HS病院薬剤部発行     

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 薬 剤 ニ ュ ー ス  

  1994年

7月15日号

NO.156

                                     

 妊婦への情報提供について                      

−服用後の情報提供−                                  

 妊婦に対して薬剤情報を提供する際に重要な留意点として、服用前と服用後では、異なった助言が必要とされています。これは、妊娠中の薬剤は危険との大まかな認識から、無影響期の服薬にも関わらず不安に陥っている妊婦には、薬剤の説明でより以上の不安をかきたててしまうかもしれないからです。

 {参考文献} JJSHP,VOL.30 NO.7,8(1994) 

  虎ノ門病院薬剤部

 

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 服用前の患者から妊娠中の服用に関して質問を受けた場合には、何らかの有害性を示唆する情報のある薬剤を避けて、より安全と考えられる代替薬を検討することができます。また疑義があれば、与薬の必要性自身を再検討することも可能です。

 一方、既に服薬してしまった妊婦からの相談では服用した事実は変えようのないものです。このような相談のでは、服用した薬剤の催奇形性情報を調査し、服用した時期の危険度と併せて評価したうえで 本人に説明することによって、無用な不安を取り除く必要があります。

 100%の保障が出来ないことを意識するあまり、妊婦からの質問に対して「胎児に奇形が起こるかどうかは、生まれてみるまでわかりません」と説明すると、本来の危険度よりも過大にうけとられることがあります。薬剤の催奇形性を気にして不安に陥っている妊婦は、絶対的な保障を願望している傾向があり、上述の説明では五分五分あるいはそれ以上の確率をもって奇形が生じるように感じるからです。

 薬剤を服用してしまった妊婦の胎児への危険度を評価するために必要な情報はあまりにも不足しており、この情報不足が適切な助言を妨げ、妊婦の不安を助長する要因となっています。また情報の要約をそのまま説明すると危険度に誤解を生じるケ−スもあり、このような場合には、多少工夫して情報を提供する配慮も必要です。

[奇形の自然発生]

 妊娠中の服薬が胎児へ及ぼす影響について妊婦に情報提供するにあたってもう一つ大切な留意事項があります。それは、通常の妊娠にみられる奇形の自然発生率について理解してもらうことです。

 出生時に気付かれる新生児の異常は1%弱でありその後発見される内蔵の奇形や精神発達遅延などを含めると約2〜3%の新生児は先天的な異常を持って生まれてくるものと考えられています。

 薬剤の危険度は、通常の妊婦との比較で評価するものであり、薬剤を服用していない通常の妊婦より危険度を増加させるかどうかなのです。

「薬剤を服薬していない普通の妊婦と比較して、危険度の増加を示唆する情報はなにもありません。つまり、催奇形の危険度は普通の妊婦と変わらないと考えています。ただし、普通の妊婦と同じだけの心配までなくすことはできません。これは薬を飲まなかった人から生まれた子供でも、100人中2、3例は何らかの異常が見つかるからです。この点ではあなたも同じ立場にあります。ただ薬によってこの危険性が増えることは考えられません。そんなに心配する必要はありませんよ」

 このように服用した妊婦に危険度を通常の妊婦と比較して説明することによって、大方の相談例では不安は解消されるとのことです。


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妊娠と薬物

妊婦への薬物使用について

1989年12月15日号 No.57

 現在使用されている医療用薬剤約2000品目のうち、妊婦に対する記載のないものが
48%、有益性と危険性のバランスで決めるものが25%、妊婦には使用しない方が望ま
しいものが10%、禁忌が10%となっています。(注:これは1989年の記事です)

<妊婦に対する与薬の原則>

1.妊娠12週までは可能な限り薬の使用を避ける。
2.しかし、疾患の胎児に対する影響が大きいと考えられる場合には積極的に治療する。
3.胎児に対して安全とされる薬の最少有効量を使用して治療する。

<胎児齢により副作用の発現が異なる>

1.妊娠初期ほど、胎児の受ける影響は大きい。〜胎児は流産あるいは奇形になりやすい
2.妊娠中期は胎児の成長期であるので、副作用は成長の抑制として出現する。
  中枢神経系の発達の時期でもあるので、その障害がありえる。
3.分娩直前の鎮静剤や鎮咳剤の使用によりsleeping babyや新生児の呼吸抑制を生じる
  ことがある。

<ヒトの奇形発生時期>

誘発時期 奇形

23日 単眼
26日 無脳
30日 膀胱外反
6週横隔膜ヘルニア、直腸閉鎖、口唇裂、心室中隔欠損、合指、口蓋裂
10週 臍帯ヘルニア
12週 尿道下裂
7〜8ヶ月 潜在精巣

