薬剤による劇症肝炎
2009年9月15日号 No.506
劇症肝炎とは、急激で広範な肝細胞壊死により急性肝不全を呈する代表的な疾患で、その予後は極めて不良です。
劇症肝炎は先行する慢性肝疾患が存在しないことが原則で、「初発症状発現から8週以内にプロトロンビン時間が40%以下に低下した、昏睡Ⅱ度以上の肝性脳症を生じる肝炎」と定義され、症状発現後、脳症発現までの期間が8~24週の症例は遅発性肝不全(LOFT:late
onset hepatic
failure)と定義され、急性肝炎においてプロトロンビン時間が40%以下であるが、肝性昏睡を来たさないものは急性肝炎重症型と診断されます。
劇症肝炎の症状としては、ほとんどの症例に進行性の黄疸を認め、黄疸の増強に伴い、発熱、全身倦怠感、食欲不振、悪心、嘔吐、上腹部不快感
上腹部痛等の自覚症状も増強します。
また、覚醒リズムの逆転、多幸、抑うつ、指南力障害、嗜眠傾向、羽ばたき振戦等の神経障害が出現し、深昏睡にいたります。
他覚所見としては、肝濁音界縮小、肝性口臭、腹水、浮腫、肝での凝固因子合成障害による皮下出血・消化管出血、プロトロンビン時間の延長が認められることが報告されています。
<薬剤による劇症肝炎の発生機序>
1)中毒性~用量依存型・宿主非依存的で予測可能
機序:薬物の過量などにより多量に生じた中間代謝物が、生体内高分子と結合し、細胞膜を直接障害することにより細胞壊死が起こる。
2)アレルギー性(特異体質)~宿主特異的で予測不可能
機序:薬物あるいはその中間代謝物が、肝細胞成分と結合することにより、ハプテン
(不完全抗原)・キャリアー抗原を生じアレルギー性肝障害を発症(代表的薬剤:ハロタン等)
薬剤性肝障害の重症例では、劇症化を早期に予測し、的確な治療を行うことが重要です。
PTが40%以下に低下する以前にその後の重症化や劇症化を疑う血液所見としては、肝細胞障害型での総ビリルビンの高値を示す症例や、蛋白合成能の指標である血清アルブミンや血清コリンエステラーゼ(ChE)が病初期より低下しており、かつ黄疸が増強する症例では、PT低下が比較的軽症でも特に注意が必要と思われます。
また、BUN(血液尿素窒素)低値を示す例の注意が必要です。
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最近、総合感冒剤(PL顆粒等)による因果関係を否定できない「劇症肝炎」の副作用が報告されています。(発現頻度は不明)
発症機序は不明です。総合感冒剤に含まれるアセトアミノフェンによる中毒性といわれていますが、配合剤では、どの成分が主因であるかは不明で、アセトアミノフェン以外の成分よる肝障害の発現機序は明かではありません。
<患者さんへの注意喚起>
白目や皮膚が黄色くなる、食欲不振、吐き気を伴った全身のひどい倦怠感、持続性の発熱などの症状が現れた場合には、服用を中止し、直ちに受診して下さい。
<劇症肝炎の治療法>
劇症化の阻止にはステロイドパルス療法を中心とした免疫抑制療法が有用です。薬剤性肝障害がでは、服用中止により新たな抗原刺激が絶たれることから、ステロイドパルス・漸減療法だけで有効な場合が多いとされています。
欧米では肝移植が第一選択と考えられていますが、わが国ではドナー確保の問題も有り、強力な肝補助を中心とした内科的集中治療が主に行われています。
全身状態の管理(各種バイタルサイン、昏睡度腹水、尿量のチェック、糖質・各種ビタミンの補給)が最も重要とされます。
合併症対策としては、
1)高アンモニア血症:蛋白摂取中止、浣腸、ラクツロースの使用
2)脳浮腫:グリセオールまたはマンニトール、フロセミド(ラシックス)の適宜追加
3)DIC:AT-Ⅲ、ビタミンKおよび凍結血漿、血小板の補充
4)消化管出血:H2ブロッカー
5)高ビリルビン血症:ウルソデオキシコール酸(ウルソ錠)
また劇症肝の特殊療法としてプロスタグランジンE1誘導体、副腎皮質ステロイド、蛋白分解酵素阻害剤、グルカゴン・インスリン療法(GI療法)、分岐鎖アミノ酸製剤、インターフェロン、シクロスポリンAなどが試みられています。
