Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第225夜

ふるさと日本のことば (16) −長崎、石川、和歌山−



長崎県−見らんばよ (2/25)−

 まず地理的感覚から整理しておこうと思うが、九州本島(と言うのか?)の部分が占める面積が非常に少ないことに改めて驚いた。確かに、島と半島の地域である。島の数は 1,000 を超すとか。
 で、長崎市を中心とする南部が天領で、北が平戸藩。この違いは大きいだろう、と推察される。
 付け加えれば、壱岐・対馬は九州と韓国の中間地点に位置する、のだそうだ。

 長崎をはじめとする九州全域で「大きい」と言う意味で「太か」を使うことは知っていた。が、岡部氏が紹介するエピソードで、「太か駅」というのを聞くと、流石に驚く。
 つまり「大きな駅」ということなのだが、これを「ふとか駅」という固有名詞と勘違いした、という話。知識として知ってはいても、俺もそういう勘違いをしそうな気がする。

 同じく、その「太か」も含まれるが、「か語尾」についても同様。
 形容詞だけではなく形容動詞にもつく。だから「有名か」「急か」とも言う。
 更に、外来語にもつくという。「シビアか」という表現がある、というのだから、その生産力には驚く。

 佐世保のお姉ちゃん、
最近、ジャズ聞くっちゃん」ということで「16 万ぐらいっちゃんね」というサックスを買いに行き、なおかつウクレレにもトライしているという。そのバイタリティに敬意を表する。
 北部の特徴として、この「ちゃん」があるらしいのだが、一ヶ所だけ「かっこいいやん」と「やん」が登場する。誰もこれに触れなかった。

 方言と関係ないが、対馬のイカ。
 直径 2〜3m ありそうな円筒の外周にくっつける。で、乾燥させるためだと思うが、それを回す。壮観。

うち」が「私」、というのはわかるとして、「おうち」が「あなた」というのは驚いた。これは、たび (対馬で「よそ」) の人にはわからんだろう。
「可愛い」という意味の「みじょか」がまた登場する。「むぞうか」と同系の単語だと思う。今まで聴いたことが無かったが、かなり広範囲に使われているようだ。
 五島列島の「かしこまる」も面白い。客に対して「かしこまってください」と使う。これは、「胡座をかいてください」という意味。まぁ、現代では「足を崩してください」ということになるだろう。
 時代劇なんかを思い出してもらうとわかるが、偉い人は正座せずに胡座をかく。このことから「かしこまる」と「胡座」が結びついたのであろう、とのこと。相手を偉い人と見なしての、敬意を伴った表現である、と考えるがどうか

 「甘みが足りない」という意味で、「砂糖屋が遠い」と言う。これには、「砂糖船が沈んだ」の「沖を行った」の、「砂糖屋が休み」だのとすんごいバリエーションがある。前に『サライ』誌で「出島が遠い」という表現を見たこともある。

 俺が知らない現象が山ほどあった。そういう意味で面白かった。

俳優 岡部まり
長崎大学 愛宕 八郎康隆
長崎放送局 佐藤 寅彦

石川県−見まっしね (3/4)−

 金沢の知り合いから、何度も「輪島に遊びに行こう」てなことを言われていたのだが、秋田から金沢には片道 8 時間の特急が一往復あるだけで便が悪く、長らく渋ってきた。
 輪島には JR は通ってなくて私鉄かバスになるのだが、その特急で 16 時過ぎに金沢についても、例えば 19 時からの宴会には絶対に間に合わない。私鉄だと、2 度乗換えで 21 時過ぎになる。
 この 3 月のダイヤ改正でその特急すら廃止されてしまった。今では、上越新幹線を使って、二度乗り換えなければならない。大抵の経路検索ソフトは、秋田空港→羽田→小松空港のルートを出す。確かに、これが一番早い。
 北陸は遠い。

 漢字で書ける俚言が目立ったように思う。
はつめいな子 (利口な子)」「りくつなー (いい考えだ)」などなど。

よかたはべん」が「カマボコ」で、「ふかし」が「はんぺん」だということだが、「よかたはべん」の「はべん」って「はんぺん」なんじゃないか?

じー」という語尾が紹介される。
可愛いじー」というように使うのだが、これは、新しい事実がわかったときの表現で、例えば「可愛いじー」というのは洋服屋で試しにあててみたら可愛く見えた、というときに使う。「あ、〜だねぇ」というニュアンスなのか。
 形は似ているが東京弁の「ぜ」とは違うので、「俺は待ってるじー」とは言えない。
 というようなことを新田氏が説明していた。上手い。これまで登場してきた教授建の中でも上位に入る説明の上手さ。
 それに比べて、と言ってはなんだが、道場氏にはやる気が感じられない。それとも、あの人のしゃべり方っていつもあぁなのか?