<胎児に影響を及ぼす薬物>

全身麻酔剤:あざらし症
クロルプロマジン:神経系異常
アスピリン:骨異常

フルイトラン錠:血小板減少
レセルピン:意識障害

副腎皮質ホルモン:副腎退行現象
女性ホルモン:水頭症
男性ホルモン:女児男性化
甲状腺ホルモン:発育異常
抗甲状腺剤:化骨形成遅延

サルファ剤:高ビリルビン血症
イソニアジド:股関節脱臼
PAS:高ビリルビン血症

インスリン:精神薄弱児

ストマイ、カナマイ:聴力障害
クロラムフェニコール:灰色症候群
テトラサイクリン:骨発育障害
エリスロマイシン:体重減少

マイトマイシンC:発育障害
エンドキサン:四肢・口蓋の奇形

ビタミンA:水頭症(動物で)
ビタミンD6:口蓋裂(動物で)
ビタミンD:硬脳膜裂

(注)症状については代表的なものだけを記載しました。

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2002年追記

妊婦への薬剤使用の原則

         出典:薬局 2002.3 虎の門病院 坂口雅子 岸玲子

1.最終月経から28日以上経った生殖可能な婦人については、常に妊娠を念頭に置く
2.薬剤は必要性があって服用するものであり、そのことを患者によく説明する。
3.てんかん、膠原病など慢性疾患では、計画的に妊娠するよう常に指導する。
4.薬は、必要量をできるだけ短期間にする。
5.出来るだけ薬の種類を少なくする。出来れば単剤にする。
6.焼きの添付文書で「投与しないこと」「投与しないことが望ましい」となっている薬剤は投与しない。

<すでに服用した薬剤の催奇性に関する相談の原則>

1.およそ妊娠2ヶ月に服用した薬が問題になります。最終月経から28日以前の薬は残留する可能性さえなければ、ほぼ安全と考えられます。

2.妊娠2ヶ月で服用した薬でも、添付文書で「治療上の有益性が危険性を上回ると判断する場合にのみ投与すること」となっている場合は、ほぼ安全と考えられます。(抗てんかん剤は例外 下記)

3.発売後5〜10年以上経って、臨床上催奇形性についての指摘がされていない薬は安全性が比較的高いと思われます。

4.動物実験で催奇形性の報告や、1例だけの報告は患者には話さない方がよい。

5.これから薬剤を処方する場合の判断の基準と、すでに服用してしまって、妊娠をどうするかという場合の判断基準は異なります。

6.胎児に奇形が起こる原因は様々で、薬と必ずしも結びつかないため「胎児に異常」とか「大丈夫」という表現は用いず、あくまで、薬剤による影響が起こり得るか否かを説明していることを明確にします。

7.十分な情報を提供し、「生む、生まない」判断は夫婦に任せ、医師や薬剤師が行なうものではありません。

<妊婦と抗てんかん剤>

 抗てんかん剤のほとんどが胎児に対して催奇形性を持っています。しかし妊娠中にてんかん発作を起こした場合の胎児に与える悪影響(胎児低酸素状態など)の危険性は薬剤によるものより大きいと考えられ、てんかん合併妊娠では妊娠中であっても抗てんかん剤による治療を行うことが原則です。

 服用している薬剤数服用量が多くなればなるほど奇形発生率は高くなります。そのため妊娠中は出来る限り単剤で必要最小量を服用することが原則です。

多剤併用では、テグレトールとデパケン(バルプロ酸)などの組みあわせが高率であったとの報告がありますが、妊娠中の抗てんかん剤に関する報告の多くは多剤併用例であるため、個々の薬剤の催奇形性の強さを正確に比較することは困難です。

<米国小児科学アカデミー薬物委員会によるてんかん治療中の婦人への指導指針>

1,いかなる婦人も不必要な抗てんかん剤を服用すべきではない。
2,多年にわたり発作がなかった婦人では、可能であれば妊娠前に薬を中止すべきである。
3,てんかんがあり、薬が必要な婦人から妊娠について尋ねられた場合、正常児が生まれる確率は90%だが、本人(母親)の疾患自身またはその治療のために、先天性奇形と知能発育の遅延が生じるおそれが通常の平均より2〜3倍高いことを忠告すべきである。
4,妊娠第1三半期以降に助言を求める婦人には、慣例的に中絶を考慮するように促すよりも勇気づけるべきである。こういった婦人では妊娠期間を通じて薬物療法を継続すべきである。なぜなら、起こるとすれば主な解剖学的奇形はすでに生じており、胎児ヒダントイン症候群(下記)に関連した奇形が子供の幸福に重要な影響を及ぼすことは希だからである。
5,フェニトインまたはフェノバルビタールから、妊娠中の使用に関する情報が少ない他の抗てんかん剤に変更するように進める理由は現時点ではない。
6,薬によりてんかんがコントロールされている場合には、薬の中止は発作を引き起こすことがあり、発作の遅延は母親自身とその胎児に重篤な発作を起こす。


胎児ヒダントイン症候群

 頭部顔面の奇形、爪と指骨の低形成、身体及び精神の発達遅延などの複合奇形。
先天奇形の増加が、薬によるものなのか、てんかんという病気自体によるものかは、明らかにされていません。