{参考文献}日薬医薬品情報 2009.9 Vol.12 No.9
薬剤と肝障害
1989年11月1日号 No.54 関連項目 ノスカールによる重篤な肝障害、肝障害(重大な副作用)
薬剤の種類と使用の増加に伴い、薬剤に起因する肝障害が増加しています。薬剤性肝障害 は、起因薬剤を中止することによって速やかに回復しますが、まれに重篤な肝障害をきた して死の転機をとることもあります。 起因物質では抗生物質が最も多く、最近の十年間だけを見ると全体の76%を占めています。 薬剤性肝障害はアレルギー性機序に基づくものと、中毒性機序に基づくものに大別されま |
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1.アレルギー性肝障害の特徴
a.小数の特定の人にのみ肝障害が起こる。
b.肝障害の発現頻度や重症度は薬剤量と務関係である。
c.発症までの服用期間は不定である。
d.少量の起因薬剤の再使用で肝障害が生じる。
e.発熱、発疹、関節痛、好酸球増多等の症状を伴う。
f.肝組織所見は肝炎、胆汁うっ滞等多彩である。
2.中毒性肝障害は薬剤そのもの、またはその代謝産物の細胞毒性によるものである。
a.全ての人および動物に肝障害を起こし得る。
b.肝障害の重症度は薬剤量に依存する。
c.発症までの服用期間は一定で短い。
d.他臓器にも障害を起こすことが多い。
e.肝組織変化は肝細胞壊死、脂肪化等でほぼ一定である。
*臨床的分類
1.肝細胞障害型、2.胆汁うっ滞型、3.混合型の3型に分類される。
*症状~食欲不振、全身倦怠感、発熱、発疹、関節痛、黄疸、皮膚そう痒等
胆汁うっ滞型ではそう痒が著しい。
*治療
治療はまず、起因薬剤を中止して、安静(臥床)にして肝庇護療法を行います。
黄疸、胆汁うっ滞が高度の場合には、ステロイドやウルソ等を用いることもあります。
*予後
起因薬剤を中止すれば、一般には良好です。しかし、まれには劇症肝炎を来すこともあります。
*市販されているすべての薬剤に肝障害を惹起する可能性があります。
関連項目 ノスカールによる重篤な肝障害、肝障害(重大な副作用)
アダプテーション
adaptation
肝障害の副作用のある薬剤を継続しても肝障害が一過性であったり、軽度で肝障害が進行しない場合があり、いわゆる薬物に対する生体の適応(アダプテーション)が起きていると考えられています。
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薬剤性肝障害の診断
=== DDW-J 2004基準 ====
2006年2月15日号 No.423
薬剤性肝障害の診断の最初のステップは、肝障害の患者を診た際、まずその原因として薬剤の関与を疑うことです。問診によって肝障害発症前に使用していた全ての薬剤の使用量と期間を明らかにする必要があります。
これまで薬剤性肝障害に特別な治療法はないとされてきました。治療の原則は、薬剤性肝障害を疑い、原因と考えられる薬剤を全て中止することで、9割以上の症例はこうした保存的な対応で軽快します。しかし重症・劇症例を放置した場合の致命率は高く、いかに早急に対応するかが問題となります。
<薬剤性肝障害診断基準のマニュアル>
1.肝障害を診た場合は薬剤性肝障害の可能性を念頭に置き、民間薬や健康食品を含めたあらゆる薬物服用歴を問診する。
2.この診断基準は、あくまで肝臓専門医以外の利用を目的としたもので、個々の症例での判断には、肝臓専門医の判断が優先する。
3.この診断基準で扱う薬剤性肝障害は肝細胞障害型、胆汁うっ滞型もしくは混合型の肝障害でALTが正常上限の2倍、もしくはALTが正常上限を超える症例と定義する。
1)ALTおよびALP値から次のタイプ分類を行い、これに基づきスコアリングします。
a.肝細胞障害型 ALT>2N+ALP≦NまたはALT比/ALP比≧5
b.胆汁うっ滞型 ALT>2N+ALP>2N またはALT比/ALP比≦2
c.混合型 ALT>2N+ALP>N かつ2<ALT比/ALP比<5
(N:正常値)
4.重症例では早急に専門医に相談すること。
