思い出したように取り上げる「
鹿県」。「鹿児島県」の短縮形で、鹿児島でしか使われない語である。
なんで気になるかと言うと、単に長いだけなら神奈川県や和歌山県にも同じような短縮形があってもいいはずなのに、見当たらないから。
最初に言っておくと、今回もその謎は解けなかった。
新たに気づいたのは、「鹿児島市」を示す「鹿市」という形は使われていないようだ、ということ。「鹿児島県」だけが短縮されるのである。
不動産情報のサイトで、このことに触れている
記事があって、「地元紙の南日本新聞を中心に『鹿県(かけん)』と呼ばれることが多い」と書いてある。なんとなく、書き言葉のような気がする、とは思っていたのが、正しかったのかもしれない。
Wikipedia の
南日本新聞の
記事でも「鹿県」について触れられている。鹿児島に来ることを「来鹿」と書くともあるが、この形の省略は全国各地で行われている。
書き言葉という点では、長さではなく書いたときの複雑さが問題だったのかもしれない、という気もする。勿論、新聞は活字だが、以前は原稿の段階では手書きだったわけで、鹿児島の新聞に頻繁に出てくる「鹿児島」という語、その手間を省いた結果なのではないだろうか。
となると、画数の多そうな福島や愛媛はどうだろう、ということになるが、どうもそういう情報は見当たらない。でも、「福県」とか「愛県」とか、観光のキャッチフレーズとしてよくないだろうか。
県単位のニュースと市単位のニュースのどちらか多いかといえば前者で、省略したくなるのは「鹿児島市」よりも「鹿児島県」だろう、ということは言えると思うが、ふつうの感覚で言えば、「鹿県」が OK なら「鹿市」も OK じゃね、となると思うので、これはちょっと弱い。
愛媛で思い出したが、昔のナンバープレートは略字が使われていた。あるいは、一般道や高速道路の表記もそうだったらしい。これは、字が複雑で、一発で読み取れない虞があることと、ナンバープレートのように凹凸がある場合、そこに雨水がたまり錆びやすくなるのを避けるためなんだそうである。
これなんかは、前に紹介した、「
和可山」という列車の行き先表示も同じである。
長さに戻ると、秋田で一番長いのは
由利本荘市と
上小阿仁村である。どちらも短縮形が見当たらない。
上小阿仁村の方は、もともと「阿仁」→「小阿仁」→「上小阿仁」という派生なので、うっかり省略するとどこだかわからなくなる、ということは言える。あえてやれば「上阿村」かと思うが、それは一件もヒットしなかった。
由利本荘市は「由利」+「本荘」なので、「由本市」でよさそうだが、これもほとんどヒットしない。ただし、合併の際に候補にはあったようである。
さて、自治体名では省略形があったりなかったりすることが確認できたが、自治体名に近い名前でほぼ間違いなく省略される語がある。大学の名前である。
鹿児島大学を「
鹿大」とすることに異を唱える人はいないであろう。
だが、引っかかることがある。
一つは、たとえば「鹿児島大学」と「鹿児島県」を比べたとき、省略の必要があるほど頻繁に書いたり口にしたりするのは県名だと思われる、ということ。少なくとも、大学の名前を冠していて、行き先表示に記載される様な駅 (つまりターミナルまたは乗換駅) はそんなにないはずである。
*1
もう一つは、大半の都道府県名は二文字なので、それを冠する大学名は四文字になる。そもそも省略する必要があるほど長いか、という点。いや、半分ってば半分だが、二文字しか減らない。表に収めたい、とかいうのでないかぎり、それほど切実ではない、とも言える。
だが、大学に通う、あるいは目指しているのは若者たちだ、というのは重要ポイントかもしれない。彼らは頻繁に大学に言及するはずで、そうでない人に比べて省略への欲求は強いといえる。そしてその世代は省略を好む。
秋田大学は「
秋大 (しゅうだい)」以外の形はないと思う。
秋田県立大学は「
秋県大 (なんて読むの?)」という形があるようだが、これは全国的には「秋の県大会」という生徒・学生に縁の深い語と重なる。実際、「春県大」という語も多くヒットする。県内ではそれよりも「
県立大」という形が主だと思う。県立で「県立」とつく大学はひとつしかないので問題ないが、県外に出た途端、あちこちと衝突することになるのは言うまでもない。
国際教養大学は「
国教大」ということらしいが、これも話し言葉では「
教養大」と言われることが多いように思う。県立だが、名前に「県立」が入っていないので、秋田県立大と呼び方がぶつかることはない。
実は Wikipedia に「大学の略称」という
記事があって、そっちを見てもらえば、こんな駄文など用はないのだが、「
国大」という言い方もあるらしい。ただ、俺は耳にしたことがない。
ノースアジア大学は、
Wikipedia では「
ノース」となっているが、これも聞いた事がない。順当に行ったら「
ノア大」のような気もするが。形としては秋田経済大学、秋田経済法科大学だったころの「経大」「経法大」の方がわかりやすい。
聖霊女子短期大学は、
Wikiepdia では「
聖霊短大」となっているが、話し言葉としては「
聖短」。付属の中学と高校もあるので「聖霊」としたのでは衝突する。数年前だが、音楽科がなくなったのはちょっと話題になった。
今回の文章は、冒頭に書いたとおり、「
鹿県」の追求にはじまって、なぜか当然のように省略されている大学名が眼目だったのだが、
秋田公立美術工芸短大の四年制大学への移行が田中文科相によって拒否されたことで妙にタイムリーな記事になってしまった。
ここはもともと専門学校で、省略形は「
美専」「
美工専」→「
美短」「
美工短」と変化している。これが「美大」「美工大」になるはずが、土壇場でひっくり返されてしまったわけだ。
地元民としては、おいおい、という感じもするが、他所から見たら、地域エゴだ、と言う人もあろう。定員割れしている大学も多く、大学が多すぎる、質にも問題がある、というのは文科相の言う通りである。
だが、すでに審議会が OK しているものを、試験まで数ヶ月というところでひっくりかえす理由になるか、っていうと疑問である。そのことは別のタイミングでやるべきなのではないか。
今回は Wikipedia 祭りで恐縮だが、「
認可」を調べてみると、基準を満たしている限り認可を拒否することはできないものらしい。横車を押しているのは大臣の方だという気がするのは、地元民の僻みだろうか。
大学の質について、これからできる大学に対して云々するのは筋違い、という意見を読んだが、これが当を得ていると思う。