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胎児ワルファリン症候群

fetal warfarin syndrome

 妊娠中にワルファリンを服用すると、胎児の発育や脳の発育が障害されるほか、骨形成の以上に起因する顔面形成以上、指の短縮、骨端形成障害などが生じる可能性があります。組織学的には軟骨形成の異常が特徴です。


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妊娠と薬物(2)

1990年1月15日号 No.58

オーストラリア医薬品評価委員会先天異常部会による評価基準

この当時、国内はもちろん世界的にも妊娠中の服薬に関した信頼できる資料がありませんでした。

 妊娠中の婦人に対する薬剤服用の危険性については、前号(No.57:上記)でも触れましたが、この度(1990年)オーストラリアでの妊娠中の薬剤使用ガイドラインが発表されました。

 妊娠中の使用に関する医薬品のリスク評価(分類は、次のような独立した5つのカテゴリーからなります。)

*カテゴリーA:妊娠又は妊娠可能な年齢層の女性多数例に使用されてきたが、奇形発現頻度の増加はなく、ヒト胎児に対する直接・間接的有害作用は観察されていない。

*カテゴリーB:妊娠又は妊娠可能な年齢層の女性に対する使用経験はまだ限られているが、奇形発現頻度の増加はなく、ヒト胎児に対する直接・間接的有害作用は観察されていない。

*カテゴリーC:催奇形性ないが、その薬理作用によってヒト胎児または新生児に有害な作用を及ぼす、または及ぼす可能性が疑われる薬。この作用は可逆的な場合もある。

*カテゴリーD:ヒト胎児に作用して奇形あるいは非可逆的障害の発現頻度を高める薬。これらの薬は薬理学的な副作用を伴うこともある。

*カテゴリーX:胎児に対して永続的な障害をもたらす危険性が高く、妊娠中や妊娠の可能性のある時期には使用すべきではない薬。

{注}この分類はあくまでも出産年齢層にある女性が常用量を用いた場合の判断で、過量服用、職業的暴露、その他常軌を逸脱した条件には当てはまりません。

<例>

・鎮痛、麻酔薬
レペタン、ペンタジン:C
モルヒネ、フェンタネスト:C
コデイン:A

・NSAIDs
インダシン、ボルタレン、フェルデン、アスピリン:C

・全身麻酔薬
エトレン、フローセン、ケタラール、ラボナール:A

・局所麻酔薬
 マーカイン、ペルカミン、キシロカイン、カルボカイン:A

・抗喘息薬
インタール、テオドール:A

・抗てんかん薬
アレビアチン、デパケン、フェノバール、マイソリン、エメサイド、オスポロット:D
テグレトール:B

抗ヒスタミン薬
アタラックス、ポララミン、プリンペラン:A

抗生物質
アミノグリコシド系〜カナマイシン、トブラシン、アミカシン:D
セフェム系〜ケフレックス:A、その他:B
ペニシリン系〜サワシリン:A
テトラサイクリン系〜ミノマイシン等:D

抗菌剤 キノロン系〜シノバクト:B

抗真菌剤 ファンギゾン、アンコトル、グリセオフルビン:B

抗結核剤 
エタンブトール、イソニアジド:A
リファンピシン:C

その他
ダラシン、リンコシン、エリスロマシン:A
ゾビラックス、ファシジン:B
バクタ、クロマイ:C

抗パーキンソン剤
シンメトレル、メネシット、アーテン:B
アキネトン:A


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妊娠の時期と薬剤の影響

1994年4月15日号 No.150

 妊娠中に薬物を使用する際に妊娠と知らずに使用してしまった場合、本人やその家族が最もおそれるのは催奇形の可能性です。

 妊娠中期や末期ではそうした危険性は、ほとんどありませんが、妊娠初期の使用では奇形発現の可能性は否定できません。

<受精前から妊娠3週末までに与薬された薬剤の影響>

 理論的には受精前に薬剤の影響を受けた卵子は受精力を失うか、または受精してもその卵には着床しなかったり、妊娠早期に流産として消失します。出生に至る可能性があるとすれば、染色体異常か遺伝子レベルの異常で、いわゆる催奇形のような形態的異常は発生しません。

 受精後2週間(妊娠3週末まで)以内に影響を受けた場合は、着床しなかったり、流産して消失するか、あるいは完全に修復されて健児を出産します。(all or noneの法則)。

 月経周期が28日型の人で月経初日から33日目ぐらいまでは安全です。この時期の薬剤の与薬にあたっては、胎児への影響を考慮する必要はあまりありません。ただ薬剤に残留性のある場合には注意が必要です。このような薬剤としては風疹生ワクチン、シオゾール注などがあります。

<妊娠4〜7週までの薬剤の影響>

 この時期は胎児の中枢神経、心臓、消化管、四肢などの重要臓器が発生・分化し、催奇形という意味では胎児が最も敏感な時期になります。この時期の薬剤の与薬には特に注意を要します。中でもホルモン剤、ワーファリン錠、向精神薬、脂溶性ビタミン(A、D)などです。〜レバーはビタミンDなので注意が必要!!