5.自己免疫性肝炎との鑑別が困難な場合(抗核抗体陽性の場合など)は、肝生検所見や副腎皮質ステロイド薬への反応性から肝臓専門医が鑑別すべきである。
6.併用薬がある場合は、その中で最も疑わしい薬を選んでスコアリング(下記)を行う。
薬剤性肝障害の診断を行った後、併用薬の中でどれが疑わしいかは、発症までの期間、経緯、過去の肝障害の報告、DLSTの項目から推定する
7.薬物以外の原因で原因の有無で、経過からウイルス肝炎が疑わしい場合は、診断鑑別のためIgM HBc抗体、HCVRNA定性の測定が必須
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<スコアリング> 5点以上では可能性が高い。
1.発症までの期間 5~90日 +2
<5日 >90日 >15日 +1
2.経過
中止後のALTの減少率によって +1~+3
3.危険因子(飲酒歴、妊娠) あり +1
〃 なし 0
4.薬物以外の原因の有無 -3~+2
5.過去の肝障害の報告あり +1
6.好酸球増多(6%以上) +1
7.DLST陽性 +2
〃偽陽性 +1
出典:日本薬剤師会雑誌 2006.1 vol.58
<NST関連用語解説>
PPM:Potluck Party Methodはこちらです。
健康食品による薬物性肝障害
2008年1月15日号 No.467
「いわゆる健康食品」による肝障害発生事例について調査を行ったところ、ウコンが原因となっている事例が最も多く、他にも多様な健康食品が肝障害の原因となる可能性があることが分かりました。
安易に健康食品に頼らないこと、また疾患の治療・予防には医師への相談を優先させるように啓蒙していくことが被害の拡大を防ぐために必要と思われます。
健康食品は、一般には健康の維持増進に資する食品として販売・利用されるもの全般を指し、食品衛生法、薬事法、「医薬品の範囲に関する基準」などにより「医薬品」とは区別されます。
健康食品のうち、国が制度化している食品は保険機能食品と呼ばれ、これは2001年に創設された保険機能食品制度によって規定されています。
保険機能食品には、栄養成分含有表示、栄養成分機能表示、注意喚起表示が義務付けられています。
健康効果を期待させるが、保険機能食品に含まれず、栄養成分含有表示のみを義務付けられた食品群が、一般食品として流通する「いわゆる健康食品」とされるものです。
全国アンケート調査によりますと「いわゆる健康食品」による肝障害と考えられた事例は165例(回答総数235例)で、原因と疑われる健康食品がある程度明らかであった事例は131例でした。
このうち36例はフェンフルラミンなどの成分が含まれる中国製やせ薬などの無承認無許可医薬品によるもので、健康食品として位置づけられるものが原因とされた事例は、実際には95例でした。
品目別では、ウコンの含まれる食品が36例と最も多く、その他30種以上の健康食品が原因となっていました。(下記参照)
健康被害事例(無承認無許可医薬品が原因であるものも含む)の治療については、69%の患者で入院治療を要し、外来治療のみ、経過観察のみはそれぞれ、11%、19%でした。
健康食品による肝障害のタイプ別では、肝細胞障害型が74%、胆汁うっ滞型が9%、混合型が18%、臨床病型では、急性肝炎が85%、混合型が9%、慢性肝炎が6%でした。全例で原因と考えられる健康食品は中止されています。
治療として肝移植を必要とした事例は3%(4例)で、死亡例は4%(5例)でした。
治療薬としては、強力ミノファーゲン(当院はネオファーゲン注)が47%と最も多く、ステロイド使用は、24%でした。原因食品中止だけで経過観察された事例も38%ありました。
転帰は、緩解44%、軽快47%で肝障害の改善が見られたものが合わせて90%以上でした。
※ 健康食品による肝障害の原因究明での問題点
「いわゆる健康食品」では、製品の規格が厳密に決められていないことが、原因の究明を困難にしています。すなわち、主成分が同一の健康食品でも、その含有量やそのほかの含有成分が異なることがあり、主成分の量が肝障害の発生に寄与した可能性、あるいは主成分以外の含有成分が肝障害の原因である可能性については常に考慮が必要と考えられます。