げん」という語尾があって、これは若い人が使うらしいのだが、「だ」「のだ」という意味。
 で、「いいげんけどぉ〜」という発話が観察される。意味は「いいんだけどぉ」なんだが、「いいげん」に「けど」がついているのが興味深い。
 この、若い人の発話を紹介するコーナーは、いかにも方言然とした表現を除くと、基本的に全国共通語風であることが気になった。
 テレビだから緊張したのか、あるいは台本があったのでは、とうがったりもする。まぁ、若い人の発話はどこでもそうだ、とは言えるのだが。

いとしい」を元とする「えとしぎに」。これは「ご苦労さん」。
「自分の体を愛うしめ」という意味だということがわかって、疑問解決。

きんかんなまなま」。
 古い言葉らしく、若い連中はほとんど知らない。「和菓子? あんことかつまってそう」「金柑とナマコ」とか笑わせてくれる。餡の感じするか?
 これは、道路がツルツルである状態。正確には、積もった雪が踏み固められてツルツルになっている状態。雪国ならどこでも見られる。氷結したのとは異なる。凍ってないこともあるまいが。
 禿げ頭のことを「金柑」という例は山陰でも紹介したが、そういうことらしい。「なまなま」は「ぬめぬめ」と似たようなもので、湿度を持った漢字を追加使用したのではないか、とは新田氏の説明。

じー」に似た、特定のニュアンスを持った表現の「のきゃ」という相槌。
 これは、その場の参加者が皆知っている情報を話題にした時に使う。「ねぇ」みたいな感じ。
 であるから、「うちのお父さんカッコいいのよね、のきゃ」と言うと笑いをとれる。
 と説明してくれる新田先生、いい男だし、人気あんだろうかねぇ。

 でも、なんか食い足りなかったなぁ、全体としては。

料理人 道場 六三郎
金沢大学 新田 哲夫
金沢放送局 岩槻 里子

和歌山県−見やな、あかないしょ (3/11)−

 やっぱ、「しか」ですな。
 例えば、「こっちしか安い」という風に使う。意味は「こっちの方が安い」。鳥取の「図書館から勉強する」に匹敵するインパクトである。
 もともと「ほかない」と「ほかえぇ」という二つの表現があった。
 前者は「の他にない」、後者は「の方がいい」である。これがどちらも「ほか」であった。
 やがて、前者が「しか」に置き換えられる。この時、本来は意味も原型も異なる後者まで「しか」になってしまった、という過程らしい。

 次は、「でんでん」であろう。
 これは「全然」。
 つまり、ザ:ダ、ゼ:デ、ゾ:ドなんだそうな。
 説明を聞きながら、ほぅほぅと思っていたが、「ジ」「ズ」の話になったとき、「あ」と思った。四つ仮名絡みの行なんである。
 に、サ行の「シ」と「ス」、タ行の「チ」と「ツ」は他の行とは音が異なる、という話をしたが、この 2 つの行はそれだけ特殊なんだ、ということである。
 ジズヂヅには、“z”で表記される音と、“dz”で表記される音が混じっている、という説明を聞いて、あぁなるほど、と思った。
 桂氏が紹介する過剰修正の例で、「海岸通り」を英語で言うと「ビーチサンダル」じゃ、というのがあった。「海岸草履」というわけだが、ビーチサンダルは後で出てくる。
 これを「みずせった」と言うのである。「水雪駄」! 巧い。

「お菓子」という意味の「おちん」、「うらやましい」という意味の「けなるい」は他の地域でも使われる。
 特に、「けなるい」の方は全国的にかなり広い。古語辞典にも載っている。「異 (け) なり」らしい。*
おちん」の方は「お賃」「お駄賃」である。

 漢字の話を続けると、漁港のある串本町で使われる「すあみ」がある。意味は「不漁」だがおそらく「素網」であろう。
 これは、「直す」という意味の「きよる」とともに、太平洋側に広く分布するらしい。黒潮が運んだ言葉だそうだ。
なぶら」というのもあるらしい。これは魚群のことだそうだが、「魚 (な)」の「むれ」だろうなぁ。

 それぞれの発言はそこそこ滑らかで、桂氏あたりはさすが落語家、という感じなのだが、全体の流れがギクシャクしてたなぁ。

落語家 桂 文福
和歌山大学 柏原 卓
和歌山放送局 高山 哲哉




*
 なんで「異なる」が「うらやましい」なのかというと、「異なり」に「格別である」という意味があるから。
 『角川新版古語辞典(1989、角川書店)』は「褻形」という説を載せている。例の「ハレとケ」の「ケ」なのだが、普段着がどうして「うらやましい」のかよくわからん。





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