Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第795夜

さらば、誰ね




 サラ イネスという漫画家がいる。
 ここでも大阪豆ゴハン」と「誰も寝てはならぬ」を紹介してきたが、その「誰も寝てはならぬ」が終わってしまった。
「大阪豆ゴハン」の頃は連載していた週刊コミック モーニングを買っていたが、最近はもう漫画雑誌は4コマの奴しか買わなくなってしまった。それも普段は「まんがタイム スペシャル」一誌だけで、入浴時間が長くなる冬だけもう何誌か買う程度。したがって、「誰も寝てはならぬ」が連載されているモーニングは買っていなかった。最後の 17 巻が店頭に並んだときに初めて知って、「え?」と声を上げてしまった次第。
 寂しい。

 前にも書いたが、この人の漫画は大阪弁が乱舞する。この漫画は赤坂が舞台ではあるが、そこにデザイン事務所を構える面々が大阪出身だったりするので、やっぱり大阪弁が飛び交うことになる。
 この人の漫画を読んで「〜もって (〜しながら)」と「〜や (後述)」という言い回しを知った。これがテレビなどのメディアで流されることはあんまりないと思う。
 今回の 17 巻でも「や」は何度も出てくる。「しやへん」「片付けやんと」「しやんと」などだが、これのニュアンスは未だにはっきりわからない。
 改めてちょっと調べてみたのだが、読売テレビの道浦俊彦というアナウンサーが、これは京都弁だと明言している記事を見つけた。
 んー、そうなの?
 道浦氏は三重県出身、大阪育ちらしいの。アナウンサーとしてだけでなくバラエティ番組の校閲もやっているらしいから、言葉のプロではあるのだろうけれども、サラ作品でずっと「しやへん」の形を見てきた目には、ほんまかいな、と思われてしまう。ネイティブじゃないから、違うとも合ってるともいえないんだけどさ。

 似た言い回しとして、「入れよかとして」というのもあった。これは「(コーヒーを) 入れようとして」ということらしいのだが、この「よかとして」が目に付いた。ググったが、この形は一例しか出てこなかった。

 なぜ濃い大阪弁のことを「ボテボテ」と言うのか、についての謎はまだ解けていない。
「ボテボテ」の一例が、「相撲取り」のことを「すもんとり」と言うことなのだそうだ。
 主人公のハルキちゃん、ほのかに憧れていた女性がすもんとりと結婚してしまって、16 巻の途中からずっとブルー。

 その女性の祖父はゲテモノ食いの人なのだが、ゲンゴロウとかイナゴとかを薦めると断るハルキちゃんに、「もしイセエビが地上の生物だったら食いたいと思うか」と詰め寄る。確かに、あれがその辺をウロウロしてたら恐いかもしれん。
 こういう発想、どこから湧いてくるんだろうねぇ。

 さて、出てくるのは大阪弁ばかりではない。舞台が東京なので、東京弁もでてくる。
 銀座で生まれ育った女性が「あすこ」という表現を使っている。
 もちろん、「あそこ」なのだが、これは一応、江戸弁らしい。江戸落語でよく聞くし。
 と思ったが、よく調べてみたら、熊本とか淡路島あたりの例も見つかる。weblio では、津軽・茨城・福島・山梨・和歌山・鳥取・博多という名前が並ぶ。あらそうなの。
 秋田だと、「あっこ」?

「粋」というのもあった。これは「いき」ではなく「すい」と言うのが大阪風。
 ちょっと遡って、16 巻には「小っちょて」というのも見つかる。「小さくて」。

 方言がから離れると、その 16 巻には「タマ切れ」という表現が出てくる。電球のフィラメントが切れて点灯しなくなっている状態である。
 なんとなく俗語臭があってググってみたのだが、電柱や街灯の電球が点かなくなっていたら連絡をください、という役所の記事が山ほど出てくる。なんか別の言い方がある様な気がするんだけどな。
 うるさいことを言えば、上に書いたように、切れているのはフィラメントであって「球」ではない。
 LED 電球の場合、なんて言うことになるんだろうね。

 面白い言い回しだと思ったのは「遠足友達」。
 そのすもんとりと結婚した女性は、ハルキちゃんと出かけたりすることもあって、だからハルキちゃんはその気になったりするのだが、それを言っている。ハルキちゃんはそこから脱却できなかったわけ。

 ラストは、もう一人、ハルキちゃんが憧れてたお天気キャスターのオカちゃんといい雰囲気になっていそうな感じのところで終わる。
 ずっとオカちゃんって言ってたから、彼女が由真っていう名前だってことは初めて知った。

 最初に「誰寝」をとりあげたのはもう 4 年も前、その頃、「豆ゴハン」の文庫が出ているのを知って、買おうかどうしようか、と思っていたが、未だに決められていない。人はこうして年老いていく。




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