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1996年5月1日号  198

輸血による致命的なGVHD

 

  厚生省緊急安全情報

 輸血用血液成分製剤の使用により致命的なGVHD(移植片対宿主病)が起こることがあります。

1.輸血に際しては、適応であるか否かを慎重に決定して下さい。
2.輸血用血液成分製剤に放射線照射を行うことを考慮して下さい。
3.予定された手術では自己輸血の実施を考慮して下さい。

* GVHD : Grft-Versus-Host Disease

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 HLA等で組織適合性を確認しないで、輸血が行われたとき、提供者の移植片(この場合、血液)中のTリンパ球が宿主(患者)体内で生着増殖して、宿主を異物と認識して攻撃する現象

 免疫不全でない患者は組織適合性のない移植片を拒絶できるはずなのに、どうしてGVHDが発症するのかは謎でしたが、近年、術後GVHD患者と供血者のHLAの型の分析から、ある特殊なHLA型の組み合わせのときに発症することが分かりました。

 供血者のHLA型がホモ接合体(a/a)で、患者のHLA型は供血者と同一のハロタイプ(a)を持つヘテロ接合体(a/b)の場合、供血者のa/aTリンパ球は患者(a/b)の持つa抗原だけを持っているので、自己と認識されて拒絶されることなく生着し増殖します。

 移植片(a/a)は、患者の組織が自分の持たないb抗原を持っているため異物と認識して攻撃すると理解されます。 
 一度発症すると95%以上は致死的な経過をたどります。1993年1月から1996年3月までに輸血用血液を使用した患者でGVHDの発現が29例報告されています。有効な治療法は確立されていませんので下記の点について十分ご注意下さい。

1.輸血の適応を厳密に
 
 他に治療法が存在しないか緊急避難的状況又はGVHD発現などの危険を上回る救命的効果を期待する場合に限定することが求められています。

2.放射線照射による防止を
 
 輸血用血液を15以上〜50Gy以下の線量で照射することにより輸血後GVHDを予防することができるとされています。

3.予定された手術では自己輸血の実施も考慮を
 
 他人の血液を輸血する同種血輸血は一種の臓器移植であり、免疫学的副作用、GVHD等の危険は完全には回避できません。予定された手術では可能な限り自己輸血を実施して下さい。

<GVHDの臨床症状>

 輸血後10日前後に急激な高熱と紅斑が出現し、高熱は持続し、紅斑は融合して紅皮症となる。肝障害症状と下痢が出現し、汎血球減少による感染、出血症状を示す。

 多臓器障害を示し、術後20日前後に死亡する。死亡の直接原因として感染が多い。

関連項目 GVHD(1993年)GVHD(1997年)



GVL効果
graft versus leukemia
移植片白血球効果

  出典:医薬ジャーナル 1999.12

 造血器悪性疾患に対する同種造血細胞移植では、ドナーとレシピエント間の組織適合抗原の差異に基づく免疫学的反応を主体とした抗腫瘍効果が悪性細胞根絶に重要な役割を果たしています。

 これら免疫学的抗腫瘍効果のうち、対象疾患が白血病のものをGVL効果と呼びます。

 軽症のGVHDの症例では、白血病の再発率が有意に低くこれはGVL効果によると考えられています。

 GVHDはGVL効果と表裏一体の関係にあります。そのため、宿主の組織・臓器を障害するGVHDだけを抑制し、再発抑制に働くGVL効果と非特異的な免疫反応を温存することが理想的です。

 T細胞の抗原認識の段階でCD28/B7やCD40/CD40Lなどを介するCostimulationを抑制あるいはCTLA4を介する抑制性シグナルを活性化し、抗原特異的な免疫寛容状態を誘導するのが最も魅力的なGVHD制御の方法と考えられます。このような分子免疫学GVHD制御戦略の同種造血幹細胞移植の臨床の場での実用化が切望されています。


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フィジカルアセスメント

2010年6月1日号 No.522

 フィジカルアセスメントは、「身体的な」あるいは「理学的な」を意味するPhysicalと、「評価」あるいは「査定」を意味し、さらに物事の質量・価値について指定判断する思考過程を内包するassessmentから構成されます。

 チーム医療が急速に進展する医療現場では、医師だけでなく、看護師、薬剤師等にもフィジカルアセスメントが重要視され、これに関する知識、技術の習得が求められるようになってきています。

 フィジカルアセスメント
1)健康歴の聴取・問診 Interview
2)身体審査 Physical examination
3)記録 Documentation

*準備・対象者への説明と配慮

 場所(清潔さ、静穏さ、室温、採光など) 広さ、床など。アセスメントに対するインフォームドコンセント、衣服、開始前の対象者の排泄などにも注意する。

*基本原則
1.アセスメントは1時間以内で
2.頭尾法(head to toe approach)
 頭や顔から胸腹部、筋骨格系、神経系の順に行う。
3.外表的な観察から深部への観察
4.観察の順序〜対象者が異常や不安を訴える部位を観察する前に正常と思われる部位のアセスメントを行ってから、気になる箇所を重点的に観察する。身体の各部位の左右差(対称性)も詳細に観察する。
5.観察項目は、対象者の負担が最小限になるように工夫する。
  医療者は、対象者に何を観察するかを明確に伝え、協力を得ながら、体位やプライバシーなどを考慮してアセスメント項目を決め、 一度に何項目かの観察が出来るようにする。

