抗不安薬の依存性
昭和63年6月1日号 No.23
ベンゾジアゼピン系による依存
ベンゾジアゼピン系抗不安剤は、大量を長期間服用しない限り依存は起きにくいとされて きました。ところが近年、常用量での依存例の報告が相次ぎ、これらが二重盲検試験で 確認されたことから、俄に脚光を浴びて来ています。 ベンゾジアゼピン系依存の特徴は、モルヒネのような多幸を伴う耐性の増加や量の増加はなく、身体依存もすぐには起こりません。 薬用量を反復使用するうちに次第に身体依存、離脱症状が惹起されてきます。 |
ベンゾジアゼピン系による薬物依存があったり、その存在が疑われるときは、服薬の中止
の必要があります。その場合、重篤な離脱症状を避けるために通常は漸減法を用います。
半減期の長いもの(ジアゼパム、ベンザリン等)では、乱用の程度が重篤でも、2〜3日毎
に1日量を30~50%減量することにより約3週間で成功します。この場合最初に減量する
割合を多くし、次第に少なくしていくのが良いとされています。
半減期の短いもの(レスミット、ハルシオン等)では、離脱を注意深く慎重に行う必要が
あります。半減期の短いものから、長いものの同量に置き換えていくと、血中の変動も
みられなくなり安全です。
※ベンゾジアゼピン系長期服用後にみられた離脱症状
非特異的症状:睡眠障害、不安、不快、筋肉痛、筋攣縮、振戦(震え)、頭痛、嘔気(むかつき):食欲不振・体重減少
知覚変化(量的):感覚過敏(音、光、臭い、触覚)、感覚鈍麻(味、臭い)
知覚変化(質的):動揺感、運動知覚障害、
視覚(対象動揺、平面のうねり等)
味覚(金属製味覚、奇妙な味覚)
聴覚(反響そして共鳴減少)
嗅覚(奇妙な臭い)
その他:離人症(現実感消失)
主な不随現象:精神病、てんかん様発作
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睡眠薬の常用量依存
2005年6月15日号 No.408
睡眠薬は、ベンゾジアゼピン系薬物とその類似薬剤が第一に選択され、各診療科で汎用されています。
しかし、ベンゾジアゼピン系薬物とその類似薬剤の代謝経路は主に肝臓で、肝機能が悪い患者ではその代謝が遅延する危険性や高齢者では蓄積が起こり、予期しない結果を招くこともあります。
ベンゾジアゼピン系薬剤は、耐性が生じにくく依存性も弱く、安全であることなどから非常に多く使用されています。
しかし、あまりにも安易に使用されているため常用量依存という概念が忘れられがちとなっているのが現状です。
常用量依存症状は減薬や服用中止によりそれまでなかった症状として現れます。
<常用量依存で現れる症状>
不安、焦燥感、気分の落ち込み、頭痛、発汗、手足のしびれ、振戦、知覚異常、痙攣発作、離人感(現実感消失)、動悸、嘔吐、嘔気、下痢、便秘、腹痛など
最近行われた調査では、症状発現率40%と言う報告もあり、高齢者ほど出現頻度が高く、また半減期の短い薬剤ほど高率に発現するという結果が得られていますが、60歳前後であっても、また半減期の長短にかかわらず常用量依存を生じる可能性が十分にあります。
服用期間としては、4ヶ月以上の比較的長期に服用した例に多いという報告があります。するなどの指導も行います。
{参考文献}日本病院薬剤師会雑誌 2005.6 愛知県春日井市民病院薬剤部
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ベンゾジアゼピン系の臨床用量依存
1990年代に乱用目的で闇取引されたり、犯罪目的で使用された事例が、マスメディアに大きく取り上げられたことから返って関心を呼び起こされ、乱用が広がった時期がありました。こうした背景から、危険な薬という誤解が生まれ、「できるだけ飲まない方が良い」とするむきもあります。
しかし、ベンゾジアゼピン系は原則として耐性が形成されず、臨床用量依存となっていてもQOLの高い社会的生活を営むことはでき、副作用も軽微です。
この種の薬物に対する偏見から、服薬への罪悪感や引け目があったり、薬無しの生活への希求があるなど、患者自身が服薬への心理的な抵抗感を持っているのも特徴と言えます。
ベンゾジアゼピン系の依存形成はバルビツールやアルコールほど強力でないことも指摘されていて、基本的に安全性の高い薬物です。その適切な使用は不安や不眠の治療で、きわめて有用です。ごく希に高用量依存に陥る事例もありますが、こうした事例でも本人にその意思さえあれば減薬は十分可能です。ただし急激な減薬は離脱症状を引き起こすため、適切なプランに従って漸減することが大切です。
出典:日本薬剤師会雑誌 2001.7
医薬トピックス(8)にんにくの癌に対する作用はこちらです。
睡眠導入剤 出典:月刊薬事 2000.12
