目 次
それらに対してジャズは、多くの人たちが誤解しているように「曲」を聴かせることだけが演奏の目的ではない。またその演奏している曲目にしても、メロディがよくわからない(これを「アドリブ」という)ものを延々と吹きまくるばかりで、いったい何をどう聴いていいやら見当もつかない、というのが一般の印象ではないだろうか。
1. おびの言葉
2. はじめに
3.本の目次
4. あとがき
5. 著者紹介
6. ジャズの名盤
1. おびの言葉
レストランでも居酒屋でも、なぜかBGMはジャズ・・・。
「ジャズってどんな音楽なんだろう?」
ジャズ喫茶30年の著者が明かす究極の答。
はじめての人にもマニアにもいちばん分かりやすく、最も正しいジャズ入門書!
2. はじめに - ジャズってどんな音楽なんだろう
ジャズってどんな音楽なんだろう。ちょっと気取っていて、大人の聴く音楽。なんだか難しそう。いや、いま僕たちが聴いているロックやポップスのミュージシヤンたちも、ジャズマンからずいぶん影響を受けているらしい。あのスティングだって、ジャズマンと共演しているんだ。へえ、うちのおじいちゃんは昔ジャズを聴いていたって言うけれど、それって同じものなの?
ジャズに興味を持っている人は大勢いる。だけど、なんとなく取っつきにくいのは、ジャズの正体がよくつかめないからだ。そこで思い切って、ジャズはどういう音楽なのか?という疑問に最初に答えてしまおう。
「ジャズは、それぞれが個性的なミュージシヤンたちの、演奏を聴く音楽である」
なんだって、それじゃああんまり当たり前すぎるじゃないかって。たしかに「演奏を聴く」なんて言われても、音楽ファンにとっては当然のことのように思えるけれど、枝葉をはしょって突き詰めてしまえば、これはかなりジャズの本質に迫った鋭い答だし、他のジャンルの音楽は、実は必ずしもこの言い方には収まり切らない要素を少しずつ含んでいるのだ。たとえば、ジャズと同じように熱心なファンに支えられているクラシック音楽は、バッハやベートーベン、モーツァルトといった昔の作曲家たちの作品を、カラヤンとかグールドといった現代の演奏家たちの手によって再現されたものを聴くことが一般的なので、演奏を聴くことは、同時に作曲された作品を聴くことでもある。
別の言い方をすれば、クラシック音楽の演奏は過去の作品の解釈、再現でもあり、ちょっと図式的な理解ではあるけれど、紙に書かれた楽譜を実際の音として人に聴かせる、目的のための手段、といった側面もある。つまりクラシック音楽では、どんなに個性的な演奏をしたとしても、「演奏者だけが音楽の主人公ではない」というところが、ジャズとは大きく異なっているのだ。
また常日ごろおなじみのポップスや歌謡曲は、親しみやすい、あるいは心に染みわたるメロディの美しさが音楽の魅力になっていることが多く、お気に入りのミュージシヤンが歌い、あるいは演奏する好みの楽曲を聴くというのが普通の楽しみ方だろう。とくにTV時代のアイドルたちは、単に歌のうまい下手ではなく、ダンスの振りつけ、姿形、果ては食べ物の好みのような私生活に対する興味までをも含めた総合的な訴求力が求められ、ラジオしかメディアのなかった頃のように純粋な歌唱力だけで勝負できるというわけではなくなっているのが実情だろう。
要約すれば、ポピュラー・ミュージックの世界では、演奏能力や歌唱力に加え、人々にアピールする曲想、歌詞の力が、とりわけ現代では、アーティストの人的魅力が備わっていなければ、ファンに対して通用しないところを思い出してもらいたいのである。
ところが、この何をやっているのかよくわからない「演奏」部分こそが、ジャズの本質とも言うべき肝であり、聴きどころなのだ。だから多くのジャズマンたちは、いかに人と違ったやり方で、この「演奏」をカツコよく仕立てあげるかに、それこそ全身全霊を傾けているのである。
実はジャズに親しもうと思って入り損なってしまう人たちの大半が、クラシック音楽や、ポピュラー音楽の常識をジャズにもあてはめてしまうところに問題がある。つまり、これはやむを得ないこととはいえ、どうしても入門者は「曲」や「メロデイ」にこだわってしまうのだ。
ジャズマンは「曲」を演奏しているのではなく、単に「演奏」を聴かせている。なんだか禅問答のようだけれど、ここは大切なところなのできちんと順を迫って説明していこう。
もちろんジャズマンだって『枯葉』や『チユニジアの夜』といった曲を演奏するのだけれど、その時の考え方が、クラシックの演奏家やポピュラー・ミユージシヤンとは大きく異なっているのだ。そしてこれこそが、ジャズと他の音楽ジャンルを区別する重要なポイントなのである。