 全身状態へのアセスメント

 対象者との出会いの時から情報収集、アセスメントは始まります。最初に行うものとして、全身を概観する全身状態のアセスメントがあります。

 第一印象から、全身状態、緊急度、重傷度、精神状態などが推測でき、対象者の姿勢、動作、表情、しぐさ、話し方と話す内容、体型、皮膚の色、爪と毛髪、衣服、持ち物などのアセスメントの項目から、多くの情報が得られます。

 また意識状態の低下、認知機能の異常、言語の異常(失語、高音障害、多弁など)により、認知機能をアセスメントすることも出来ます。

 全身状態をアセスメントする目的は、
1.対象者の身体的側面の状態を把握し、健康レベルを判断する。
2.対象者の生活習慣が健康状態に影響を及ぼす可能性があるかどうかを判断する。
3.バイタルサイン(呼吸数、脈拍数、血圧、体温、意識レベル)を測定する。

 上記を元に対象者と一緒に健康状態について話しあうことが大切です。

    {参考文献} 大阪府薬雑誌 2010.5

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代表的な顔貌と特徴と関連する病態・疾患

     顔貌の特徴                                  関連する疾患

・高熱による顔面潮紅               | 発熱                                    
・無欲様顔貌〜表情に活気がなく、周辺に無関心    | 敗血症、腸チフス、パラチフス、粟粒結核
 チフス顔                    | 精神疾患、高熱                          
・仮面様顔貌(表情が乏しい、油性で光沢あり、    | パーキンソン病
       瞬きが減少)           | 精神・神経疾患                                

・ヒポクラテス顔貌(やせこけた顔)       | 悪液質、死期が近い状態                            
・満月様顔貌(顔全体が赤みを帯び、眉毛が多毛)  | クッシング症候群、ステロイド剤服用      
・毛髪が・眉毛が薄くなり、皮膚乾燥              | 甲状腺機能低下症
 顔面蒼白で無表情                   |                                                                 
・鼻が平坦で瞳孔距離の広い浮腫様顔貌       | クレチン病                                             
・苦悶様顔貌(強い疼痛による苦悶症状)     | 心筋梗塞、急性腹症                                 
・眉弓部膨隆、頬骨・下顎突出、鼻・口唇肥大   | 末端肥大症                                             

・鼻が細くとがり、口周囲に放射状皺襞      | 全身硬化症
 口は小さく仮面様                              |                                                                            
・テタヌス顔貌                         | 破傷風                                                   
・筋無力性顔貌(眼瞼下垂、一見眠そう)        | 重症筋無力症                                          

・鞍鼻、つりあがった眼裂、短頭。耳介のつけ根  | ダウン症
 が低い。                                      |                                                                                
 


<医学用語辞典>

CML
chronic myelogenous leukemia
慢性骨髄性白血病

ALL
acute lymphocytic leukemia
成人急性リンパ性白血病

メシル酸イマチニブ〜チロシンキナーゼインヒビター


 慢性期のCMLは抗癌剤によりコントロールが容易で、患者は普通生活ができますが、通常、診断後4〜5年で移行期を経て急性転化期となります。急性転化したCMLは通常の急性白血病よりも治療抵抗性で予後不良です。

 CMLの病因は遺伝子異常です。異常の基となる融合遺伝子bcr/ablが作るp210蛋白が原因物質であることが分かっています。bcr/ablのablはAbelson白血病ウイルス由来の癌遺伝子で、チロシン・キナーゼ活性を持っています。

 CMLの融合遺伝子bcr/ablの産物であるp210蛋白もALLの融合遺伝子bcr/ablの産物p185蛋白もablが本来持つチロシン・キナーゼが恒常的に活性化されていて、アポトーシスを抑え白血病細胞を死ななくさせることにより白血病を発症させると推定されています。

<CMLの治療法>

*インターフェロンα(IFNα)

 CML細胞にはフィラデルフィア;Philadelfia(Ph)染色体を認め、これは染色体転坐によるものです。その結果として前述のbcr/abl融合遺伝子が原因物質のp210蛋白が作られます。

 IFNαは、Ph染色体の消失・減少させる細胞遺伝学的効果(CgR)を持ち、治癒も期待され、CMLの薬物療法の第1選択薬となっています。

 CgRが得られる症例の予後は良く、70%以上の人が長期生存します。しかし、IFNのCgRが得られるには、1年以上の自己注射する必要があり、また、連日のIFNの使用は、発熱、インフルエンザ様症状、肝機能障害、うつ症状等の有害反応を伴います。(治療コストも高い)そのため、効果が現れる前に、IFNを中止し、非血縁者ドナー移植が選択される傾向があります。この場合、GVHDが発症する危険性があり、しばしば致死的となります。

*SCT
stem cell transplantation
造血幹細胞移植療法

 SCTによりPhクローンの撲滅が可能で、50歳以下で組織適合抗原の一致する家族ドナーがいれば、第1選択の治療法で、70%使用の長期生存が得られます。

*メシル酸イマチニブ

 メシル酸イマチニブはチロシン・キナーゼ阻害活性を持っています。
本薬は白血病の原因となっている分子に働く特異的分子標的薬で、通常の抗癌剤とは違った作用機序を持っています。

 当初より副作用の少ないことが学会で発表されています。しかしグレード3/4の重篤な副作用は少ないものの、グレード1/2の軽度〜中等度の副作用は意外と多く、ほととんどの患者は何らかの副作用を訴えることになると思われます。

 出典:日本病院薬剤師会雑誌 2002.5


*ALK:anaplastic lymphoma kinase

   ALKは、キメラ化により腫瘍形成に関与する受容体チロシンキナーゼで、特に肺癌の新規分指標的薬ALK阻害剤に期待が寄せられています。

  出典:日本病院薬剤師会雑誌 2011.5

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