<妊娠8〜15週末までの薬剤の影響>

 この時期は世紀の文化や口蓋の閉鎖などが行われています。薬剤に対する胎児の感受性は次第に低下しますが、なくなるわけではありません。

<妊娠16〜分娩までの薬剤の影響>

 薬剤の与薬によって奇形のような形態的異常は形成されません。問題となるのは、胎児の機能的発育に及ぼす影響や発育の抑制、子宮内胎児死亡のほか、母親の飲酒による新生児への影響などです。

{参考文献}薬事 1994.3

男性での場合←クリック


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妊婦に対する薬物療法

2011年9月1日号    No.551

 妊娠中は母体の生理的変化により薬物の体内動態が影響を受け、使用された薬物の血中濃度が変化する可能性があります。妊婦への薬の使用ではこの点に留意した使用計画が望まれます。    また妊婦に使用された薬物は胎児に対して妊娠初期に催奇形性に作用し、中期以降は発育や機能発達を障害するような毒性を発揮するなど、胎児にとって大きな影響を及ぼします。

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 妊婦に対する薬物療法を考える場合、次の3つの事項に留意する必要があります。

 第1点は妊娠による影響で原疾患の病態が悪化することにより、治療に必要な薬剤量が増減する可能性があること。

 第2点は妊娠により母体の薬物動態が変化する結果、有効な血中濃度を維持する為の薬物使用を考えなければならないこと。

 第3点は胎児への影響で、催奇形性や胎児毒性に基づいた薬剤の選択が必要になります。

 妊娠中は胎盤からエストロゲン、プロゲステロンが大量に分泌され、循環血漿量の増量、血中アルブミン濃度の低下、遊離脂肪酸の増加など変化が生じています。これらの生理的変化により薬物の体内動態が影響を受けることが報告されており薬物によって非妊娠時よりも血中濃度が上昇するものがある一方、逆に低下するものもあります。

1.薬物吸収の変化
 血中プロゲステロン濃度上昇の結果、胃内容排出速度や腸蠕動運動が低下し薬物の吸収は遅延します。また胃内pHの上昇により、弱酸性や弱塩基の薬物では溶解度の増減が吸収率の変化として現れます。
2.薬物分布の変化
 a.分布容積の変化
  体水分量、循環血漿量は妊娠経過とともに増量し、妊娠第8ヶ月の末には非妊娠時に比べて約50%増加します。その結果、薬剤の分布容積は増大し、妊娠前と同じ用量では、薬剤の血中濃度は低下します。また、体脂肪量の増加により脂溶性薬剤の分布容積は増大します。
 b.蛋白結合率の変化
  血漿中の薬物は蛋白質と結合した蛋白結合型と結合していない遊離型の双方の状態で存在しますが、妊娠経過とともに循環血漿量が増加して血漿中のアルブミンやα1酸性糖蛋白の濃度が低下する結果、薬物の蛋白結合率は低下します。

  妊娠末期には薬物とアルブミンとの結合に競合する遊離脂肪酸濃度が増加することも蛋白結合率の低下をもたらします。蛋白非結合(遊離型)の薬剤濃度が増加すると薬効が高まる可能性があります。また遊離型の薬物は組織への移行が容易なため、結果として分布容積が増大します。

 抗痙攣薬のフェニトイン、テグレトール、デパケン(バルプロ酸ナトリウム)などは妊娠第3三半期に向かって蛋白結合率が低下することが知られており、注意する必要があります。

3.薬物代謝の変化

 薬物の多くは、肝の代謝酵素チトクロムP450(CYP)によって代謝されます。妊娠による代謝酵素活性の変化は、低下するものと上昇するものとがあります。
 活性が低下する酵素としてCYP1A2があります。例えばカフェインの妊娠中の半減期が延長することが知られています。

 一方、活性が上昇する酵素としてCYP2D6(例:セロケン)、CYP3A4(例:テグレトール)、CYP2C9(例:フェニトイン)などが報告されています。

 チトクロムP450(CYP)以外ではグルクロン酸抱合があり、一般に妊娠中は亢進します。例えばデパケン(バルプロ酸ナトリウム)は妊娠中の半減期が減少します。

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all or noneの法則

<妊娠の時期と薬物の胎児への影響>

 配偶子(卵子と精子)から受精卵、受精卵(胚)から胎児へという成長過程から考えると薬物の胎児への影響には3つの種類があります。

 第1の影響は致死的な作用を受けるかまったく影響を受けないかでall or noneの法則と呼ばれています。受精前の配偶子の時期から受精後約2週間(妊娠3週6日まで)の時期が該当します。

 第2影響は胎児形成異常(奇形)の発生で、器管形成期が該当します。妊娠4週0日から15週6日の時期です。

 第3の影響は胎児毒性で、器官形成期以後出生までの体内発育の時期が該当します。

<all or noneの法則>

 最終月経の初日から33日間(受精から19日間:器官形成期以前)は薬剤の影響は胎児には現れません。薬剤の影響を受けて死滅するか着床しない、あるいは着床しても月経と区別できない初期の流産として終わるか、または受けた影響が完全に修復されて後遺症がまったくない状態で生まれてきます。