最初に言ったように、クラシックの演奏家は、自分なりに他人とは違った個性を発揮すべく努力はするだろうが、もしその演奏が著しく作曲家の意図したであろう作品の本質からズレていると聴き手に判断されれば、それはやはりバツだろう。たとえば、バッハの荘厳な宗教曲を、いかに独創的であれ、派手に軽々しく演奏したとすれば、これは認められそうもない。
またポピュラー・ミュージシヤンは、自分の持ち味をアピールするにしても、同時に、ヒットした曲であればあるほどに、人々が求めるその曲のイメージを守ろうとするだろう。どちらにしても、やはり「曲」は大切なのだ。
ところが、である。優れたジャズマンの多くは、曲目自体は自分の個性的な演奏を聴かせるための手段、素材に過ぎないと考えているのだ。彼らは作曲者の意図なんてものには、さほど縛られていない。クラシック音楽では譜面に書かれた音符から、たった半音ズレただけでもそれは「間違い」なのだが、ジャズマンは平気で元の曲の音符の長さを変え、音程を外し、果てはまったく違うメロディに組み替えて平然としている。
後で詳しく説明するけれども、ジャズの本質とまで言われている「アドリブ」には、いかに元の曲のメロディを変換するかというゲームのような要素があり、また、「フリー・ジャズ」 の一部には音楽の常識であるメロディを破壊することを目的にしているような演奏すらあるのだ。
では、一体、ジャズマンは 「曲」を何の素材と考えているのだろう。「演奏」である。
個性的な演奏である。つまりジャズマンはそれぞれがとびきりの個性の持ち主であって、そのオリジナリティを実証するために、「自分だけの演奏」を心がけ、そのための素材として、さまざまな曲を利用するのだ。
だからジャズを聴くときに、ポピュラー・ミュージックを聴くときのように曲を聴こうとすると、おなじみのメロディはなかなか出てこないし、出てきても変に音がズレていたりと、どうにも落ち着きが悪くて、聴きどころがつかめず、最後は何がなんだかわからなくなって、ジャズは難しい、ということになってしまいがちなのである。
しかし、それはあなたの聴き方が間違っているのだ、というところに気がついてほしい。あなたは、最初から、ジャズマンが聴いてほしいと思っているものではないものを求めているから、裏切られたと思ってしまうのだ。
それでは、どうすれば「ジャズの聴き方」がわかるようになるのだろう?
*本文中『太字(ゴチック書体)』になっているものは、いずれもジャズのアルバム・タイトルです。また覚えてほしいジャズマンの名前も、初出のみ太字にしてあります。
3.本の目次
第四章 ジャズ・ジャイアンツ列伝
はじめに−ジャズつてどんな音柴なんだろう 3
第一章 ジャズの聴き方
ジャズの聴き方 18
1枚のCDジャケットから得られる豊富な情報 26
第二章 ジャズの歴史
ジャズの歴史 30
1.ジャズの始まりからスイング時代 31
2.モダン・ジャズの夜明け「ビ・バップ革命」 35
3.モダン・ジャズの黄金時代、1950年代 39
4.ハード・バップの行き詰まり 41
5.混迷する1960年代 43
6.「ジャズ」の変革期1970年代 47
7.ジャズのポスト・モダン状況 49
ジャズ・スタイルの歴史(図表) 51
第三章 ジャズに使われる楽器とその編成
1.パーソネルって何? 54
2.ドラムスとベースに現れるジャズの演奏法の特徴 55
3.リズムの強調 56
4.楽器を身体に引き寄せる 57
5.エリントンのアレンジにみるジャズ奏法の特徴 59
6.楽器編成の基本、ビッグ・バンド 60
7.ジャズの花形楽器、トランペット 61
8.たくさん種類があるサックス 62
9.バンド・サウンドの名脇役、トロンボーン 65
10.ビッグ・バンドのピック・アップ・スタイルがスモール・コンボだ 67
11.ピアノを主役に。ピアノ・トリオ 69
12.その他の楽器と、編成のヴアリエーション 71
ジャズ・ジャイアンツ列伝 74
チャーリー・パーカー 1920〜1955 76
マイルス・デイヴイス 1926〜1991 79
ジョン・コルトレーン 1926〜1967 82
バド・パウエル 1924〜1966 85
セロニアス・モンク 1920〜1982 88
ソニー・ロリンズ 1929〜 91
クリフォード・ブラウン 1930〜1956 94
ユリック・ドルフィー 1928〜1964 97
オーネット・コールマン 1930〜… 100
ビル・エヴァンス 1929〜1980 103
第五章 ジャズの名盤
ジャズの名盤 108
ワルツ・フォー・デビー/ビル・エヴアンス 110
サキソフォン・コロッサス/ソニー・ロリンズ 113
キャノンボール.アダレイ・クインテット・イン・シカゴ 116
フォー・アンド・モア/マイルス・デイヴィス 119
ソウルトレーン/ジョン・コルトレーン 122
クリフォード・ブラウン・アンド・マックス・ローチ 125
フル・ハウス/ウエス・モンゴメリー 128
セロニアス・モンクの肖像/バド・パウエル 131
ミステリオーソ/セロニアス・モンク 134
エリック・ドルフィー・アット・ザ・ファイヴ・スポットVol.1 137
ゴールデン.サークルのオーネット・コールマンVol.1 140
処女航海/ハービー・ハンコック 143
リターン・トゥ・フォーエヴァー/チック・コリア 146
ケルン・コンサート/キース・ジャレット 149
タイム・アウト/ディヴ・ブルーベック 152
アート.ペッパー・ミーツ・ザ・リズム・セクション 155
コンコルド/モダン・ジャズ・カルテット 158
ペイシー・イン・ロンドン 161
プレス・アンド・テディ/レスター・ヤング〜テディ・ウイルソン・カルテット 164
フイエスタ/チャーリー・パーカー 167
第六章 ジャズ・レーベルとジャズ・アルバムの基礎知識
ジャズ・レーベルとジャズ・アルバムの基礎知識 172
ブルーノート 176
プレスティッジ 179
リヴァーサイド 182
アトランティック 185
インパルス 188
ヴァーヴ 191
第七章 「スタンダード」で聴き比べ
「スタンダード」で聴き比べ 196
朝日のようにさわやかに 203
枯葉 205
ユード・ビー・ソー・ナイス・トゥ・カム・ホーム・トゥ 207
ラウンド・ミッドナイト 209
チュニジアの夜 211
ユー・ドント・ノウ・ホワット・ラヴ 213
デイア・オールド・ストックホルム 215
第八章 ジャズ・ヴォーカルって何?(ヴォーカル名盤五選付)
ジャズ・ヴォーカルって何? 218
エラ・フィッツジエラルド/エラ・イン・ベルリン 220
サラ・ヴォーン/サラ・ヴォーン・ウィズ・クリフォード・ブラウン 222
カーメン・マクレエ/ブック・オブ・バラッズ 224
アニタ・オデイ/ピック・ユアセルフ・アップ・ウィズ・アニタ・オデイ 226
クリス・コナー/バードランドの子守歌 228
第九章 ジャズ・シーンの現状 232
ジャズ・シーンの現状 232
第十章 ジャズの専門用語 238
ジャズの専門用語 238
★アドリブ
★コード/コード進行
★モード
★2ビート/4ビート/8ビート
★テーマ
★リフ/リフレイン
★ブリッジ/サビ
★フレーズ
★フロント/リズム・セクション
★ブルース
★ゴスペル
★リズム・アンド・ブルース
★ファンキー
おわりに
1.CDの買い方 248
2.ジャズ喫茶にも行ってみよう 230
あとがき 254
4. あとがき
いままたジャズが静かなブームを呼んでいる。しかし、そうした社会の要求に応える適切なジャズの入門書が、実は見当たらない。本書は、私が朝日カルチャーセンターのジャズ入門講座を一年間担当し、聴講された方々と接した体験をもとに、ジャズ入門の最短コースをまとめたものである。だが本音を言うと、この本は、ジャズ・ファンを自認し、まわりの人にジャズを薦めているような人にこそ読んでいただきたい。というのも、長年ジャズを聴いているはずの人たちが、意外とジャズの基本を知らないという現象が間々見受けられるからである。
本書を書くに当たり、ソニー・ミュージックエンタテインメント/千陽氏、東芝EMI/相川氏、ビクターエンタテインメント/駿河氏、ユニバーサル・ミュージック/斉藤氏にご協力をいただきました。ありがとうございました。
またこの企画を採用し、編集を担当してくれた宝島社の富永慶一郎氏は、私のデビュー作『ジャズ・オブ・パラダイス』を世に出してくれた編集者で、現在の私があるのも氏のおかげです。
2000年6月 後藤雅洋
*参考文献
『ジャズの歴史物語』油井正一著(スイングジャーナル社刊)
『200ジャズ語事典』(立風書房刊)
5. 著者紹介
後藤雅洋(ごとう・まさひろ)
1947年東京生まれ。67年にジャズ喫茶・四谷「い一ぐる」を開店。30年以上経った現在も、数少なくなったジャズ喫茶の老舗としてがんばっている。ジャズ全盛期の多くの「論争」では、その論破、撃破ぶりで名をあげたが、88年に『ジャズ・オブ・パラダイス』(小社刊、現在は講談社+α文庫)を書いて、ジャズ評論の第一人者に。主な著書に『ジャイアンツ・オブ・ジャズ』『ジャズ解体新書』(ともに小社刊)、『ジャズの名演・名盤』(講談社現代新書)『JAZZ百番勝負』(講談社)などがある。明快な論旨、わかりやすい文章にファンも多い。また多くの人にジャズのたのしさを分かってもらいたいという気持ちから、執筆以外にもラジオ出演、朝日カルチャーセンター講師、講演など、いろいろな活動を精力的に行なっている。