ベンゾジアゼピン系薬物の離脱症状は、超短時間作用型薬物(デパス錠等)を長期間服用した後、服用を止めたときに多く見られます。
離脱症状の発現時期はその作用持続時間を反映します。短時間作用型では1〜2日程度、長時間作用型では2〜5日程度あるいはそれ以上経過後に離脱症状が見られます。
離脱症状は発現後、数日でピークとなり、多くの場合1〜3週間かけてゆっくりと消失していきます。
離脱症状を避けるためには、特に長期間服用後は、1週間毎に漸減(少しずつ減らす)して慎重に止めることが必要です。
ハルシオン錠、ソラナックス錠、ワイパックスなどは特に注意が必要で、短時間作用型の場合には一度長時間作用型薬物に換えてから漸減するとより安全です。
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睡眠導入剤、抗不安剤の使用にあたっては、急に薬を止めたことによる反跳症状や離脱症状を避けるために、自己判断で服用量を増量したり、急に中断しないように患者に十分指導することが必要です。
不眠を訴える患者では、不眠により睡眠覚醒リズムが乱れる場合があり、それによる不眠を増悪させる場合があるため、「日中は昼寝をしない」「可能であれば運動を勧める」「毎日決まった時間に起きるなどサーカディアンリズムを保つ」などの生活指導を行う事も重要です。
睡眠導入剤服用後に寝ないで生活行動をしていると薬の効果発現時期を逸してしまうこともあるため、服用後はなるべく早く床につく様にするなどの指導も行います。
ハルシオン錠やアモバン錠などは睡眠途中覚醒時に健忘が見られることがありますので、睡眠途中で目が覚めた時には動き回ったりしないように指導することも必要です。
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抗不安剤、睡眠導入剤一覧
*ベンゾジアゼピン系
超短時間型:ハルシオン錠
短時間型:ドルミカム注、レンドルミン錠、リスミー錠
中時間型:サイレース錠、ベンザリン錠
長時間型:フルラゼパム、ハロキサゾラム
*バルビツレート系
中間型:ラボナ、アイオナール、イソミタール
長時間型:バルビタール
*非バルビツール系
超短時間型:アモバン錠、マイスリー錠、エスクレ、飽水クロラール
短時間型:トリクロリール
長時間型〜ドラール錠
<<抗不安剤>>ベンゾジアゼピン系
短時間作用型(6時間以内) :デパス錠
中時間作用型(12〜24時間):ワイパックス、ソラナックス錠
長時間作用型(24時間以上) :クロルジアゼポキシド、セレナール、ジアゼパム
:エリスパン錠
超長時間作用型(90時間以上):セダプラン、メイラックス錠
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ベンゾジアゼピン系薬剤による離脱症状
2002年7月15日号 No.341 関連記事 抗不安薬の依存性もご覧下さい。
{参考文献}日本薬剤師会雑誌 2002.7
ベンゾジアゼピン系薬剤を長期服用すると、ベンゾジアゼピン受容体の感受性低下などが生じ、薬剤の効果が減少することによって、正常なGABA機能への回復が起こります。
その環境下で、ベンゾジアゼピン系薬剤を突然中止すると、GABA機能の急激な低下が引き起こされ、生理的にはGABAによって抑制されている脳の機能が亢進して、離脱症状が出現すると考えられています。
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GABAの作用〜脳の広範な部位で神経の活動を抑制。このBDZ系薬物によるGABAへの増強作用がBDZ系薬物の抗不安作用の機序であると考えられています。ちなみに、エタノール,バルビツール酸系睡眠薬もGABAの作用を増強することが知られています。BDZアゴニストは抗不安作用のほか、筋弛緩作用、自律神経安定作用、催眠鎮静作用、抗痙攣作用も持っています。
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*ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱時に起こる現象
1.反跳現象
薬剤によって抑制されていた症状が一過性に薬剤服用前より強くなる現象
薬剤服用前と症状の性質は変わらないが、その強さがより大きく現れる現象。
反跳性不安、反跳性不眠など。
2.離脱現象
薬剤服用前には見られなかった症状もあらわれる。反跳現象とは異なり、服用前に比較して、症状の性質も変化しています。
一般に服用中止後、2〜3日で出現し、薬物の血中半減期が短いほど、早期に症状が出現します。