 受精から19日間は妊娠週日では妊娠4週4日までとなりますが、、排卵日のずれを考慮して妊娠3週6日(予定月経開始日の前日)までと考えておいたほうが安全です。したがって、後で妊娠が分かった場合でもこの時期の薬剤の影響を心配する必要はありません。また妊娠前から服用している薬については、妊婦での禁忌薬でも予定月経までは飲み続けてもかまわないことになります。

<妊娠前に服用した薬剤の影響>

 未受精卵は卵巣内の原始卵胞内で停止した状態で排卵を待つ為、薬剤の影響を受けにくくなっています。未受精卵が排卵するときは、停止していた減数分裂が、排卵前36時間に黄体化ホルモン(hCG)の刺激を受けて再開し、受精準備状態に入ります。この減数分裂再開から、受精までの器管は未受精卵が薬剤の影響を受けやすい時期で薬剤の体内での半減期を考慮すると排卵日の前2日間となります。しかし、この時期の薬剤の影響もall or noneの法則に従うとされており、受精能力を失って妊娠が成立しない可能性があり、また妊娠が成立して発育してきた胎児には薬剤の影響を考慮する必要はありません。


{参考文献}薬事 2010.8 虎の門病院婦人科部長 北川 浩明  


妊娠と慢性疾患

出典:臨床と薬物治療 1998.2

1.妊娠が原疾患に与える影響〜妊娠による生理的なホメオスタシスのシフト

 循環血漿量は妊娠経過とともに増加し、妊娠30〜32週すぎをピークに1.5倍ほどまでに増量します。

 心疾患合併妊娠では循環血漿量の増加が容量負荷となり心機能が低下する場合があるため、中後期にも心エコーなどによる心機能検査を行う必要があります。

 循環血漿量の増加に伴い、ヘモグロビン濃度や血小板数は希釈され生理的減少をきたします。同様に原疾患治療薬剤の血中濃度も低下する可能性があります。また、妊娠により血中の結合蛋白が増加するためにさらに有効な薬剤血中濃度が低下することがあります。

 血液凝固能は妊娠末期に向け亢進するため、凝固因子低下症でも軽症なら妊娠中はほぼ正常範囲の凝固能が保たれ分娩時の止血は正常なことも多い反面、血栓症のリスクは妊娠末期にかけ増加します。

 喘息などは、妊娠によって原疾患の状態が増悪する場合、変わらない場合、改善する場合といずもあり得ます。妊娠中は内因性ステロイドが増加するのでSLEなどの自己免疫疾患では産褥期に増悪することが多いことが知られています。そのため、それらの疾患では産褥期にステロイド剤を増量するのが一般的です。

 下垂体プロラクチン産生腫瘍は妊娠により増大することがあり、また下垂体卒中を起こす可能性があります。慢性糸球体腎炎のうち膜性増殖性糸球体腎炎、硬化性糸球体腎炎は妊娠により増悪することがある。特にループス腎炎は産褥期に増悪しやすいとされています。

 一般に、妊娠により腎血流量、糸球体濾過率は上昇しますが、慢性糸球体腎炎では糸球体濾過率が低下してくる場合があります。糸球体濾過率が低下しない場合でも、腎血流量の増加により糸球体腎炎やネフローゼ症候群では喪失する尿蛋白量が増え、低蛋白血症が問題となることがあります。

 慢性腎炎患者が妊娠した場合、高血圧が増悪して混合型妊娠中毒症となることがあります。

2.原疾患が妊娠に与える影響

 疾患の種類によっては月経異常がみられるものがありますので、それにより妊娠しにくい状態となっていることがあります(甲状腺機能異常、高プロラクチン血症、摂食障害など)。

 原疾患に対する薬物療法を受けている場合の薬剤性月経障害(向精神薬、ドグマチールなどの消化性潰瘍治療剤、ステロイド剤など)もあります。これらでは原疾患の治療により機能の正常化を図ったり、排卵障害の起こりにくい薬剤に変更するなどが必要になります。

 ついで、妊娠しても原疾患のために不育症(妊娠はするが継続できず流産となるもの)や習慣流産、胎児発育遅延、胎内死亡の発症率が高くなることがあります(自己免疫疾患や抗リン脂質抗体症候群、甲状腺機能異常など)。

 糖尿病による妊娠初期高血糖は胎児の心形態異常など臓器異常の発生頻度を高くするし、後期高血糖は児を巨大児にします。

 強度の貧血やネフローゼ症候群などでの母体低蛋白血症は胎児発育遅延を起こすことがあります。慢性腎炎患者が妊娠し、高血圧、蛋白尿が増悪した状況は、いわゆる混合型妊娠中毒症となり、胎児発育遅延の原因になります。

