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薬剤と腎障害

1990年4月15日号 No.64

   薬剤による腎障害は薬品の種類を問わずに発現します。原因となる薬物も、現れる臨床症状も多様で薬剤を使用する際には腎障害の初期徴候に注意し、徴候が現れた場合には直ちに適切な処置をとることが大切です。

「参考文献」 厚生省 副作用情報 No.101


<薬剤性腎障害の分類>

1 量依存性(中毒性)腎障害

 どんな種類の薬剤でも過剰の場合は急性尿細管壊死を来たし、臨床的には急性腎不全となります。腎毒性を有する薬剤を使用した場合には、1回の使用量が少なくてもその使用が長期に及ぶと中毒性腎障害が発生します。

「初期徴候」:低分子蛋白(β2-mやRBPなど)の排泄増加。NAGやγGTPの尿中排泄が現れます。

2 免疫機構を介して生ずる薬剤性腎不全

 金製剤は腎近位尿細管の細胞に集積し細胞を障害します。その結果、尿細管上皮細胞成分(RTEやTBM等)が遊離し、抗原抗体複合物が形成され、これが腎糸球体に沈着して腎炎を惹起します。原発性疾患と同様にネフローゼ症候群を呈する事が多く見受けられます。

3 薬剤過敏性(アレルギー性)腎障害=DIHN

 近年、本症の報告が増加しています。DIHNは急性腎不全で発症する例がほとんどであり、治療として透析を必要とする事が多いとのことです。
本症は薬剤をハプテン(不完全抗原)として?型または?型アレルギー反応が腎に起きたものと理解されており、病理組織学的には急性間質性腎炎です。薬剤による急性腎不全が疑われた場合には、早期に生検を行って診断を確定することが必要です。

<治療及び予防>

 基本は被疑薬を中止することです、早期に発見された中毒性や免疫性のものはこの処置のみで回復します。
 DIHNも早期に発見すれば透析までに至らない事も少なくありません。これにステロイド療法などを併用することで、透析から離脱することも可能です。

<腎障害を起こしやすい薬剤>

中毒性〜アミノ配糖体系抗生物質、NSAIDs、セフェム系抗生物質

免疫性〜シオゾール(金製剤)、プロベネシド、D-ペニシラミン等(抗リウマチ薬に多い)。

アレルギー性〜ペニシリン系は最も高頻度、セフェム系、NSAIDs、市販の感冒薬

*どんな薬品でも、腎障害は起こり得ると理解しておくべきです。


薬剤性腎障害の対策と予防

1993年3月1日号 No.125

 新しい薬剤が次々と開発され、またいくつかの腎毒性を有する薬剤の併用の頻度が増えるにつれて、薬剤性腎障害の発生頻度が次第に増加しています。

 腎障害を発生させる薬剤としては抗生物質が最も多く(37%)、ついでNSAIDs(消炎鎮痛剤)26%、抗腫瘍剤15%、抗リウマチ剤(DMARDs)11%、造影剤6%となっています。

 一方、腎障害を起こした生体側の条件では、女性よりも男性、年齢は60歳以上の高齢者、またうっ血性心不全や肝硬変末期などの循環血液量が減少している症例に多く発生しています。

 生体側の危険因子として薬物の腎障害を考える場合には、患者側に腎疾患があるかどうかと与薬時の腎機能の程度が最も重要です。従って薬物性腎障害予防の基本は、用いる薬物の腎毒性の有無と年齢、腎疾患の既往を知ることです。

<各論>

抗生物質

・アミノ配糖体系は要注意。腎疾患があるか、腎機能が低下している場合は使用できない場合が多い。もし使用する場合は、用量と与薬間隔を考慮する。

・セフェム系は6g/日以下とする。腎機能の程度によって量を考慮する

・アミノ配糖体とセフェム系の併用は避ける。併用する場合は慎重に

・ニューキノロン系、マクロライド系、ペニシリン系は比較的安全

・NSAIDs〜腎機能低下時には使用しない。

・エンドキサン、シスプラチン〜急性腎不全の原因となり得る。血尿出現時は避ける。

・造影剤〜高齢者、糖尿病、脱水時は危険。不必要な使用は行なわない。

・利尿剤〜高尿酸血症時は避ける。脱水で腎機能を悪化させる。

・リファンピシン〜尿蛋白出現、増加で中止する。

・抗リウマチ剤〜同上。腎疾患のある場合使用しない。

<薬物による腎の障害部位>

障害部位 薬物

1.血管 :シクロスポリンA、マイトンマイシンC、造影剤

2.糸球体 :金製剤、D-ペニシラミン、ペニシリン

3.尿細管・    :アミノ配糖体抗生物質、NSAIDs、アムホテリシンB
 間質尿細管壊死:シスプラチン、シクロスポリンA、造影剤

尿細管・   :βラクタム抗生物質、ニューキノロン、リファンピシン
 間質性腎炎:NSAIDs、フェナセチン、リチウム

4.尿細管閉塞:メソトレキセート、サルファ剤、変性テトラサイクリン

          [参考文献]医薬ジャーナル 1993.2


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薬物性腎障害についての最近の知見

2006年4月1日号 No.426

 薬物による腎障害の発症機序は、必ずしも詳細には解明されておらず個々の症例で不明な場合も多く見うけられます。大別すると薬物量あるいは使用期間に依存して、腎障害の発症率が上昇する用量依存性直接型と、数日から数週間の短期的な薬物使用によりアレルギー機序が関与する過敏型になります。薬物性腎障害では圧倒的に多いのが直接型腎障害です。

