Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第80夜
時はバネなり
その心は。
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その時々で長さが違う。
後編は、後編らしく「後」について考える。
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なお、この章では「後」は全て「あと/あど」と読む。「うしろ」ではない。
いきなり逸れるが、『角川新版古語辞典(1989・角川書店)』で調べていて「あと」と
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「のち」とでは意味が違うことに気づいた。
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「あと」は、「空間的に後ろ」の意味があるほか、時間的には未来も過去も指す。が、
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「のち」は時間の意味しかなく、しかも未来しか指さない。
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どちらも、死後を指すのは同じだ。
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「あと」は「先」の反対語なのかもしれない。
「後」は単体で、副詞として使える。
「あど 駄目だ(もう駄目だ)」
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「あど いい(もういい)」
という具合である。「いっつに」との違いは「〜してしまった」という意味の有無である。
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また、ここからのバリエーションと思われるが、「後」は、「これ以上は」という意味
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でも使える。
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MTB のレースで4周の所を3周でリタイヤした場合、
「あど 終わりが(もう終わりか)」
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「あどだば 死んでしまうでゃ(これ以上 走ったら死んでしまうよ)」
というような会話をかわすことがある。
先週、さわりだけ取り上げた「後は」は "adoha" と読む。「は」は「は」であって「わ」
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ではない。
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「ここから先はもう〜」という意味である。
「後は…なんともさいねべ(もうどうしようもないだろ)」
というように使う。
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この例文の通りで、あんまりいい意味には使わない。嘆息まじりだったりして、単に
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「あど なんともさいねべ」というのよりは意味が強い。
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尤も、先週取り上げた「は」がくっついただけじゃないか、という気もしないことはない。
「後」をわざわざ分けたのは、これがちょっと色んな違いを見せてくれるからである。
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まず、単なるバリエーションを挙げると、「後づに」「後がに」というのがある。どちら
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も「後で」という意味である。「後づに」は津軽弁だったかもしれない。
「そんたごと いいがら 後がに やれ(そんなことは、いいから、後でやれ)」
という風に使う。
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俺はどちらも使わない。ひょっとして、秋田県内・秋田市内でも地域差があるのかもし
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れない。
さて、面白いと思ったのは「後から」である。
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どうも方言臭い。
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上の例文を少し変えてみよう。
「そんたごと いいがら 後がら やれ」
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(*そんなことは いいから、後からやれ)
標準語でこれを言おうとするなら「後でやれ」であろう。
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「後から」を、「後回しにしろ」という意味では使わないと思うのだが、どうであろうか。
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ポイントは「から」の意味だと思われる。
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「から」は、運動の方向を示す助詞である。
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しかし「後からやれ」の場合、方向は無関係なのである。これが、標準語で「後からや
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れ」と言った場合の違和感の原因ではないか。
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例外は「後からゴチャゴチャ言う」という言い方である。これは、「後で、現在の行動
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に対して文句を言う」という意味で、未来から現在へ、という方向性が感じられる。その
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せいではないかと思うのだが。
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あるいは「後になってから」が詰まったもの、という解釈もできなくはない。
あ、肝心の「時」を忘れていた。これも、ちょっと方言臭い。
そこには行った時がない
「そこに行った経験がない」という意味だが、どうだろうか。他の地域で聞かれる表現
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ではないと思うのだが(*)。
聞くところによると、いわゆる「ハッピーマンデー」は「成人の日」だけになったらしい。
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あれ、「成人の日」じゃなかったかな。いずれ、1日だけである。
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最初に聞いたときは、月曜と金曜(土曜?)だったような気がするんだが、いつのまに
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か月曜だけになってて、最終的には年に1日だけ。
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社会とやらの仕組みがよく見える出来事だ。主役は休む人ではない。
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ま、休日をお上に作ってもらわないと休めないというのも、かなり悲しいが。
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そんなことも含めて、「時の記念日」が休日になることを切に祈りつつ、2度目の「時」
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の特集は終了。
注:TV を見ていたら、(東京の)新宿駅前でインタビューを受けていた 19 歳の女性が
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「この歌は聴いたときがある」と言っていた。尤も、その女性がどこの出身かはわか
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らないので、補足にもならないが。(981206 追加)
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その補足:注意して人の話を聞いていたら、どうも「時がない」は、出身地や居住地に
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かかわらず使われるようだ。秋田弁じゃないような気がしてきた。(990307 追加)
音声サンプル(.WAV)
あど駄目だ(14KB)
後は…なんともさいねべ(24KB)
そんたごと いいがら 後がに やれ(25KB)
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第82夜「カスの生産性」へ
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