 甲状腺疾患でTSH受容体抗体陽性例では胎児甲状腺異常が起こる可能性があり、特発性血小板減少症では分娩時に十分な止血能が保たれない可能性もあります。

 下垂体腺腫があると分娩時に陣痛を伴う強い怒責をかけられないために和痛をおこなったり、鉗子分娩、吸引分娩で分娩第2期の短縮を図るなど分娩管理、分娩様式の検討を要する場合があります。

 また原疾患治療薬剤そのものによる胎児への影響も考慮しなければならなりません。


 HELLP症候群

   出典:治療 2003.4

妊娠中毒症の1種

妊娠中毒症:高血圧、蛋白尿、浮腫

 Hemolysis(溶血)、Elevated liver enzymes(肝機能異常)、Low plateletet count(血小板減少)の頭文字を並べたもの。

 妊娠中毒症の中でも重症度の高い病態で、ただちに妊娠を終了させなければなりません。

 HELLP症候群は消化器症状が最初に現れるの特徴で、妊婦が胃の痛みを訴えたら本症を疑います。

 本症による消化器症状に対してブスコパン錠は禁忌となっています。

 本症の頻度は高くはないが、ひとたび発症するとその後の治療には大変な労力を要します。

 妊娠週数が進んでくると、胎児の発育に伴って子宮は増大し、この増大した子宮が胃を押し上げるようになると、妊婦は胃の不快感や痛みを訴えることがありますが、このような場合には異常な血液所見が現れることはありません。


 

 

 

妊婦への薬の使用

 
妊娠の時期と薬剤の影響
妊婦への薬物使用
妊娠と薬剤(オーストラリア基準)
妊娠と慢性疾患
妊婦への情報提供(服薬後) 
妊婦に対する薬物療法(2011)
 
妊婦への与薬   <<各論>> 
 ・喘息治療薬
 ・NSAIDs
 ・抗生物質
 ・妊婦に使用できない抗菌剤
 ・抗てんかん剤 / ・催奇形性(抗てんかん剤の)
 ・妊娠高血圧症候群 / 妊娠中毒症
計画妊娠
妊娠と葉酸
all or noneの法則
EC / ECP
HELLP症候群
PHI:pregnancy induced hypertension
Pregnancy loss(プレグナンシーロス)

 


計画妊娠

 てんかん、膠原病、心疾患など、慢性疾患を持った患者に対しては、計画的に妊娠するように予め指導することも大切です。例えばてんかんは未婚の時に発症し、そのまま薬を服用し続けますが、何年間も全く発作が起こっていない場合は、薬の減量・中止の可能性を検討すべきです。

 また妊娠を希望している場合は、胎児に対してより安全性の高いと考えられている薬への変更を常に検討すべきです。

 妊娠してしまってから薬の催奇形性を心配するのではなく、予め疾患が妊娠に及ぼす影響、薬が胎児に及ぼす影響を十分に説明し、妊婦自らが積極的に治療に参加できるように指導を行う必要があります。

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妊娠と葉酸

2009年12月15日号 No.512

 妊娠中の女性に大切な栄養素の1つとして、葉酸があります。ビタミンBの一種である葉酸の摂取が、二分脊椎などの神経管閉塞障害の発症リスクを低減させることが報告されています。

 米国疾病管理センター(CDC)は、1992年神経管閉塞障害児の妊娠歴のある女性は1日当たり葉酸4mgを摂取し再発の予防をするように、また妊娠する可能性のある全女性に対し1日0.4mgの葉酸を摂取すれば神経管閉塞不全症の70%を予防できると勧告しました。

 わが国での二分脊椎の発症率は欧米諸国に比べて低いものの、2003年の発症率は、新生児1万人当たり5.6人となり、5年連続で増加傾向にあります。

 2000年には厚生労働省が、妊娠前から葉酸を摂取するようよう、日本薬剤師会の会員などへ周知を図るように報告しています。しかし、これ以降も意識的に摂取する女性は少なく、葉酸の重要性について情報提供が必要です。

 妊娠を計画している女性は、妊娠1ヶ月以上前からの摂取を含めて、1日400μg(0.4mg)摂取する必要があります。また、すでに神経管閉鎖障害児の妊娠歴のある女性は同様の期間に、医師の管理下でより高用量の葉酸摂取が必要となります。

 一方、栄養補助食品はその簡便性などから過剰摂取につながりやすいので、同時に注意が必要です。高用量の葉酸摂取はビタミンB12欠乏の診断を困難にし、またランダム化試験で高用量(5mg)の葉酸摂取により乳癌死亡率も報告されており、医師の管理下のある場合を除き、葉酸の摂取量は1日あたり1mgを超えるべきではありません。

 葉酸を含有する一般用医薬品は10数種類ありますが、全ての製品が多種類の他成分を含み、比較的価格が高くなっています。そのため葉酸摂取を目的とする場合は、栄養補助食品の利用が手軽です。

 葉酸はビタミンなどのサプリメントからカロリーメートなどの栄養調整食品まで健康食品に含まれていますが、許容上限摂取量(1mg)を超えるものがあるため、摂取には十分注意する必要があります。

