Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第226夜

ナンバン



 にも書いたが、渡来ものの食品には、原産地や原産地と見なされてしまった経由地の名前が付くことが多い。
「ナンバン」というのは、東南アジア諸国や、そこに植民地を持っていたポルトガル・スペインのことである。大元は、中華思想の国である中国で、南に住んでいる蛮族を指した言葉。*
 知っての通り、海運がメインであった時代、ヨーロッパが日本と貿易をしようと思ったら、南から渡ってくるしかない。だから、「ナンバン」とつくものはエラく多いのである。
 まず、中国・四国地方では「トウモロコシ」のことを指す。そもそも、このトウモロコシだって「唐+唐土」である。
 これが、東北から北陸では「トウガラシ」のことになる。「唐+辛子」だっつーの。
 さらに、ピーマンのことを指す地域もあるというからややこしい。まぁ、トウガラシも仲間だけどな。
 熊本の一部には「イチジク」のことを指すところもあるらしい。

 「ナンキン (南京)」なんつーのもある。これは近畿のカボチャ (カンボジアだって) 、香川の一部では「オチョーセン (朝鮮)」。
 関東では「トーナス (唐茄子)」とも言う。「トーナス」は、地域によっては「トマト」のことを指す。
 中四国の一部では「ボーフラ」というところもあるらしいが、これは、ポルトガル語の“Cambodia abobora(カンボジアの瓜)”から後半部だけを取り出したものだそうな。
 秋田の「ドフラ」もこの仲間だろう。
 宮崎では「ナンバン」なのだな、これが。

 方言から離れるが、カボチャが出てきたらイモに触れないわけにも行くまい。
「ジャガタラ (今のジャカルタ) イモ」に「サツマイモ」。後者は日本か。
 薩摩で思い出した。英語で“satsuma”と呼ばれる作物がある。「薩摩」そのものなのだが、これは何か。
 イモにあらず。温州みかんのこと。辞書でご確認を。今は“TV Orange”と呼ばれることもあるそうだが。これは「オコタでミカン」と一緒の発想。

 ジャガイモのことをフランス語で「大地のリンゴ」という、という話はにもした。これをオランダ語で言うと“aard appel”となるのだが、「あんぷらいも」という秋田弁はここから来ているらしい。

「南京豆」なんつーのもあるよなぁ。
「ナンキン」という種類の金魚もいるらしい。

 で、トウガラシなのだが、長野と九州の一部で「コショー」と呼ばれる。
 その「コショー」はと言うと、漢字で書くと「胡椒」。「椒」の方は「山椒」なんてのもある通り、あぁいう植物の総称だとして、「胡」は「えびす、北狄」である。これも地名だ。いやいや参ったね。
 更に南下して、沖縄では「コーレーグシ」「コーレーグース」となる。これは「高麗胡椒」。
 つまり、コショウの方がトウガラシよりも日本に早く入ってきていたということ。

 実は、秋田でトウガラシのことをナンバンと言う、というのは今回、初めて知った。
 食べ物は奥が深い。
 作物類に限らず、「南蛮」がつく食べ物が多い。これ、どういうものなのかまだよく分からない。「鴨南蛮」と「南蛮漬け」に共通点ないでしょ?
 うかつによその地域で買い物したり食事したりできない、ということがわかる。
 そば屋で辛子くれって言うとカボチャが出てきちゃうんだからなぁ。




*
 後は、北狄 (ほくてき)、西戎 (せいじゅう)、東夷 (とうい)





参考:
『最新 一目でわかる全国方言一覧辞典(学研)』
『秋田のことば (秋田県教育委員会編、無明舎出版)』




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