持続期間は、普通、2〜4週間ですが、時に筋攣縮によって特徴づけられるような遷延性の離脱症状を長期間呈することもあります。
離脱症状としては、出現頻度は高いが非特異的なものと、比較的頻度は低いが特異性の高いものがあります。
出現頻度は高いが非特異的なもの:不眠、不安、気分不快、筋肉痛、振戦、頭痛等
比較的頻度は低いが特異性の高いもの:知覚障害(知覚過敏、知覚変容)、離人感
その他:まれに痙攣や精神病症状
3.偽性離脱症状
ベンゾジアゼピン系薬剤を服用している患者は、もともと不安傾向が強いため、薬が減量されたと思うだけで、症状が悪化する現象
離脱症状とは異なり、不安症状だけが悪化し、ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱症状に認められる知覚の障害や精神病症状は見られませんが、反跳現象や離脱現象と共通の症状が出現するため、注意が必要です。
偽性離脱症状に対しては、薬物減量に伴う症状の再燃や離脱症状の出現に対する患者の恐怖を十分に治療者が共感し、ただ単に機械的な減量を行うのではなく、精神療法的なアプローチを行う必要があります。
4.症状再燃
元々の疾患が再び悪くなることで、薬剤服用前と比べて、症状の性質も強さも基本的には変化しません。経過は、反跳現象や離脱現象とは異なり、薬剤中止後、徐々に出現します。
<離脱症状が現れる要因>
1.1日の用量
通常量での長期服用者、亜急性のベンゾジアゼピン系薬に特徴的な離脱症状
大量の場合では、急性のアルコール・バルビツレート型のより激烈な離脱症状
2.服用期間〜出現を左右する重要な因子
服用期間が長いほど、離脱症状の出現率が高まり、特に8ヶ月以上の服用で出現の可能性が高くなるとされれいます。
3.減量速度
急激な中断は、離脱の成功率を低下させ、痙攣発作やせん妄などの重篤な離脱症状を引き起こす可能性を高めます。
4.半減期
血中半減期の短い薬ほど、離脱症状が高頻度で現れ、その程度も強い。
<離脱に際しては、漸減法が原則>
50%の減量までは離脱症状がほとんど出現せず、その後の減量過程でほとんどの症状が現れるとされていることから、具体的には、最初の50%までは2週間程度の比較的早い減量が可能ですが、その後は症状に合わせて、4〜7日ごとに10〜20%ずつ減量し、4〜8週間かけて減量すべきであるとされています。
離脱症状が現れた場合には、減量速度を下げたり、減薬を全く行わないプラトー期をおいたりすることが有効です。プラトー期をおくことにより、低用量への順応がスムーズになるばかりでなく、その経過を観察することにより、減量中に生じる不安が一過性の離脱症状か、その後も増悪する症状の再燃によるものかの診断が可能になります。
半減期の短い薬剤では半減期の長い薬剤に変更し漸減していく方法が有効であると考えられています。
<抗不安剤の作用時間から見た分類>
短時間型:デパス錠、グランダキシン錠
中間型:ソラナックス錠
長時間型:メイラックス錠、エリスパン錠
<補助薬>
インデラル:離脱症状の発生率を低下させたり、離脱の成功率を上げたりすることはないが、離脱症状を有意に低下させるとの報告があります。
テグレトール、バルプロ酸:離脱症状自体は軽減しないものの離脱の成功率を高めたとの報告があります。
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ベンゾジアゼピン系薬剤の離脱に際しては、症状に合わせた漸減法が原則です。再燃が予想される場合にはセディールやSSRIなどセロトニン系薬剤の導入を並行するなどの処置が必要と思われます。しかしベンゾジアゼピン系薬剤が、病的とは言えない日常の不安に対しても頻用されてきたという反省点に立ち、安易な使用を避けて依存形成をさけることも重要な点です。
関連記事 抗不安薬の依存性もご覧下さい。
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2002年7月15日号 No.341 逆流性食道炎はこちらです。
DSM−IV:国際的精神疾患の診断基準
DSM:diagnostic and statistic manual of mental
disorders
DSMでは、物質乱用、物質依存、物質中毒の診断基準が定められています。
*物質乱用(薬物乱用)
明らかな障害や苦痛を引き起こすようなやり方で薬物を使用すること。
その結果、1.職場(学校、家庭)で重要な役割を果たすことができない、2.例えば飲酒運転のように、危険のある状況下でも物質を反復使用する。3.それにより法律的な問題を引き起こす。4.社会的または対人関係の問題が起きているにもかかわらず、物質の使用を止めない。などの問題が生じます。
*物質依存(薬物依存)