健康食品による肝障害の診断については、とくに定められたものはなく、一般の薬物性肝障害の診断基準に準じて行われます。肝障害かどうかの最終的な判断は、診断基準および肝生検所見などを参考としながら、なされるべきとされています。
※ 肝障害起因健康食品
38% ウコン含有食品
3% アガリクス
2% アバノアナタケ
2% アロエ
2% プロポリス
2% 青汁
17% ダイエット食品
7% 健康茶
その他:紅麺、霊芝、もろみ酢、黒酢、クロレラ、サルノコシカケ、ナットキナーゼ等
この調査研究は平成15年度厚生労働省科学研究費補助金 厚生労働省特別研究事業「いわゆる健康食品による健康被害事例リスク分析の研究」、平成16年度厚生労働省学研研究費補助金食品の安全性高度化事業「いわゆる健康食品の健康影響と健康被害に関する研究」の一環として行われたものです。
{参考文献}治療 2007.12
<ウコンの鉄分について>
健康食品としてのウコンは、多種類の製品が流通しており、その数種で鉄分の含有量を調べたところ、牛レバーに匹敵する高い数値を示すものもあったとされ、このような鉄含有量の多いウコンを長期間大量に服用すると、鉄過剰になることが予測されます。
C型慢性肝炎患者では、肝臓への鉄蓄積により肝障害の増悪が見られることが明らかになっており、ウコンを飲むことに問題点を示す報告もあります。
ウコンの製剤のほとんどは、「秋ウコン」と呼ばれるものと考えられますが、同属の植物として「春ウコン」と呼ばれるキョウオウや「紫ウコン」と呼ばれるガジュツがあります。これらの間で肝障害発症のリスクが同一であるという保証はなく、今後の課題となっています。
{参考文献}治療 2007.12
健康長寿志向の罠
~~~健康食品の問題点~~~~
2009年5月1日号 No.497
健康志向の高まりから、健康食品を気軽に試す人が増えています。健康食品という名称から「体に良い」というイメージが先行して、しばしば薬の感覚で飲んでいる人もいます。しかし健康食品は食品に過ぎず治療を目的とした薬ではありません。
{参考文献}医薬ジャーナル 2009.4 ファルマシア 2006.9
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減量目的の外国製サプリメントで、肝障害や死亡者が出たこともあります。これらの中には規格外の生薬、重金属、禁止ステロイド合成薬、性ホルモンなどの混入が発見されています。
肝疾患の場合、肝炎ウイルスや飲酒を除けば、サプリメントが原因である可能性が高いと言われています。
健康食品の中でも、行政による機能の認定を受けた保険健康食品があります。健康増進法と食品衛生法に規定された栄養機能食品と、特定保健用食品です。
栄養機能食品は、ビタミンやミネラルなど種類が限られ、規格基準が決められています。
特定保健用食品は、疾病リスク低減効果を表示できるため、申請に当たってその科学的根拠となる医学的・栄養学的データ、毒性試験や安定性のデータ、臨床試験が要求されます。しかし、そのレベルは薬害や国際化などが問題になる前の医薬品申請基準にも及びません。原則は健康人が疾病になるリスクを減らすことの出来る食品です。
しかし最近では、特定保健用食品の利益優先の行き過ぎたテレビ広告が目立つようになって来ました。
厚生労働省の認定を大げさに宣伝しながら、「○○のおかげでお腹いっぱい食べられる」、「××のおかげでお酒が飲める」といった個人的感想は、生活習慣を改善せずとも安易に治療が出来るものと視聴者に誤解を与え、治療の妨げとなります。
疾患前の健康人よりも、むしろ境界型の患者、さらには本当に治療の必要な患者が多数摂取している実態もあります。
問題点は、健康目的の食品とされているため、消費者も患者も気軽に摂取してしまい、不適切な使用により、逆に病気を悪化させかねない上、相互作用や副作用も予期しづらい点にあります。
<サプリメントよりも食事で>
サプリメントはこれまでのところ、心筋梗塞、脳梗塞などのどの疾患においても予防したという確かな証拠は得られていません。
