メインページへ

1997年12月15日号 236

ノスカールによる重篤な肝障害

緊急安全情報  

(この記事は1997年のものですノスカール錠は、2000年3月に発売中止となりました。)

  本年3月の発売以降(推定使用患者数約15万人)に本剤と関連性を否定できない肝障害が13例(うち死亡例3例)が報告されています。本剤の使用にあたっては、十分にご注意ください。
また、肝障害例が認められた場合には、服薬を中止するなど、適切な処置が必要です。

 
*ノスカール(インスリン抵抗性改善剤)使用中には下記の項目を守ってください。

1、劇症肝炎等の重篤な肝障害が発現することがあるので、少なくとも1ヶ月に1回、肝機能検査を行うこと。

2、GOT,GPT値の上昇等肝機能検査値の異常、黄疸が認められた場合には、使用を中止し適切な処置を講ずること。

3、副作用として肝障害が発生する場合があることをあらかじめ患者に説明するとともに、悪心、嘔吐、全身倦怠感、食欲不振、尿黄染等が現れた場合には、服用を中止し、直ちに受診するように患者に注意を行うこと。

<治療法>

1、初期症状に気づいた時点で、直ちに服薬を中止する
2、安静

3、薬物による治療〜副腎皮質ステロイド、ウルソ、フェノバルビ タールなど

<<薬剤性肝障害の発生機序>>

 薬剤性肝障害の機序は、中毒性機序に基づくものとアレルギー性機序に基づくものとに大別されます。

1)中毒性肝障害

 薬物自身あるいは薬物の代謝による中間代謝物が肝細胞に作用して、分子の断裂、結合等が生じるために肝障害を惹起します。(例:イソニアジド、アセトアミノフェンなど)

2)アレルギー性肝障害

 薬物あるいはその代謝中間体が肝細胞と結合し薬物と肝ミクロソーム蛋白によるハプテン−キャリアを形成して抗原性を獲得します。この抗原が非自己と認識されアレルギー性肝障害を起こします。(例:クロルプロマジン、アジマリン、セファロチンなど)

 なお、薬物アレルギー性肝障害において肝内胆汁うっ帯像がよくみられますが、これはリンホカインの一種である催胆汁うっ帯因子によって誘導されると考えられています。

 患者さんに伝えるべき症状〜 発熱(38〜39℃)、ぶつぶつ様の発疹、食欲
がなくなる、気分が悪くなる、下痢になる、しだいに強くなる全身のだるさ、皮膚や白目が黄色くなる、体がかゆいなどの症状があらわれた場合には相談してください。

ノスカール錠は、2000年3月に発売中止となりました。

 


重篤な肝障害

〜副作用を考える(7)

 薬物性肝障害の多くを締めるアレルギー性肝障害の初期症状としては、発熱(38〜39℃)、発疹等のアレルギー症状が早期に現れ、次に、しだいに強くなる全身倦怠感と嘔気、嘔吐等の消化器症状が出現します。

 起因薬剤が継続された場合、治癒が遅くなることまた薬物性肝障害による死亡率が4.8%あることなどを念頭において、より早期に気づいて連絡を取れるように指導する必要があります。服薬を中止した後に黄疸が強くなる症例があるので、経過管理にあわせて指導を行うことも重要です。

<症状>

発熱:48〜57%、発疹:25〜49%
消化器症状:28〜60%
黄疸:61〜78%
皮膚掻痒感:37〜59%
全身倦怠感:52%(倦怠感は消化器症状を伴う
場合が多く見られます。)

*アレルギー性の肝障害では、起因薬剤を再与薬した際に発症までの期間が短縮される可能性が強いので注意が必要です。

 個々の症状別にみると、発熱が2週間以内に70%、発疹は23日、消化器症状は30日、黄疸は32日、掻痒感は39日とされ、アレルギー症状が早期にみられ、遅れて消化器症状を伴った肝障害が発現します。

 上記の2〜3症状を伴う症例が過半数で、特に発熱(38℃台)、消化器症状、黄疸を併発するものが多いとの報告があります。

 発症までの服用期間の平均は約60日であり、2週間以内が約38%、4週間以内が61%、 8週間以内が約81%との報告があります。
また、4週間以内が61%、8週間以内が97%とする報告もあることから薬物性肝障害を疑う場合には、まず4週間以内に服用した薬剤を疑い、さらに8週間以内に服用した薬物を検討すべきです。

 一般的には、薬物性肝障害の予後は比較的良好であり、起因薬剤の中止により速やかに回復することが多い。治癒までの平均期間は60〜62日であり、60日以内に36〜64%の症例が、90日以内には82〜87%の例が治癒しているという報告があります。

{参考文献}重大な副作用回避のための服薬指導集 (日本薬剤師会編)


疥癬の治療

出典:医薬ジャーナル 2000.8等

*病原体:ヒト疥癬虫(ヒセンダニ)、雌虫は0.4mm大、皮膚の角層内に寄生、ヒトから離れては数日以上生存不可能。
*感染経路:患者との密接な接触や同衾、寝具や衣類を介して伝染。
家族間、病院内、寄宿舎、寮、当直室等、不潔な性行為によるものも多い。

*潜伏期間:約1ケ月、感染後1ケ月間は無症状。

<症状>

 夜間に増悪する全身の激痒、しばしば不眠となる。
 臍部を中心に腹部、胸部、四肢屈側等の柔らかい部位に散発する紅色小丘疹。
 わきの下、外陰部に認められるやや褐色調の約5mm大の小結節。
 手や指に好発する5-10mm大のS字状に曲がった線状隆起(疥癬トンネル)や小水庖、膿疱 (虫体は3.4.にのみ存在)。