 その他、直接型と過敏型が同時に関与する混合型もあり、また特殊なものとして嘔吐作用のため水・電解質代謝異常から低血圧、腎障害をきたした例や、薬物(旧テトラサイクリン)がコアとなり結晶析出し、このため腎内尿路閉塞から急性腎不全を呈することがあります。

<被疑薬剤の変遷>

 我が国で薬剤性腎障害が認知され始めた1940年台で、ストレプトマイシンやボリミキシンBなどで、その後の1950年代のテトラサイクリンによる腎内尿細管閉塞による腎不全は、製剤の合成注に混入した異物によるものと判明し、それ以後は全くこのような腎障害は発症していません。

 ※ 病態別の薬物性腎障害発症(2001年以降)

・急性腎不全〜スタチン剤、ビタミンD3
       ジフェンヒドラミン(トラベルミン)

・ネフローゼ症候群〜イレッサ、NSAIDs
          インフルエンザワクチン

・間質性腎炎〜PPI(オメプラール、タケプロン等)
       ペンタサ

・急性尿細管壊死〜抗ウイルス剤(タミフル、バルトレックス)

MPO-ANCA関連腎炎〜MMC(マイトマイシン)、リマチル(右欄参照)

HUS(溶血性尿毒症症候群)〜イレッサ、IFN-α、オダイン

・尿路結石症〜スルファサラジン


 薬物性腎障害発症の危険因子としては脱水、高血糖、先行する腎機能障害、加齢などがあり、これらが様々に絡んで発症の誘因となります。

 高齢者や先行する腎機能障害がある場合に最初に使用する場合は常用量の1/2〜1/3量をまた、腎機能の障害に見合ったノモグラムによる使用量を勘案すべきとされています。

 {参考文献}日本薬剤師会雑誌 2006.3


<NST関連用語解説>   必要エネルギー量を知るにはこちらです。


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肝機能障害と薬効

2003年3月1日号 No.355

 肝機能異常時に薬物動態に影響を与える因子:肝血流量  肝薬物代謝能  血液中蛋白結合率  胆汁排泄能

 肝臓は生体内での薬物代謝と解毒を受け持っています。多くの薬物は、脂溶性で水に溶けにくいため、肝臓で代謝され水溶性に変化して胆汁や尿中に排泄されます。

 肝硬変や、黄疸・腹水などの重篤な肝不全時には、薬物動態に変化を来たし、薬効に多大な影響が現れます。

 肝硬変、劇症肝炎など重篤な肝機能障害時には機能肝細胞量が著明に減少し、薬物代謝酵素活性の低下をもたらします。さらに門脈体循環シャントの形成とアルブミン生合成低下から肝血流量の低下と血漿蛋白率に変化を来たし、肝細胞への薬物輸送に影響を与えクリアランスを低下させます。

 胆汁うっ滞による胆汁からの排泄低下や凝固因子の産生低下、薬物感受性の変化なども、肝機能障害時の薬効に変化を与えることになります。

* 抗不安剤、抗てんかん剤

 肝硬変患者では、抗不安剤や麻薬性鎮痛剤などで中枢神経抑制効果の増強や、肝性脳症の誘発がしばしば認められます。

 抗てんかん薬のフェニトインやバルプロ酸などは酸性のためアルブミンとの結合性が強く、また分布容積も小さいため、遊離型薬物濃度が上昇しやすくなります。

 遊離型薬物濃度の上昇は、低アルブミン血症(3.0mg/dL以下)で著明に薬効が増強します。必要に応じてアルブミン補給を行い低アルブミン血症を補正するか、薬物の用量を減らす必要があります。

* 抗不整脈剤のキシロカインは、プロプラノロールと同様で、重症の肝機能障害では代謝が遅延し血中濃度が上昇しますので、初回量を少なくする必要があります。

* その他 

 肝障害時効果増強:ワーファリン、ペンタジン、インスリン
 肝障害時効果減弱:テガフール

* 降圧剤

 利尿剤は、腎排泄型のものが多く肝機能障害に伴う薬効への影響はあまりありません。
 Ca拮抗剤の多くは肝代謝ですので、重篤な肝機能障害には減量が必要となります。
 β遮断剤の中でプロプラノロールは95%が肝臓で排泄されるため、肝硬変患者では半減期が正常者の約3倍に延長します。
 ACE阻害剤の中で、プロドラッグ型のもの(レニベース錠、エースコール錠等)は、肝機能障害時には活性型への変換が遅延し、降圧効果の発現が遅れ、作用時間が延長する可能性があります。
 アンジオテンシン?阻害薬のニューロタン錠では肝硬変患者でクリアランスの低下が報告されています。

* 抗菌剤

 セフェム系、ペニシリン系、アミノグリコシド系抗菌薬の多くは腎排泄で、肝機能障害に伴う薬効への影響はあまりありませんが、スルペラゾンやロセフィンなど肝・胆道から排泄されるものは肝機能障害により胆汁排泄が減少し血中半減期が延長するため、薬効が増強する可能性があります。

 リファンピシンは主に胆汁から排泄されるため閉塞性黄疸患者では排泄が遅延します。

 肝不全状態では、肝臓で代謝されるミノマイシン、ST合剤などは避けて腎排泄型の抗菌剤を使用します。

     {参考文献}薬事 2003.2


医学・薬学用語解説(ナ)

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