サプリメントが無効な理由として、一般にサプリメントの使用期間は短く、食品を摂取する期間のほうがはるかに長く、食品として摂る場合には吸収や生物活性が良いことが考えられます。
極端に1つの要素だけを大量に摂取することは他の因子の代謝を阻害することも推定され、危険である可能性があります。
<生活習慣病治療薬>
境界型糖尿病(糖尿病予備軍)は2千万人から3千万人に及ぶとも言われ、早期介入による食事や運動指導が重要ですが、生活習慣を変えられない人が多く、生活改善をしないまま経口血糖降下剤の服薬をはじめる人も多くいます。
糖尿病はあくまでも食事療法や運動療法を徹底させることが望ましく、製薬会社の安易な薬物療法の勧誘も罠の一つです。
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デザイナー食品:Designers food はこちらです。
原発性胆汁性肝炎
PBC
primary biliary cirrhosis
出典:日本病院薬剤師会雑誌 2001.6
胆管の慢性炎症のため慢性管内うっ滞を来し最終的には肝硬変に至る疾患
原因は不明ですが抗糸粒体抗体(AMA)が陽性であることや自己免疫疾患患者に合併することが多いなどから自己免疫の関与が考えられています。
最近、ウルソデヒドロコール酸が本症に対する適応が追加となりました。
サイトプロテクション
cytoproyection
胃粘膜細胞保護作用、胃粘膜上皮再生促進作用
出典:添付文書の用語と解説(薬事時報社)
胃酸分泌抑制作用を示さないPG(プロスタグランジン)F2や、酸分泌を抑制しない程度の低用量のPGE2やその誘導体には、無水エタノール、強酸・強塩基、熱湯、タウロコール酸、アスピリンなど粘膜壊死を起こすような化学的・物理的刺激に対して、これらを防止する作用があります。
この概念を細胞保護作用といいます。
組織学的にはPGは粘膜の中層および深層の障害は阻止できますが、表層の障害は阻止できないことが明らかになっています。
<細胞保護作用の機序>
1.粘膜産生・分泌亢進:胃粘膜上皮細胞で産生・分泌されて被覆する粘液は、胃粘膜を保護する重要な因子の1つですが、PGE2およびその誘導体は、胃液中の粘液物質を増加させ、胃粘膜の糖蛋白へのフコース、グルコサミンの取り込みを促進させる作用を持ちます。
2.細胞膜安定化:潰瘍形成過程で生じるライソソーム酵素の血中への有利がPGE1前処置によって抑制される点から、PGには細胞膜安定化作用があると考えられます。
3.Naポンプの維持:胃では粘膜側から漿膜へのNa+の能動輸送に異常が生じると細胞内のNa+貯留し、細胞内浮腫から細胞膜の障害が発生するといわれています。
4.重炭酸イオンの分泌:攻撃因子である胃酸を中和する機構として重炭酸イオンが粘膜から分泌されますが、16,16-dimethl-PGE2やPGF2αは、胃からの重炭酸イオンの分泌を促進します。
5.胃粘膜血流の増加:E型のPGやPGI2は血流増加作用を持ち、強力な細胞保護作用を示します。
血流増加作用を示さないPGF2αも細胞保護作用を示すことから、粘膜血流は細胞保護作用に深く関与しないとの説もありますが、血流増加作用の強いPGほど細胞保護作用が強いことから胃粘膜血流の関与も無視できないと考えられています。
さらに、PGに特有であったこの細胞保護作用もPG特有のものではなく、H2ブロッカー、抗コリン薬、ソマトスタチン、EGFでもみられるとの報告もあります。特にEGFでのこの作用機序として、胃粘膜内のDNA合成の促進が報告されています。
トーヌス
tonus
緊張(筋)
消化管平滑筋は蠕動運動のような強い収縮の生じていない状態(安静状態)でも絶えずある程度の張力が発生しています。この張力のことをトーヌス(緊張)といいます。
トーヌスを生じているのは、筋組織の弾性によることもありますが、主として持続的に活動電位が繰り返し生じているためと、各細胞の比較的連絡が少なく、個々に収縮していることによります。従って、全体としてある程度の比較的弱い収縮状態を持続しています。