「カエサル」

    目 次

1. はじめに
2. スタッフとキャスト
3. 構成
4. あらすじ
5. 劇 評
6. 感 想

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1. はじめに
 塩野七生さんの本は、割に良く読んでいます。「ローマ人の物語」の中の「カエサル」が上演されると知り、行ってみました。吉右衛門は歌舞伎一筋なのに対し、幸四郎は歌舞伎以外にも手を広げています。「ローマ人の物語」はユリウス・カエサルだけで2册なので、戯曲化に当ってどんな風にまとめているかにも興味がありました。

2. スタッフとキャスト
[スタッフ]
 原作 塩野七生「ローマ人の物語」
 脚本 斉藤雅文
 演出 栗山民也
[キャスト]
 カエサル     松本幸四郎
 ブルータス    小沢征悦
 セルヴィーリア  高橋恵子
 キケロ       渡辺いっけい

3. 構成
[第一幕]
第一景 「暗殺者たち」        ローマ。大回廊(BC44年)
第二景 「ガリア戦記1年目」     ガリア南部の陣営(14年前のBC58年)
第三景 「三頭政治」         ローマ。カエサルの私邸(その2年前。BC60年)
第四景 「演壇」            ローマの広場(翌年。BC59年)
第五景 「ガリア戦記4年目」     ガリア北部の陣営(その5年後。BC55年)
第六景 「最終勧告」         ローマ。大回廊(その6年後。BC49年)
第七景 「内乱」            ローマ。カエサルの公邸(10日後)
第八景 「ギリシャからエジプトヘ」 ファルサルスとアレクサンドリア。クレオパトラの館(翌年BC48年)
第九景 「敗軍の将」         アレクサンドリアの海岸(同年)

[第二幕]
第一景 「回想」            アレクサンドリア。カエサルの陣営(同年)
第二景 「寛容」            プリンデシ。キケロの宿(翌年BC47年)
第三景 「凱旋」            ローマ。セルヴィーリアの館(同年)
第四景 「国家改造」         ローマ(翌BC46年〜44年)
第五景 「3月15日」          カエザルの公邸(BC44年)
第六景 「暗殺の果て」)       大回廊から、街(同年)
第七景 「帝国の誕生」)       郊外のセルヴィーリアの住居(14年後、BC30年)

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4. あらすじ
[第1幕]
 紀元前1世紀。建国以来、拡大と繁栄を続けてきたローマは、その拡大ゆえに、国内では矛盾が累積し、内乱と危機の時代を迎えていた。そんな中、ユリウス・カエサルが頭角を現し始める。
 紀元前58年、南部ガリアの属州総督に就任したカエサルは、ガリア戦役を開始する。ガリアに侵入するゲルマン人を抑え込み、ガリアを平定することでローマに平和をもたらすために。幕僚の1人、ローマーの大富豪クラッススの息子である若きクラッススは、カエサル、ポンペイウス、クラッススの間で「三頭政治」の密約が交わされた夜を回想する−−−。
 ガリア戦役の2年前。犬猿の仲として有名だったクラッススと「偉大なる将軍」ポンペイウスがカエサルの舘に招かれて来る。カエサルは、2人の利害を利用して協力関係を結ぶ。翌年、カエサルは執政官に就任、次々と改革を打ち出した。元老院を翻弄するカエサルの手腕に、元執政官である元老院議員キケロは危惧を抱く。
 三頭政治が機能してカエサルは属州総督の期間延長を認められ、8年間ガリアで闘い続けた。ライン川やドーヴァー海峡も渡り、ついにガリアを平定する。しかし、あまりに巨大になったその力を恐れた元老院は、「元老院最終勧告」を発してカエサルに軍の解散を求め、ポンペイウスに全軍の最高指揮権を与える。それを知ったカエサルは、苦渋の決断の末にルビコン川を越えて、ローマ本国へ進軍。軍備の間に合わないポンペイウスはローマを捨てる。カエサルの愛人セルヴィーリアやその女奴隷アリスは、混乱に陥ったローマに残るが、セルヴィーリアの息子ブルータスは、ポンペイウス軍に身を投じる。
 各地での戦いの後、ギリシャのファルサルスでの会戦でカエサルはポンペイウス軍を決定的に破る。エジプトでの再興を図るポンペイウスを追って、アレクサンドリアに向かうカエサルだったが、ポンペイウスはエジプト王の命で殺された後だった。カエサルの胸に苦い思いがこみ上げる。

