Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜



第788夜

ネイガーとマブヤー



 りあげた『琉神マブヤー』が映画になった。
 これのすごいところは、ローカルヒーロー初のロードショーというだけでなく、キャストはすべて沖縄出身者、ということである。
 さすがに脚本や監督は東京の人だが、この層の厚さには驚く。

 テレビ シリーズのときは、ウチナーヤマトグチ (多分) が字幕無しで放送されていて、それによる「置き去り感」が新鮮だったのだが、今回のはかなりわかりやすくなってるのではないか、という気がする。さすがに全部わかったとは言わないが、俺の耳が慣れてしまったわけではないと思う。
 気がついたところをいくつか挙げると、「もう帰ろうね」というような言い回し。これは相手を誘っているのではなく、自分が帰ろうとするときにつかう言葉。「帰りましょう」ではなく「帰ります」。
 驚いたり転んだりすると魂 (まぶい) が抜けてしまうことがある、と考えられている。抜けてしまったマブイを戻す作業が「マブイグミ」。「グミ」は「込める」だろうか。
 この映画のキーワードは「ちむぐくる」。「思いやる心」などという解説があったが、主人公と同じ名前のうるま市のページに寄れば、「肝心」と書くらしい。ただし、意味は今、言ったとおりで、「かんじん」とは全く違う語とのこと。

うるま」というのは「珊瑚の島」という意味らしい。

 俺は初日に行ったのだが、超神ネイガーが応援に来ていて、写真撮影会もしていた。
 一応、撮りはしたのだが、シネコンの薄暗い廊下でやったので、ケータイでは取れなかった。知っていればちゃんとしたカメラ持っていったのに、と悔やまれる。
 グッズ販売もされていた。俺が買ったのは、これ。
   
 ただのトランプではない。「大富豪専用」である。実はネイガー版は第二弾で、一年ほどにプレーンなものが出ている。
   
 まぁ、ほかのゲームができないわけではないが、大富豪で役割を持っているカードには、そうとわかるようなマークがつけられている。この写真では、場を流すことができる 8 がそう。スペードに斜線が入っている (真ん中にある筒はきりたんぽ)。
 因みに、ダイヤは米、クラブは蕗、ハートは比内鶏、スペードは秋田杉になっている。
 \1,200 とあんまり安くはないが、残念ながら紙なので、乱暴な使い方には耐えられないし、カードを曲げたシャッフルとかはできない。

 ここに方言要素はないのでスカっと終わるが、更にその半年前に、ネイガーのカルタが出ている。
 CD つきで、これをランダム再生すると読み手無しでカルタを楽しむことができるようになっている。
   
 なぜか中箱はご飯。
   
 読み札には IPA*1 表記があってびっくり。
   

 中身は勿論、秋田弁なのだが、これの最大のポイントは、「い」「す」「つ」の札がない、ということである。なぜなら、「え」「し」「ち」と紛らわしい、というか、話すほうも区別していないので、誤解が生じるからである。
 CD を再生してみた。
 はっきり言う。ほとんどわからなかった。一覧があるのだが、字で読んだらなおさらわからない。
 一応、「方言は、地域・時代・世代などによって使い方が変化するものであることを、あらかじめご了承ください」と書いてはあるが、それにしても、という感じである。
 聞いた事がないのを挙げてみる。
うだる」。これは「捨てる」。『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』によれば、由利・平鹿の表現らしいので、まぁ、俺が知らないのもしょうがないか。
まぐらう」は「食べる」。全県らしいが。
ちぱまる」は、「くされたまぐら」がやることとして使われているが、『秋田のことば (秋田県教育委員会編』『語源探求 秋田方言辞典』『本荘・由利のことばっこ (本荘市教育委員会、秋田文化出版)』のいずれにも載っていない。
ままざめ」は、「食事の用意」だそうだが、何かで目にしたような記憶がかすかにある。いずれ、俺の使用語彙ではない。『語源探求』には「ままざまい」という形で載っている。「仕舞」らしい。

 上で「す」の札がない、と書いたが、そのくせ「は」の札は「はぢおん (発音) 正しぐ。じめのシ (雀のス)』」とかましてくれる。

「ぬ」は「ぬだばって てれび見るな…ゆーちゃんねるさかえでけれ」で、訳が「寝そべってテレビ見るな…AKT にチャンネルを変えてくれ」。
 これは説明が必要だろう。
「ゆーちゃんねる」はもちろん、テレビの UHF 波を指すのだが、これが AKT になっているのは、秋田市近辺での放送チャンネルが、NHKABS が VHF であったのに対して、後発の AKT が UHF であったことによる。つまり、秋田市辺りでは「U チャンネル」と言えば、AKT を指していた。第三の民放 AAB も UHF だったが、やはり“U”と言えば AKT であった。
 地アナ時代の出来事である。*2
 書き忘れていたが、このカルタの製作は AKT.

 なお、カルタはもう品切れである。
 トランプは秋田でしか売られていない。

 俺が「マブヤー」を見たのは初日の初回だったが、東宝シネマズが二番目に大きな部屋を割り当てたというのに、観客数はその一割にも満たない 20 人程度。
 宣伝不足なのか、秋田の人が秋田のものを大事にしないのか。
 沖縄では、邦画の観客動員数の記録を更新したらしいぞ。




*1
“International Phonetic Alphabet”の頭字語で、国際音声学会が定めた「発音記号」。(
)

*2
 DYO さんからのツッコミがあったので、追記。
 昔の、ガチャガチャとダイヤルを回してチャンネルを切り替えるテレビには、選局ダイヤルが二つあった。
 VHF 用と UHF 用なのだが、VHF と UHF をどうやって選択するかと言うと、VHF 側のダイヤルに、1〜12 のチャンネルに加え、‘U’というのがあったのである。UHF の局を見るには、これを‘U’に切り替えて、UHF 側のダイヤルを見たいチャンネルに合わせる。
 実際問題として、秋田市周辺では UHF 局は一局しかなかったから、UHF 側のダイヤルは AKT の 37ch に固定である。したがって、見るほうは通常は 37 という数字を意識せず、VHF 側ダイヤルを‘U’に切り替えるだけ、ということになる。
 AAB が‘U’と呼ばれなかったのは、UHF 局が二つあるから、というのに加え、そういうテレビが減ってしまっていたから、と考えた方がいいのかもしれない。

 脱線するが、もっと古い、VHF しか受信できないテレビには、「UHF コンバータ」という機械を接続した。名前の通り、UHF の電波を VHF に変換するもので、今で言えば、「地アナテレビ」に接続する「地デジチューナー」に相当する。
 そのコンバータの出力チャンネルが 8ch だったので、俺の家では一時期、AKT のことを「8 チャン」と呼んでいた。
(120115) (
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