 薬の中には、葉酸の代謝を阻害したり、吸収を阻害するものがあり、血中葉酸値に影響する薬剤があります。また喫煙は葉酸値を低下させます。長期間これらの薬剤を服用している場合は、必要に応じて葉酸製剤(フォリアミンなど)が併用されることがあります。

<葉酸摂取の留意事項>
・摂取時期〜妊娠1ヶ月以上前から妊娠3ヶ月
・摂取量〜0.4mg以上(神経管閉鎖障害児の妊娠歴のある女性はより高用量が必要)
・摂取方法
 葉酸は熱に弱く、調理による損失は50%。また水溶性のため、ゆで汁に溶出してしまう。
 食品から葉酸0.4mgを摂取するのは不可能なわけではないが、調理による損失を考えると、栄養補助食品の活用が勧められる。
・葉酸の代謝阻害または吸収素がする薬品
  抗てんかん剤、アルコール、葉酸代謝拮抗剤、コレスチラミン、テトラサイクリン、NSAIDs、クロラムフェニコール
  経口避妊薬、アルミニウム、抗結核剤、マグネシウムを含む制酸剤、喫煙など

   
 葉酸は、ビタミンB群の1つで、緑黄色野菜、果実、大豆、レバーなどに多く含まれています。

・ほうれん草(2株60g=126μg)
・ブロッコリ(1/4株60g=126μg)
・納豆(小パック50g=130μg)
・トリレバー(10g=130μg)
・枝豆(ゆで60g=156μg)
・いちご(6〜7個100g=90μg)

                             {参考文献}治療 2009.11

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<医薬品トピックス>葉酸と神経管閉鎖障害
 

 欧米・中国・オーストラリアなどは、1990年代に女性が葉酸を摂取するよう国の施策を確立

 日本では、2000年12月厚生労働省が、妊娠前から葉酸を内服すると、神経管閉鎖障害(二分脊椎症、無脳症など)に罹患するベビーの発生リスクを減少できると発表

1.妊娠可能期の女性は栄養バランスのとれた食事が必要
2.妊娠を計画する女性は、妊娠1ヶ月前から妊娠3ヶ月までサプリメントで葉酸を1日400μg摂取する。
3.神経管閉鎖障害児を過去に妊娠した女性は、医師の監督下に葉酸摂取が必要
4.胎児の健全な発育のため、妊娠中は禁煙・禁酒が不可欠

 葉酸は、ビタミンB群の1つで、緑黄色野菜、果実、大豆、レバーなどに多く含まれています。

 神経管閉鎖障害の主要な疾患は、二分脊椎症で、脊椎破裂の発生する部位に応じて病態は変化します。

 大多数の患者は、腰椎・仙椎が侵されるため、尿・大便失禁、褥瘡、側弯症、下肢運動障害などが必発となります。さらに患児の90%で水頭症が発症するため、生後早期から脳室腹腔シャントが必要になります。

 脊椎管の分化は胎生期4週頃に完成しますが、この時期は胎児にとって最も重要かつ危機に満ちたものです。しかもこの頃までに妊娠が判明している女性は、わずかに4〜5%と言われています。ですから、葉酸が日常的に欠乏している女性では、妊娠が判明してから葉酸を急いで摂取してもすでに遅すぎることになります。妊娠1ヶ月前から葉酸の摂取が必要と言われている理由はこのためです。

    出典:薬局 2003.11


EC
Emergency Contraception

同義語:緊急避妊法、性交後避妊、モーニングアフターピル

ECP
Emergency Contraceptive Pill
緊急避妊ピル


・Yuzpe法

 無防備な性交の72時間以内とその12時間後に合計200μgのエチニルエストラジオールと2.0mgのノルゲストレルを2分して服用する方法。Yuzpeはカナダの研究者

・ダナゾール法

 無防備な性交後72時間以内とその12時間後に400mgを2回服用

・レボノルゲストレル法

 無防備な性交後72時間のできるだけるだけ早い時期に1錠、更に12時間後に1錠

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*ECPの正確な避妊機序は明らかではありませんが、ECPが月経周期のいつの時期に使用されたかに関係していると思われます。

*月経周期の早い時期にECPが使用されて場合には、排卵の抑制や遅延を招く可能性があります。排卵後では、受精の抑制や受精卵の着床阻止が期待されます。

*ECPは着床が成立した後では効果がなく、妊娠が成立する前の避妊法で、決して中絶薬ではありません。

*ECPは定期的に行っている避妊法よりも効果が低いと思われます。ですからECPは継続的に行う避妊法としては推奨できません。

*妊娠が確定している女性は、ECPを服用すべきではありません。ECPを希望した女性が、妊娠しているかどうか確証がない場合、ECPが妊娠に悪影響を及ぼすことはないないことを十分に説明した上で、ECPを使用します。ECPの使用に際しての禁忌は妊娠以外に知られてません。

