GVHD
1993年2月15日号 NO.124
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輸血後に発症する移植片対宿主病(graft
versus host disease)は、重篤な輸血副作用として問題視されています。 GVHDとは、組織適合性抗原の異なる宿主(Host)に移入された移植片(Graft)中のリンパ球が宿主内に生着して、宿主の組織を非自己と認識し、その組織を攻撃する病態と定義されています。 昭和56年から61年までの報告では約660例に1例の割合で輸血後GVHDが発症しています。 症状としては輸血後1〜2週間に発熱、紅斑ではじまり、続いて肝障害、下痢、下血などの症状を呈し、多くの症例に汎血球減少、敗血症を認め発症後は有効な治療法もなく、致死的な経過(死亡率90%以上)をたどると報告されています。 {参考文献}JJSHP 1993.1 |
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<輸血後GVHDの予防法>
1
患者自身の血液を貯蔵しておき手術時に自己輸血を行う。
2 可能な限り新鮮血を用いない。
3
フィルターにより血液製剤中のリンパ球を除去する。
4
放射線あるいは紫外線照射により血液製剤中のリンパ球を不活化する。
上記の中では、より簡便であり、かつ実績のある放射線照射による4(リンパ球の不活化)が注目を集めています。
1992年に日本輸血学会輸血製剤放射線照射小委員会により、放射線照射に関するガイドラインが提示され、それによりますと線量は最低照射後速やかに使用すること、保存する場合でも1週間以内の使用が望ましいとされています。
(注)赤血球や血小板、血漿に及ぼす放射線の影響は50Gya以下の場合はほとんど問題はなく、副作用も今までに全く報告されていません。ただし30Gyのγ線照射後、濃厚赤血球を42日間保存したところ、血漿ヘモグロビン濃度、血漿カリウム濃度の有意の増加とATP含量及び赤血球の生存率の低下が認められています。
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<<ご存知ですか?>>
「血液は新しいものほど、そして近親者(親、兄弟)からのものが安全だ。」と一般の人は思っています。
◎血液は古い方が安全です。!!
採血後72時間以内の血液はまえに梅毒スピロヘータを感染さすことがあります。また、リンパ球もしばらくは増殖能力を保っているためGVHDをa引き起こす可能性があります。
◎近親者からの共血は避ける!!
例えば親の血液を血液を子に輸血した場合、子は親のリンパ球を攻撃しませんが、輸血された親のリンパ球は子の組織を攻撃、破壊する場合があります。
全くの他人であれば、輸血された血液に含まれるリンパ球は宿主側のリンパ球に攻撃され、ある程度破壊されます。
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2003年10月1日号 No.369 医学・薬学用語解説(も) モノクローナル抗体 はこちらです。
ウインドウ・ピリオド
window period
現在献血された血液は、すべて血液センターでウイルスの抗原・抗体検査を行なっています。しかし、ウイルスの感染には感染後、ヒト体内の反応として血液中に産生される抗原や抗体の量が十分になるまでに数日から数十日(感染源から得たウイルス量、ウイルスの種類、感染した個人の反応性の差などによって異なります。)かかるため。献血者が感染していることを検出できない期間があります。これをウインドウ・ピリオド(空白期間と呼んでいます。
この期間に献血された血液では、抗原を見つけることができないため患者さんへの二次感染の可能性があるのです。
ウインドウ・ピリオドをより感度の高い検査法(NAT)によって短縮することは、病原体が少なく血液の感染力の低いうちに検出できるので感染を防ぐことにつながります。
ウインドウ期の比較
HBV : HCV
: HIV
従来の検査法: 59日 : 82日 : 22日
NAT : 34日 : 23日 : 11日
各国とも競ってその導入に力をいれていますが、ウインドウ・ピリオドは、ゼロにはなりません。
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インベントリーホールド(ウィンドウピリオドのリスク回避)
ウィンドウピリオドのリスク回避法の1つとしてインベントリーホールドという方法があります
これは、採血した血漿をすぐに使用せず、2ヶ月後に同じ供血者に再度供血してもらい、2回目の血漿を再検査し、合格した場合のみ初回採血時の血漿を製剤とする方法です。
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しかしこの方法は時間と手間ががかかるため、現状では最初に検査した結果だけで、出荷後の再検査で陽性が出た場合に回収するという方法になっています。
このため、輸血用血液だけでなく、日本赤十字社より供給された血液を原料とする血漿分画製剤も、各種ウイルスが供給後に回収されるという事態が発生し、各医療機関で問題となっています。
当院でも、血漿分画製剤(献血グロベニンI)にB型肝炎ウイルス陽性の血液が原料となっている製品が納入されていることが分かり、厚生労働省より、使用した患者に対しB型肝炎に係わる検査の実施を推奨する通達が成されており、関係部署でのご理解と、ご協力をお願いいたします。
なお、当該製品は、日本赤十字社で実施した該当血漿の50人ミニプール血漿でのNAT検査(核酸増幅検査)や製薬会社で実施したプール血漿及び製品のNAT検査はいずれもHBV-DNA陰性であり、製薬会社の製造工程においてウイルス不活化、除去処理を行っていますので、当該製品の安全性は極めて高いと考えられます。
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NAT
Circular No.209
Nucleic acid Amplification Test:核酸増幅検査
NATとは、血中に存在するウイルスを構成する核酸の一部を試験管内で人工的に多量に増幅(コピーして増やすこと)して、そのウイルスを検出する方法です。
ウイルスが微小量でもあれば、ウイルスの一部を100万倍以上に増やし、検出することができます。NATは核酸の抽出、増幅、検出という3つの段階から成り立っています。
HBV、HIV、HCVなどウイルスに対するNATは、抗原・抗体検査のように間接的にウイルスの存在を検出する方法に比べてウイルス核酸の一部を試験管内で人工的に増幅させて直接にそのウイルスの存在を検出し、また、ウインドウ・ピリオドを短縮できる検査法です。
しかし、NATは抗原・抗体検査に比べて、検査に要する時間および費用がかかります。
方法にもよりますが、現在の技術では核酸からの抽出から増幅、検出まで、5〜6時間を要します、また、検査コストも大幅に増大します。
{参考文献}大阪府日本赤十字センター情報誌
Circular No.209 等
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輸血による感染
Circular No.207
日本の血液事業開始のきっかけになったのが、梅毒感染ですが、日赤が献血事業を始めて45年過ぎた現在でも、輸血による梅毒感染事故は幸い1例も報告されていません。
梅毒スピロヘータは、生体内での感染力は強いが、輸血用血液のように体外に取り出され、しかも4〜6°Cの低温で72時間以上保存されると、感染力がなくなることが分かっています。新鮮血は採血後72時間以内なので、梅毒感染の可能性が残っています。
B・C型肝炎ウイルスの感染力は非常に強く、患者に用いた注射針による針刺し事故でも感染することがあります。
輸血によるウイルス感染で最もやっかいなのがHIVです。
感染防止には、HIV抗体検査とともに、献血時の問診票への正しい記載、献血後の自己申告の3点システムが機能すればさらに防ぐことができます。献血者の協力が最も重要です。
今後の課題
輸血用血液の安全性はずいぶんと向上しましたが、輸血を受ける時、血液型は同じでも他人の血液であることと、検査ですべての副作用の原因を見出すことは不可能なため、たとえ検査に合格した血液でも予期せぬ副作用や事故に遭遇することがあります。
核酸増幅検査(NAT:上記参照)が充実すれば、輸血用血液の安全性は格段に向上します。