Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第185夜

病める秋田弁



 目下、病気中である。
 東京に一泊二日で行き、その夜は 2 時まで熱い話し合いを続け、8 時に起床、飯食ってインチキな観光をして、11 時の飛行機で帰ってきた。大してキツいスケジュールではない。
 初日が 1 便で早起きだったから、2 日連続で熟睡していない、というのは事実だが、それくらいで風邪はひかんだろう、普通。俺の体は移動が苦手なのではないか、と思う今日この頃である。
 飛行機なんてのはずっと密室だから、風邪引きが一人いればあっという間に感染するらしい。新聞か何かで読んだような気がする。
 鼻をかむと、空気の悪さがはっきり確認できる。飛行機にしろ、東京にしろ。

 初期症状は筋肉痛であった。
 今にして思えば、出発の前日に鼻が詰まっていて、これが本来の初期症状だろうと思うのだが、慢性鼻炎もちとしては、そんなのは日常茶飯事で、当てにならないのである。迂闊といえば迂闊だが。
 \300 のコインロッカー代をケチって荷物を背負って歩いたために腰が痛くなる、というのもよくあるのだが、腿から来たのが謎であった。車を運転していると、クラッチを踏む足や、ギアを変える左手に鈍痛がある。酔って暴れたか? と思ったりした。
 熱も上がっているようだが、恐くて測っていない。39 度とか言ったら、その数字だけで倒れそうな気がするではないか。
 こういう状態を、「へづね」と表現するのだ、ということはにも書いた。
 疲労感を表現するために「こえ」と言ってもよい。「ねふて」「いで」「のぎ」「さび」、如何様にでも。

 風邪とは違うが、岡山や広島あたりには、痛みが「はしる」地域がある。体表面付近の激痛である。歯痛が当てはまる。その地域では、腹痛のような、体深部の鈍痛を「にがる」と言う。
 風邪による筋肉痛は鈍痛だが、「にがる」と言えるのだろうか。

 秋田弁らしい表現を掲げるなら、「やむ」であろうか。
 これは、「痛む」という意味。恐らく「病む」と書くのだろう。
 実は俺にとっての使用語彙ではないので、詳しいことはわからないのだが、歯痛にも使える…のかなぁ。使えないような気がするなぁ。
 でも、手術痕がしばらくの間「やむ」ということはあるみたいだし。「やんで やんで 寝らいねがった」ということもあるみたいだし。
 よそから赴任してきた医者が、患者が「やむんだす」というのを聞いて、「そりゃそうだろうな」と思うことがあるとかないとか。

 英語には「一日一個のリンゴは医者を遠ざける〜An apple a day keeps the doctor away」という諺がある。
 しかしリンゴは、シーズン中を除けば、\100/個を越えたりするので、そうそう毎日食えるものではない。たまに、一箱 \1,500 とか言って大安売りしていることもあるが、これはこれで、食い終わる前に腐ることが目に見ていている。悩ましい。
 逆に異様に安いと思うのがキウイフルーツで、これなんぞ下手すると 4 個で \100 だったりする。このアンバランスはどうだ。
 フランス語における「大地のリンゴ〜pomme de terre」は、ジャガイモのことである。栄養価の高さをたとえたわけだ。

 話を日本語に戻す。
 “Apple...”に似た表現が、門司にある。
 「医者殺し」である。
 これは、魚を食べ終わった後、その骨を茶碗に入れてお湯をかけ、残った身をこそげとるとともに、そのスープを呑む、というものである。
 魚の持っている栄養分を、それこそ髄までしゃぶり尽くすのだから、体にはすこぶるよさそうである。だから「医者殺し」。まさに、魚の町の面目躍如というところか。
 それにしても、物騒な俚言もあったものだ。

 ここまで書いたのは、日ごろの健康法。
 寝込んでしまってからでは遅い。
 普段の貧弱な食生活がたたって、薬を飲もうが、ドリンク剤を飲もうが、ゼリー状の栄養補助食品を食おうが、一定期間 (大体、1 週間) 経たないと回復しないのであった。




参考:『方言自慢 (川崎 洋、小学館文庫、ISBN4-09-402701-7)』




"Speak about Speech" のページに戻る
ホームページに戻る

第186夜「ふるさと日本のことば (4) −長野、青森、鹿児島−」へ

shuno@sam.hi-ho.ne.jp