Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第164夜

雑誌で取り上げる方言−1999−




 遅ればせながら、去年の方言関係の記事をおさらいしてみようと思う。


 一般誌の方は、真面目に探したわけではないので、朝日新聞社出版局の『サイアス
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のみ。8 月号で「言葉をナメるな!」という特集をしている。その中のコラムが城崎哲氏の
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「憧れの名古屋弁に挑んでみたがや」。
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 なぜ「ドライブ」を「ドリャーブ」と言わないのかという話題、名古屋弁コンバータの作者
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を訪ねた話などが取り上げられている。


 専門誌の方だが、明治書院が『日本語学』の 11 月臨時増刊として『地域方言と社会方
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言』を出している。290 頁の大部で読みごたえがある。
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 テレビ番組に出てくる方言を調べた論文や、伊奈かっぺい氏、既出の松本修氏などの文
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章がある「地域方言とその周辺」というセクションなどは読みやすいだろう。
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 印象に残ったのは日高貢一郎氏の「方言の復権」で、この中で、NHK や民放の基準の変
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化を追っている。
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 それによれば、ごく最近まで、方言がメディアにのると地元の人が不快な思いをする、と
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いう前提で番組が作られていたようである。これは、間違った使い方とか不正確な表現と
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かではなく、「方言は恥ずかしいもの、隠すべきものである」と地元民が思っている、とい
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う意味である。


 本誌の方では、
1 月号 おもしろい日本語
5 月号 日本語史と方言研究との接点
12 月号 気になることば

 という特集が方言を扱っている。
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 「おもしろい日本語」では、金田章宏氏が「八丈方言から古代語をさぐる」という論文を
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発表している。
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 つまり、奈良から平安期にかけての変化を研究するに当たって、文字資料はほとんど
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期待できないが、八丈方言や琉球方言などに残っている特徴を吟味して材料とすること
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ができるのではないか、という趣旨なのだが、この論文は「ただし、残された時間は、ごく
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わずかである」と結ばれている。既に取り上げた、“ENDANGERED LANGUAGE”の問題
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がここにも及んでいる。
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 「気になる言葉」では、3 月に中公文庫から『大阪ことばと外国人』を出した彭飛 (ポン・
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フェイ) 氏が「『向こうの人』は差別語なのか」という論文を載せている。
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 なお、この本の例文を英訳したダニエル・ロング氏は、既にとりあげた小笠原の言語に
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ついて、大修館書店の『言語』の 9 月号に「『危機言語』と小笠原初頭の言語」という文
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章を載せている。
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 その『言語』だが、特に方言を扱った特集は組んでいない。
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 ただし、連載企画の“ENDANGERED LANGUAGE”に、日本の諸方言とアイヌ語が取り
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上げられたことは注目するべきであろう。


 惜しいことに、2000 年の 1 月号では、『言語』が「『大阪語』論」、『日本語学』が「遊び
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のことば」、『国文学 解釈と鑑賞』(至文堂) が「方言の一世紀」と方言絡みの特集をし
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ている。これは別の機会にでもとりあげてみる。


 一番面白かったのは、方言とは関係ないが、『言語』2 月号の「予言の構造」。いかに
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も 1999 年らしい特集であった。


 雑誌ではないが、新聞では、秋田魁新報で 2 つ。
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 まず、例の『全国アホ・バカ分布考』の筆者にしてテレビプロデューサー、松本修氏の
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「胸熱くした庄内弁」。「新婚さんいらっしゃい」では、「方言を恥じ、無理して標準語を使
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おうとするカップルはまず選ばれない」そうである。
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 もう一つは、既に取り上げたが、佐伯一麦氏の「浜茄子と浜梨」。
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 どちらも東京配信の記事だと思うので読んだ人も多いのではないか。


 全体としては、ちょっと大人しめの 1 年であったように思う。



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第165夜「方言コンプレックスの生成 (1)」

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