薬物の使用によって形成された神経生理学的状態で、以下の内3つ(またはそれ以上)があるとされます。
1.耐性の出現、2.離脱症状の出現、3.はじめの心づもりよりも大量に、長期間使用する。4.物質の使用を止めようと思っても止められない。5.物質を得るための活動に費やされる時間が長い、6.物質を使用するために社会的、職業的、娯楽的活動が減少している。7.物質使用により精神的、身体的問題が起きていることをうすうす知っているが止められない。
物質依存は神経生理学的な変化が生じている点で物質乱用とは異なります。
嗜癖は依存とほぼ同義の用語として使われていますが、DSM−IVには定義されていません。
薬物の強迫的な使用や薬物を入手することへの熱中などの行動面を漠然と意味する用語として使われています。
*物質中毒(薬物中毒)
可逆的かつ物質特異的な症候群で、物質が使用されている条件下でその物質の中枢神経系に対する作用により不適応行動が出現したり、喧嘩早くなったり判断力が低下したりといった心理的な変化が発現している状態。
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薬物依存
出典:医薬品作用の基礎と応用 吉成昌郎 著
薬物依存とはある薬を用いているうちに、次第にその薬を繰り返し欲しくなる状態を出現させる副作用を言います。
中枢神経系に作用して気分を良くする、すなわち多幸症を誘発する性質の物質として、アルコール、ニコチン、カフェインのような嗜好性のものや鎮痛剤、催眠剤、その他の精神機能に影響を及ぼす薬物があります。これらを高用量または長期間服用した後に、なおこれを続けたいという願望、すなわち薬物依存の状態が出現することがありますが、これは次の2つに分けることができます。
1)精神的依存
従来から習慣性と呼ばれる症状で
1.快い気分を味わい為に、常にその薬物を望む(しかし強迫観念でない)
2.用量を増加していく傾向が少ないか、全くない。
3.薬物の作用にある程度精神的な依存を持つが身体的依存性を持たない。〜禁断症状*を欠く。
4.要するに不利な効果があったとしても、そそれは全く個人に限られたものである。
* 禁断症状:薬が体からなくなると、精神的なものを越えて肉体的な機能障害を示す症状。
2)肉体的依存
嗜癖(addiction)とも呼ばれ、もはやその薬物が常に存在しなければ代謝が性状に行われなくなるため、薬物が切れると激しい肉体的障害すなわち禁断症状が起きたり、ときには死ぬこともあり、外部から強制的に行われなければ薬物を中止できなくなる状態で、周期性あるいは慢性の中毒症状です。
1.どんな手段を用いても入手しようとする強い願望(強迫観念)がある。
2.用量は増加していく。
3.薬物の作用に対する精神的(心理的)依存と、大抵は禁断症状を起こすような身体的依存がある。
4.個人及び社会に対して害悪を及ぼす。
<耐性>
耐性とは薬物を反復使用して用いているうちに薬物代謝系が賦活されて用量の有効部分が次第に減少し、はじめと同程度の薬理作用を得るためには次第に増量しなければならないようになった体内事情を言い、薬物依存とは密接な関連があります。しかす、概念的にはあくまでもある特定の薬物に対する生体の感受性の程度を示す基準から、その程度が低いことを示そうとする言葉であって、薬物依存とは区別されています。
アロスタシス
allostasis
アロスタシスは「ホメオスタシス」をもじった言葉で、ホメオスタシスが負のフィードバックによる定常状態の維持を示すのに対し、アロスタシスは同じくフィードバック機構による生体機能の調節を想定しながらも、その目標値が徐々に変化していく過程を示します。
この概念が単なる薬理学的耐性や鋭敏化と異なるのは、ストレス刺激に対する生体の適応的反応とその破綻という枠組みの中で生体が病的状態に陥っていく過程を総合的に理解しようとする視点にあります。
アロスタシスの考え方は、まずは純理論的に薬物依存研究に入ってきました。
依存性薬物の摂取によって多幸感が生じたとします。生体は情緒的にも恒常性を維持しようとするので不快気分を起こす力が働きます。
薬物効果が減弱して多幸感が消退した後にはこの不快気分のみが残ります。これが“アロスタティック負荷”となり、次に薬物を摂取したときの多幸感は初期値までには達しません。このような経験を繰り返すと定常的な気分状態のセットポイントが徐々に不快有意の方向にずれていきます。
アロスタシスが薬物依存に関与しているかどうかを実証する研究はその端緒についたばかりですが、その解明が進めば、薬物依存をストレスに対する感受性の個人差などの生体側要因として薬物効果との動的相互作用として捉える視点が開かれるものと期待されています。
出典:ファルマシア 2003.7