Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第80夜

「時の記念日」を休日に




 また「時の記念日」がやってきた。
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 『日本語大辞典(1990・講談社)』によれば、「時間尊重の観念を育成する目的で、大正
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九年に設けられた。天智十年(671)、天智天皇が始めて水時計を設けた日にちなむ」だ
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そうである。
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 「時間尊重の観念を育成する」なんて大命題があるんだから是非とも休みにして欲しい
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ところ。時間のことを考えるべき日に時間に追われて働くなんて矛盾してないか。6月は
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休日もないことだし、ちょうどいいと思うんだが。
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 そもそも日本人は時間にルーズなんである。何を根拠にしてるかというと、待ち合わせ
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や開会の時間通りに人が集まらないという、「(地名)時間」というのは全国どこにでもあ
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るからだ。よく聞くのは、なんて挙げるだけ馬鹿馬鹿しいくらいの数である。個人的には、
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主賓だろうが重役だろうが、時間を守らない奴は心の中で減点してやる方なので、時間
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がきたら問答無用で始めてしまうという「中村方式」が実にうらやましい。
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 「時の記念日」を休日に!


 「夜」のことを「ばげ」と言う、という話は去年した。
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 「一晩中」は、もちろん、「ひとばげ」である。
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 では「一ヶ月」は。
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 「いっかげつ」という人は多い。同時に「いっかつき」という人も、壮年層を中心に
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かなりいる。
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 「ひとつ、ふたつ、みっつ」の「つ」式の数え方が「ここのつ」で止まるのとは違い、
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じゅっかつき」でも「じゅういっかつき」でも使える。
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 こうした音訓の違いがあるのは「月」だけである。「三年」を「みつとし」と読んだり
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はしない。


 また話はそれるけれども、年月週日時分秒とある時間の単位の内、「週」と「時」
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だけが特殊である。
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 というのは、この二つは期間を表すことができない。期間を表現するには「間」とい
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う字をくっつける必要がある。
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 「この作業はどれくらいでできますか」と聞かれたとき、「1年」「2ヶ月」「3日」「4分」
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「5秒」とも、「1年間」「2ヶ月間」「3日間」「4分間」「5秒間」とも言えるが、「6週」
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「7時」は言いにくい。「6週間」「7時間」と言いたいところである。「6週」は通りそうな
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気もしないことはないが、「7時」はない。これは、時刻を指してしまう。
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 や、単に、そう言うことに気づいた、ということである。方言とは全く関係ない。


 別に「ひとばんげ」「いっかつき」から連想したわけではないのだが、「いっつに」と
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いう副詞がある。
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 「一」なのか「何時」なのか、はたまた全く別の単語が元なのか、これ、「既に」「と
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っくに」「もう」という意味である。
いっつに まま 食ったなが(もうご飯を食べてしまったのか)
 という風に使う。
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 「とっくに」が「疾く」だということはすぐにわかるだけに悔しい。
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 意味としては、ちょっと強調というか、「もう〜してしまった」というニュアンスが強い。
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上の例文は、「お帰りなさい。ご飯はすんだの?」という状況ではなく、「あんた、さっ
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き帰ってきたばっかりじゃなかったっけ?」というような場合に使う。
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 「あ、雨が降ってる。洗濯物を取り込まなきゃ」「やっといたよ」というような会話で
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いっつに」を使うと、かなり嫌味である。「天気が悪い事に今まで気がつかなかった
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のか。鈍いなぁ
」というような感じになってしまう。


 「」という間投詞、これも「もう」という意味がある。
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 に取り上げた、あゆかわのぼる氏の『あきた弁大娯解』という本で、「羽田だね、
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」という秋田弁の回文が取り上げられているのだが、これは「もう羽田(についちゃっ
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たん)だね」という意味である。
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 尤も、間投詞の特徴として、担っている意味が決して少なくはないので、必ずしも「
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=「もう」ではない、ということは申し添えておく。
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 これに関連した副詞で「後は」というのがあるのだが、これは次回。


 またまた、「時の記念日」記念で、時間関係の前後編。




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第81夜「時はバネなり」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp