3 フォア&モア
マイルス・デイビス


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  目 次

1 タイトル、曲名、演奏者
 CDのタイトル、収録された曲と演奏者をご紹介します。
2 CDの紹介
 ライナーノートに載っている、マイルス・デイビスを始めとする演奏者と、曲についての紹介です。
3 CDの聴き方
 「ジャズ完全入門 !」に載っている内容で、このCDの聴き方が判ります。
4 ポートレイト・イン・ジャズ
 村上春樹氏がマイルス・デイビスについて熱く語ります。

1 タイトルと曲名
MlLES DAVIS/'FOUR'& MORE(マイルス・デイビス/フォア&モア)
SRCS 9707 STEREO  SBM 20bit K2

1.ソー・ホワット
 SO WHAT ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・9:09
 M. Davis
2.ウォーキン
 WALKIN' ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・8:08
 R. Carpenter
3.ジョシュア〜ゴー・ゴー
JOSHUA/GO-GO・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・11:11
(Theme and announcement)
 V. Feldman-M. Davis
4.フォア
 FOUR ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・6:18
 M. Davis
5.セブン・ステップス・トゥ・ヘヴン
 SEVEN STEPS TO HEAVEN ・ ・ ・ ・ ・7:47
 V. Feldman M. Davis
6.ゼア・イズ・ノー・グレイター・ラブ〜ゴー・ゴー
 THERE IS NO GREATER LOVE /GO-GO(Theme and announcement) 11:26
 M. Symes-I. Jones

■ Personnel & Recording Data
マイルス・デイビス(tp)
ジョージ・コールマン(ts)
ハービー・ハンコック(p)
ロン・カーター(b)
トニー・ウイリアムス(ds)

Miles Davis (tp)
George Coleman (ts)
Herbie Hancock (p)
Ron Carter (b)
Tony Wiliams (ds)

1964 Feb.12
at Lincoln Center "Philharmonic Hall", New York

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2 CDの紹介
 《フリー・ブローイング時代におけるライヴ盤の傑作≫
  マイルス・デイビスの長いキャリアにおいて、 1960年から1964年頃までは、メンバーも流動的で、ひとつの転換期でもあった。いわゆるミュージカル・ディレクター的な、グループの柱になるミュージシャンがいなかったので、逆に自らが先頭に、立ってクループを引っ張り、バリバリとトランペットを吹き、大いに張り切っていた時代でもある。したがって、マイルスのトランペット・ソロはこの時代がベストだという人も少くなく、たしかに彼のフリー・ブローイングぶ古)にはすさまじいものがあった。そして、そのマイルスのフリー・ブローイングが頂点に達していると思われるのが'64年2月12日にニューヨークのフィルハーモニック・ホール(現エイブリー・フイシャー・ホール)でのライブ録音である。この時の演奏は『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』と『フォア&モア』という2枚のアルバムに分けて収録されているが、前者にはスローやミディアム・テンポのものが多く、後者、つまり本作にはアップ・テンポのものが多く、この2枚は兄弟の関係にあるといえる。
 当時、このホールはこユーヨーク・フィルの専用的存在だっただけに、ジャスとしての初出演のマイルス・ティビス・クインテットの公演は大きな話題を呼んだ。なんでも、この頃、ブラック・パワーの台頭がめぎましく、このコンサートは黒人の公民権運動推進のためのベネフイット公演でもあり、NAACP(黒人地位向上協会)、 CORP(人種平等会議)、SNCC(学生非暴力調整委員会)が後援したといわれる。
 この時の演奏は、レコードをきけはわかる通り、大変な熱演で、充実したプレイとなっており、マイルスのエネルギッシュなトランペットは、ようやく固定したニュー・リズム・セクションをパックに思い切ったアドリブを展開しており、マイルスはテクニックのないトランペッターだといってきた人たちの鼻をあかすプレイをみせてくれる。
 このコンサートの成功で、のちにエイブリー・フイッシャー・ホールは、その後マイルスの本拠地のようなホールになっていく。 '80年代のクール・ジャズ祭・ニューヨークやJVCジャズ祭二ューヨークでは、ジャズ祭のオープニング・コンサートを、いつもここで開いてきた。ぼくも何度ここに足を運んでマイルスをきいたことか.とくに'81年7月5日に、ここで開かれたカムバック・コンサートは、大変印象的であった。マイルス・グループは、この広いホールに耐える数少ないジャズ・グループだったといえそうだ。
 マイルスは1955年にクインテットを結成してからは、ずっとレギュラー・コンボを維持してきたが、最初のテナー・サックス、ジョン・コルトレーンが理想以上に急成長し、グループの車要な柱になった。それだけに、 '57年の春にマイルスが突然グループを解散したときにはみんな驚いたものだった。コルトレーンはモンクのコンボに加わり、その後再編したマイルス・コンボは、仲のいいソニー・ロリンズやホビー・ジャスパーを加えたりしたが、なかなかメンハーが固定しなかった。しかし、'58年のはじめにパリから戻ると、マイルスはキャノンボール・アダレイ、ジョン・コルトレーンを加わえてサックス陣を強化し、セクステットとし、『マイルストーンズ』などを吹き込み、モード手法を打ち出しマイルスは大さく前進した。そしてピアノにはビル・エヴァンスが加わって、グループはさらに新鮮さを増した。しかし、この豪華なメンバーも長くは続かなかった。 '59年の3月に『カインド・オブ・ブルー』を吹き込んだあと、秋にはキャノンボールが退團し、 '60年4月にはコルトレーンが独立した.ふたたびサックス陣に変動がみられ、ソニー・ステイット、ジミー・ヒースを経てハンク・モプレイが加わり、トロンボーンのJ.J.ジョンソンが加わったりもした。 '63年の春には一時アルトのフランク・ストロージャーが加わったりしたが、 '63年5月に『セヴン・ステップス・トウ・ヘヴン』を録音する時からテナーにジョージ・コールマンが加わり、グループは安定感を増し、マイルスも安心してフリー・ブローイングに徹するようになった。こうして生まれた快作が63年7月の『イン・ヨーロッパ』であり、フィルハーモニック・ホールでの本ライブ盤である。
 コールマンは人柄な黒人で、 1935年3月8日にテネシー州のメンフィスで生まれている。南部出身らしく、ソウルフルでパワーのあるテナーを吹いた。ブルースのB.B.キングやマックス・ローチらとも共演してきた男で、ハンク・モプレイ同様玄人好みのところがある。コルトレーンのような知性派ではないが、激しいフリー・ブローイングの相手役にはもってこいのテナーだったともいえる。最近、ニューヨークのライブ・ハウス”ブラッドリーズ"でウイントン・マルサリスらとジャムっているコールマンを聞いたが、いまだ健在の感を深くした。彼は'64年7月の末日直前にマイルス・コンボを退団し、来日グループにはサム・リパースが加わっていたが、サムも悪くなかったが、この時期のコールマンも一度きいてみたかったことも確かだ。
 ともあれ、「フォア&モア」はテナーのコールマンとの関係に注目してききたいアルバムである。

《曲目と演奏について≫
1.ソー・ホワット
 『カインド・オブ・ブルー』で演奏され、マイルス作曲のモード曲として有名になったものである。ドリアン・モードを導入し、コードの数を減らし、よりメロディックなアドリブをねらったのがモード手法である。ハンコックのモーダルな動きに注目したい。曲名は「だからどうだってんだ」というマイルスの高圧的な口ぐせからとったものである。
 オリジナルよりテンポが早いが、ジャズでは再演の場合、テンポは大抵早くなる。なれた曲の演奏での緊張感を高めるためである。ここでのマイルスのアドリブにはすさまじいものがあり、接巧上の成長も著るしい。コールマンのテナーもブローで応えるが、ハンコックの知的なピアノ・ソロはいかにも新主流派の旗手らしい新しさがみられる。
2.ウォーキン
 リチャード・カーペンターが作曲したファンキーなブルースで、モダン・ジャスの名曲。マイルスば'54年に同名のアルバムを吹き込み、ハード・バップ宣言を行った。この曲も、再演で、ライブということもあって、オリジナル演奏よりもかなりテンポが早く、マイルスは待ちきれないといった感じで、すぐさまホットなブローを展開する。マイルスにとって、この時期はトランペットを吹くのが面白くて仕方がなかったのでは、ともいえそうで、最初にも触れたが、マイルスのトランペットはこの時期がいちはん凄い。マイルスお気に人りのトニー・ウイリアムスのドラム・ソロは切れ味がよく、若者らしいフレッシュさがある。新しいセンスのオフ・ビート感覚がある。つづくコールマンのテナー・ブロー、ハンコックのピアノ・ソロと息つくひまもない緊張したプレイがみられる.

3.ジョシュア〜ゴー・ゴー
(ジョシュア)は'62〜'63年にマイルスと共演したイギリス出身のピアニスト、ヴィクター・フェルドマンのオリジナル。『セヴン・ステップス・トゥ・ヘヴン』や『イン・ヨーロッパ』でもきかれた曲だ。ベースのイントロにはじまるシンプルなテーマのモーダルな曲調で、マイルス、コールマン、ハンコックがフレッシュでモダンなソロをとっている。この時代におけるマイルスのニュー・コンセプションを示しており、ハーヒーが終始モーダルなピアノでバック・アップする。ハービーの流れるようにメロディックなピアノ・ソロは新世代ミュージシャンらしいモーダルな新しさに満ちており、じつはアルバム中最大の注目曲でもある。演奏が終ると、すぐクロージング・テーマ(ゴー・ゴー)となリメンバーが紹介される。

4.フォア
 古いマイルスのオリジナルで、バップ調を残している。マイルスば'54年、'56年にも録音しており、モダン・シャズのスタンダードになっている曲でもある。ここでもオリジナルを超えるアップ・テンポで演奏されており、マイルスの熱いブローにつづき、コールマンのテナー、ハンコックのピアノとソロがつづくが、ハービーがつねにバックでモーダルな動きをみせている点に注目したい。彼のシンプルなコード・ワークがホーン奏者のアドリブをより自由なものにしている。ハービーのピアノ・ソロはスマートでさわやかだ。

5.セヴン・ステップス・卜ウ・ヘブン
 マイルスの同名のアルバムで演奏されたヴィクター・フェルトマンのオリジナル。ここではアップ・テンポで演奏される。ロン・カーターのベースのイントロにはじまり、マイルスのホットなブロー、トニーカーターのあざやかなドラム・ソロ、コールマンの熱いテナー、ハンコックのスムーズなピアノ・ソロと全員が際立った個性を発揮している。

6.ゼア・イズ・ノー・グレイーター・ラブ〜ゴーゴー
 バンド・リーターだったアイシャム・ジョーンズが1936年に作曲した古いスタンダート・ナンバーで、美しいメロティが印象的である.マイルスは「ニュークインテット」の中ではバラッ卜として演奏していたが、ここではミディアム・ファーストにテンポを上げて演奏しているが、マイルスは前回同様、いわゆるヘソ抜きミュートといわれたハーモン・ミュートをつけて、鋭さの中にもデリケー卜なセンスを感じさせるソロを展開する。コールマン、ハンコックとソロがつづくが、ここでもハービーはモーダルな動きをみせるが、ソロのグルーヴィなフィーリングはすでに実力をたくわえているのがわかるし、新世代の新しさをもっている。また、この曲ではスケールの人きいロン・カーターの力強いベース・ビートが強い印象を残す。
 最後に、マイルスがオープンでクロージング・テーマを吹いてアルバムを閉じる。
                                           1996. July岩浪洋三  (出典 ライナー・ノート)

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3 CDの聴き方
マイルス・デイビス/フォア&モア(MlLES DAVIS/'FOUR'& MORE)

 どこからマイルスに入るか。これは結構難しい。昔からジャズ・ファンが後輩にマイルス・デイヴィスのアルバムを聴かせるとき、その順序が問題になった。というのも、モダン・ジャズの歴史そのもののようなマイルスは時代によって大きくスタイルを変えているので、推薦するアルバムによっては、せっかくの入門者のマイルスへの敷居を高くしてしまいかねないからだ。そこで、一番無難なのはプレスティッジ時代の有名盤、「ing四部作」と言われた『リラクシン』『クッキン』『ワ一手ン』『ステイーミン』や、同時期の『ラウンド・アバウト・ミッドナイト』(CBS)あたりを薦めることだった。僕もこのやり方にとくに異論はないのだが、自分の体験からは若干疑問もある。
 これらの作品はマイルスの極度に凝縮された美意識がハード・バップという形式を生み出すまさにその現場の記録だけに、演奏のレベルは極めて高いが、マイルスの繊細な世界そのものがわからなければ、単に「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」や「ラウンド・ミッドナイト」といった有名曲を聴いて、ハイ、それで終わりということになりかねない。つまり曲想でとりあえず納得してしまい、マイルスの正体を掴みかねる恐れがある。
 そこで入門者は、とにかくバリバリとマイルスが吹きまくっているこのアルバムを最初に聴くのがいいのではないか。これはジャズ入門の一般論なのだが、ジャズという音楽の聴きどころや、個々のミュージシャンの持ち味をとくに理解していなくとも、演奏の勢いや迫力は誰にでもわかるものなのだ。だから最初はこの作品のように、マイルスがトランペッターとしての能力を最大限に発揮したライヴ・アルバムを聴いて、演奏の勢いの波に巻き込まれてほしい。
 出だしから走り気味(演奏のスピードが早すぎること)で飛ばすメンバー全員の中でも、とくに十代でマイルス・バンドに大抜擢されたドラムスのトニー・ウイリアムスが、半拍余りも先を叩いているのではなかろうかと思わせるシンバル・ワーク(チンチキ、チンチキとリズムを刻むこと)で先行するが、それを上回る勢いで追いかけるマイルスのトランペットが空恐ろしい迫力で吹きまくるので、もうリズムがどう、ペースがどうという話ではなく、やるほうも聴くほうも興奮のるつぼに放り込まれてしまう。とりわけ、スタティックな美意識で知られたマイルスがこれでもかとばかり高音をヒットさせる場面では、理屈も何もなくジャズの高揚感が誰にでも実感できるはずだ。だからこのアルバムは細かい聴きどころがどうのこうのと言うより、出来る限りの大音量で音のシャワーを浴びるようにして、あたかも自分がライヴ会場に紛れ込んでいるような状況を作り出して聴いていただきたい。
 それでも、晴の舞台で大スター、マイルスと共演できる光栄に浴したトニー・ウイリアムスの興奮ぶりと、やる気満々の気合いがスティック(ドラムスを叩く棒)の先からほとばしるような快演は、やはりこのアルバムの大きな聴きどころと言ってよいだろう。強いて理屈めいたことを付け加えるとすれば、ジャズの演奏においては、少々のリズムのズレや、ライヴゆえの荒っぼい演奏も欠点とはならない場合があることは理解しておくとよいだろう。つまりジャズの聴き方は、マイナス部分を数え上げる減点法ではなく、優れた部分のピークを堪能する加点法とでも言うべき姿勢が大原則なのだ。
 このアルバムでマイルスが気に入れば二枚目ということになるが、同系統のものなら、テナー・サックスがウェイン・ショーターとなった『マイルス・イン・ベルリン』(CBS)を、ハード・バップ・マイルスのうちどれか一枚というなら、『リラクシン』がよい。
録音1964年 原盤 CBS 日本盤/ソニー・ミュージック・エンタテインメント          (出典 ジャズ完全入門 !)

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[Last Updated 3/31/2002]