<診断>

 感染の可能性の有無
 特徴的な臨床症状
 手指(特に指間)、外陰部等の皮疹よりの鏡検による虫体、虫卵の検出

<治療法>

 γBHC吸水軟膏を首から下の全身(指間、陰部も)にくまなく1日1回3日間塗布(計30g,神経毒性あるため過量を使用しないこと)。
4日目よりオイラックス軟膏(オイラックスH軟膏は不可)を1日1回首から下の全身に塗布 (14日間以上)。
2週間後、激痒がおさまらず、小結節、疥癬トンネルが認められれば、再度1)、2)を操り返す。
1. 1ケ月後に掻痒、皮疹が認められなければ完治とする。

<防疫処置>

患者は可能な限り個室に隔離する(複数患者の場合は同室に)。
患者の出た病室をバルサンでいぶす。
患者の衣類、シーツは毎日、洗濯したものと交換する。
1. 患者と同室者及び患者に接していた医療従事者のうち皮疹,掻痒を訴える者があれば全員皮膚科受診の上、治療を受ける (1ケ月間は要注意)。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
治療剤

1)硫黄剤

 入浴剤としてムトーハップ。入浴できない場合は、洗面器などを用いてお湯に溶かし、全身を清拭しても良いでしょう。
 5〜10%沈降硫黄軟膏、チアントール軟膏なども有効

*硫黄剤は臭いがきついことや、皮膚が乾燥しやすく、高齢者では乾燥によって痒みが増す場合もあります。

2)オイラックス

 保険で認められている唯一の外用剤。
顔面以外の全身にくまなく毎日塗布。特に手指や指間部、腋、陰部などには念入りに塗ることが必要です。オイラックスを1〜2週間続ければヒゼンダニは全滅できる筈です。(オイラックス:クロタミトンには弱いながら殺虫効果が認められています。)
 治癒判定が、困難で痒みが残る例も多いため、実際には1ヶ月程度を目安に継続するように指導し、ムトーハップと併用することが望ましい。

3)安息香酸ベンジル〜試薬:保険適応外

 消毒用70%エタノール(あるいは100%)を溶媒として10〜20%溶液を作成。10%で十分有効と思われます。

 刺激性があり、特に掻き破り痕の多い症例では、灼熱間やしみるなどの訴えがあるので注意が必要。

通常、全身に塗布して翌日入浴という方法で、2〜7日間隔で1〜3回
オイラックスと併用すべき。

4)γ-BHC

 殺ダニ効果が高く、重症疥癬では極めて有効
入浴後全身に1回だけ塗布して6時間後に洗い流す。その後6日間はオイラックス軟膏を塗布し、再度γ−BHC軟膏を塗布する。

 基本的には、禁止薬であり、毒性が問題となるので使用には十分な注意が必要。案には使用は慎むこと。

1.経皮吸収量を減らすために、入浴後体が冷えてから塗布。
2.6時間で洗い流す。
3.幼児、小児、妊婦には使わない。
4.湿疹化病変、2次感染、びらん面、皮膚バリア機能障害のある部位には使わない。
5.1ヶ月に2度を限界とする。
6.濃度は1%以下とし、出来る限り少量を用いる。3回以上は塗布しない。
7.口から入らないように厳重に注意する。

<院内感染対策>

 患者と密な接触機会のあった者は、症状の有無に関わらずムトーハップ入浴、あるいはオイラックス軟膏の塗布をしておく法がよい。また、疥癬の疑いがある患者やスタッフがいた場合、仮に虫体や虫卵が確認できなくても疥癬に準じた治療を施す方が無難です。

 感染の可能性のある者には、オイラックスを7日間連日塗布しておくべき

 特に、感染源となった患者がノルウェー疥癬の場合には感染力が極めて強いので、この予防処置は院内での感染の蔓延を防ぐ意味でも重要

 患者のリネン類は他の患者の者とは別にして、熱湯消毒する、普通の疥癬患者であれば、隔離は必須ではありません。しかしノルウェー感染の場合は個室管理、入室制限、ガウンテクニック(ビニール製エプロンなども可)、部屋の壁や床、カーテンなどへの殺虫剤撒布が必要

*疥癬患者ではヒゼンダニが死滅した後でも痒みが残る例が多く、いつまで治療を続けるべきか判断が付きにくい場合が多い。むやみに長期間の治療を継続することが本人のみならず、医療スタッフの負担も増大します。通常、徹底した外用療法が行われていれば、2〜4週間以内にヒゼンダニは死滅しているはずですが、外用剤塗布が十分でない場合や重症疥癬では長引く例がありますので、症例によって判断するしかありません。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

ノルウェー疥癬

 重症感染症、悪性腫瘍などの基礎疾患があって免疫低下のある患者や、単なる湿疹などの判断でステロイド外用剤が長期にわたって使用された患者では疥癬が重症化し、ノルウェー疥癬と呼ばれる病型をとることがあります。
ノルウェー疥癬では、手指や関節部などに厚い灰白色の鱗屑が付き、爪の肥厚も認められます、全身の皮膚が赤くカサカサになって、紅皮症の状態になることもあります。この病型は感染力が極めて強いので特に注意が必要です。

メインページへ