*ECPとして処方されるホルモンの総用量はかなり低く、ピルが断続的に使用される際の禁忌は適用されません。


  出典:治療 2002.4 日本家族計画協会クリニック所長 北村邦夫


<医学辞典>

月経前症候群

PMS:Premenstrual Syndorome

 月経開始の3〜10日前から始まる精神的身体的症状で月経開始とともに減退ないし消失するものをいいます。

 症状として眠気、イライラ、下腹部痛、腰痛、怒りっぽくなる、頭痛、乳房痛、憂鬱、浮腫、体重増加などがあります。

 月経困難症は月経直前から月経開始数日まで続く下腹部や腰部痛でいわゆる生理痛といわれています。PMSは月経困難症と比べると精神症状や乳房症状が多く見られます。

 病因は分かっていませんが、現在最も可能性の高いのが水分貯留です。精神症状は脳の浮腫、乳房の張りや痛みは乳房組織中への水分貯留により起きていると考えられています。

 この水分貯留の原因は特定されていませんが、エストロゲンとプロゲステロンの不均衡が引き金になっていると思われます。

 治療法はいくつかありますが、日本でPMSの治療薬として保険適応のある薬はありません。食事制限(水分、食塩、アルコール、コーヒー、コーラなどの制限、炭水化物、ミネラルを多くとる)、利尿剤、排卵抑制剤(ピル)、GnRhアゴニスト、精神安定剤、鎮痛剤、SSRI、漢方薬などが持ちいられています。

    出典:薬局 2004.6 等

PMDD
premenstrual dysphoric disorder
月経前不快気分障害

 PMDDはPMSのうち精神症状が主体の重症型で頻度は低い。
過去1年間、ほとんどの月経周期で黄体期の最終週に、著しい抑うつ気分、著名な不安、著名な情緒不安定、易怒性などを中核症状とし、日常生活上の活動を著しく障害するほど重症で、月経後少なくとも1週間は症状が消失しなければならないものとされています。

 黄体期をすぎると症状が消退し通常の生活に戻れることもあり受診には至らない場合もあります。

 一般的に閉経が始まると軽快するものの、それまでは年齢とともに症状が重くなる傾向があるとされています。

   出典:治療 2005.3


プレグナンシーロス
pregnancy loss

妊娠を中絶し胎児を失った後で、悲嘆、抑うつ気分、不安を呈する状態をプレグナンシーロスと呼びます。正常な反応と捉えることができ、うつ病とは同等とは言えません。しかしうつ病に近い状態です。

プレグナンシーロスの主要な症状は、悲嘆、不安、抑うつ気分、怒りです。自然流産よりも死産の方がより強い経口になります。不安は、抑うつ気分よりも長引く傾向にあります。
怒りは、産科のスタッフ、夫、妊娠が順調に経過している妊婦に向けられやすくなっています。多くは数ヶ月までの間に改善します。

次の妊娠はプレグナンシーロスを軽減すると言われています。


妊娠高血圧症候群
PHI:pregnancy induced hypertension

妊娠中毒症

 従来、妊娠中毒症と称した病態は、日本産科婦人科学会により定義及び名称が2005年4月に改められました。

 従来の妊娠中毒症の定義は「妊娠に高血圧・蛋白尿・浮腫の1つもしくは2つ以上の症状が見られ、かつ、これらの症状が単なる妊娠偶発合併症によるものでないものいう」と成っていましたが、改定後の“妊娠高血圧症候群”の定義は「妊娠20週移行、分娩後12週まで高血圧が見られる場合、または高血圧に蛋白尿を伴う場合のいずれかで、かつこれらの症状が単なる妊娠の偶発合併症によるものではないものをいう」と改められました。

 つまり、旧定義では「蛋白尿」あるいは「浮腫」だけでも妊娠中毒症と診断されていましたが、新定義では「高血圧」が病態の根本であるとされ、最近では「浮腫」は妊娠中の生理的反応だと考えられているため定義から外されました。

 蛋白尿は、早期重症発症例でIUGR(子宮内胎児発育遅延)の頻度が上昇するものの、通常は高血圧を伴います。蛋白尿しか出ていない母児予後は正常妊婦と変わらないため、諸外国同様に蛋白尿のみの症例は削除されました。

* 妊娠の降圧の意義は、子癇発作、高血圧性脳症、脳出血の防止、母体心・腎等の循環障害と子宮胎盤循環の障害を防止することです。降圧剤が妊娠前より使用されている場合、催奇形性のある薬以外であれば妊娠中も同じ薬を継続します。

 降圧薬を飲んでいなかった場合でも、拡張期血圧が100mmHg以上であればメチルドパ(アルドメット錠)を第一選択とした治療が推奨されています。

 重症例では血圧が160/110mmHg以下となるように管理し、急性増悪時には塩酸ヒドララジン(アプレゾリン)を使用します。

 その他、テノーミン錠、トランデート、アダラート、ヘルベッサー、なども使われています。

  出典:日本薬剤師会雑誌 2006.1

 

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