[第2幕]
 カエサルのいるアレクサンドリアの宮殿を、エジプトの共同統治者であるはずの、クレオパトラが秘かに訪れる。自分の命を狙っている弟王を倒し、自分をエジプトの女王にしてほしいと言うのだ。肉親の争いには賛成できないと言うカエサルは、過去の恐ろしい光景を思い出す。それは元老院派と民衆派が争い、ローマに粛正の嵐が吹き荒れた血まみれの記憶だった。だがそこへ、弟王の挙兵の知らせが入る。カエサルはやむなく、戦闘に向かう。
 エジプトから小アジア、北アフリカと転戦してすべての戦いに勝利するカエサル。そんな中、イタリア南端の港の宿では、ポンペイウス派に与した己の身の不安に煩悶するキケロのもとへ、カエサル軍に捕まったブルータスが連れてこられる。なじり合いを始める2人。その前に突然カエサルが現れる。反対派についたキケロを許し、共にローマに凱旋すると言うのだ。
 市民の歓喜の声が響く中、カエサルは凱旋した。アリスはブルータスの生還を喜び、カエサルを称える。セルヴィーリアも、愛するカエサルと息子が共に無事戻った幸福感に浸っている。独裁官に就任したカエサルは、ただ1人の統治者として、次々と改革を断行し、新しい国家像を示していく。しかし、その権力の大きさにキケロとブルータスは次第に反発していく。そして、運命の日。夢見が悪かったからと引きとめる妻をにこやかに振り切って、カエサルは公邸を後にする……。
 14年後。ローマを離れてひっそり暮らすセルヴィーリアの元に、アウグストスの称号を得、事実上の皇帝となったカエサルの後継者、オクタヴィアスが訪ねてくる……。

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5. 劇 評
5.1 朝日新聞
 松竹「カエサル」 幸四郎、英雄像を巧みに

 塩野七生の長大なべストセラー「ローマ人の物語」を原作に、カエサル(シーザー)の栄光と悲運の壮年期が、斎藤雅文脚本、栗山民也演出により舞台化された。
 カエサル役は松本幸四郎。ややロマンに酔っているが、時代物の英雄役者らしい堂々たる風姿と利かせ台詞(ぜりふ)の朗誦(ろうしょう)、一転して写実芸のうまさで複雑、洒脱(しゃだつ)な人間像を巧みに表現する。風格のある瑳川哲朗と勝部演之、感情豊かな高橋恵子らのベテラン勢はともかく、若い共演者たちの演技がくだけ過ぎ、生硬さも見受けられて、統一感がいま一歩だ。原作の魅力は、歴史と人間を見つめる叙事の冷徹な筆さばきにある。しかし脚色はウエット。厳しい対論より叙情に流れる独白主体になっている。
 第1場はカエサルの暗殺。そこから時間をさかのばり、カエサルのガリアでの戦いや政敵に勝つ武勲と、思い描く理想と現実、色模様をまじえた人間カエサルの喜びと苦しみが挟み込まれる。最後の場は暗殺から14年後、後継者による「帝国の誕生」である。
 1幕が歴史絵巻風で、ドラマの凝縮が足りない。2幕冒頭の、回り舞台を使いカエサルが死者たちと対話する幻想場面で劇が立ちあがる。終盤のカエサルの遺体を燃やす一筋の炎に英雄の無念が宿る。文人キケロ(渡辺いっけい)との対比を通してカエサルの人間味も浮かび上がる。渡辺は達者な演技だが、弁論と哲学の雄である役の性根は押さえたい。
 主題は暴力の連鎖を断ち切る寛容の精神の復興。絶望の中で、見果てぬ夢を追うカエサルの独白は、真実味が胸に落ちる。幸四郎の「ラ・マンチャの男」ほどではないが、商業演劇の可能性を感じさせる。他に出演は小澤征悦、小島聖、小西遼生、水野美紀ら。美術・松井るみ、衣装・前田文子。  (山本健一・演劇評論家) 27日まで、東京・日生劇場。
(出典 朝日新聞 2010.10.15夕刊)
5.2 日本経済新聞
 塩野七生が「ローマ人の物語」で最も敬愛をこめて描いたカエサル(シーザー)像に、松本幸四郎が揮身(こんしん)の演技で応えた。栗山民也の演出は長い歴史物語を速いテンポで運ぼうとする。寛容という理想を掲げる単なる英雄像ではなく、多額の借金をし女好きでもあるカエサルの人間的な姿も描いていて面白い。脚本に検討の余地はあるが、俳優の奮闘で見せる。27日まで、日生劇場。★★★★(河)
(出典 日本経済新聞 2010.10.19)

6. 感 想
 随分、思い切った場面展開ですが、予備知識のない人にはわかりにくいと思います。このホームページでは「構成」としている場面を字幕などで観客に報せるような工夫が必要かと思います。また、ローマの政治の仕組みも、説明が要るかと思いました。

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[Last Updated 11/30/2010]