語がある。お金の話ではなく埃の方で、地べたに座っていたとき、お尻の埃を払う、というときに使う。サンドイッチやクッキーの屑とか、まぁ、そういうものを手でパッパッとやる、あの動作だ。
 これにはどういうわけか、「ほろぐ」という形がある。
 冬に人の家を訪問すると、「まず 頭の雪 ほろげばいいねが」と言われたりする。
 なぜ 2 通りもあるのか、今一つ分からない。ワ行とガ行とではあまりに違い過ぎる。
「金を払う」の方は「じぇんこ 払う」で、そのままだ。

 もっと凄いのが「ぼう」。
 細長い木でもなければ、大きな犬の鳴き声でもない。
遊びに行ったっけ、忙しどって ぼわいでしまった
(遊びに行ったら、忙しいからって 追い払われてしまった)
 と使う。
 これ、「追う」なのである。
 当然、
あのえんこだば まだ童だどこで、モノ投げれば どごまでも ぼっかげでいぐ
(あの犬はまだ子供だから、モノを投げると どこまでも 追いかけていく)
 という応用形もある。
 補足すると、「ぼう」は「追う」よりは「追い払う」のニュアンスが強い。
 濁点化もここまで来れば大したもんだと思う。

 かと言って、なんでもかんでも濁点を付けりゃいいってもんではないのは、「無調法」が「ぶじょぼ」でないことでも分かるだろう。きっと、この辺にはルールがあるのに違いないのだが、ちょっとばかり難しすぎるので追求していない。



注:
 なんで及び腰になっているかというと、方言話者の感覚では、「寒いよ」と「さびで」はイコールではないのである。
「寒いよ」はよそ行きの言葉であると同時に、ちょっと軟弱な感じがする。
 俺は、はじめて上京した当時、いかにも悪そうで恐そうな高校生が別れ際、「じゃ、またね」という言葉を交わしているのを聞いて呆然としたことがある。(
)



音声サンプル(.WAV)

なんと この前だば 無調法したす(29KB)
さびでゃ(11KB)
まず 頭の雪 ほろげばいいねが(25KB)
じぇんこ 払う(12KB)
遊びに行ったっけ、忙しどって ぼわいでしまった(31KB)
あのえんこだば まだ童だどこで、モノ投げれば どごまでも ぼっかげでいぐ(50KB)



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