Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第151夜

秋深し酒は静かに呑むべかりけり




 読書の秋、スポーツの秋、食欲の秋…秋には色々な修飾語がつく。
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 これというのも夏がいせいである。特に今年はエラい目に遭った。なにせ、東京や沖
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縄が 30 度台前半の時に、秋田で 30 度台後半だったのである。8 月に東京に遊びに行っ
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たとき「秋田は涼しいでしょう」と言われたが、全力で否定できた。
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 我が妹はこれを「平熱」と表現したが、現実逃避の話題としては秀逸であった。微熱が
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出るようだと辛い。
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 みのさんによれば、秋に食欲が出るのは、夏に使いきったエネルギーを補給しろ、と脳
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が命令を出すからだそうである。
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 アウトドアと言えば夏だが、にも拘わらずスポーツの秋と言われるのは、夏がいから
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であろう。俺もできれば炎天下でのクロスカントリーレースは避けたいところである。そ
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れに、多くのスポーツが冬をオフシーズンとしている。クライマックスの時期なのだ。
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 読書の秋はと言えば、秋の夜長を過ごすためである。これはつまり、人は日の出ている
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間は外をウロウロしているのだ、という真理を突いた話である。
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 読書は年中しているし、スポーツはごく一部を除けば興味ないし、やはり食いものの話。


 9 月に、秋田魁新報上で時ならぬ方言論争が起きた。
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 話題は、「猫まだぎ」とは何か、ということである。
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 俺も二度、取り上げたことがあるが、その時は、
ありふれた魚
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上手に食べてしまって、これ以上、食べるところのない魚
 という説明をつけている。


 新聞では、まずある人が、「おいしくない魚」と言った。
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 これに対して、「塩づけにしてカチンカチンになった魚」と反論した人がいた。
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 双方「旨くない魚」なんだからどっちでもよさそうなもんだが、後者の人は割と興奮し
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た筆致であった。北海道の漁場で働いていたときに人から聞いた、ということなのだが、
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どうもその説を信じて疑っていないようである。話を聞いたこと自体は事実であったとし
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ても、その人が真実を語っていたとは限らない、ということに気づいていない。
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 そもそも、この「猫まだぎ」という語が、非常に単純な単語の組み合わせである。同時多
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発的に生まれたという可能性も考えられないではない。すべてが真実かもしれないのだ。
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 あるいは、ごく普通の単語の組み合わせであるがゆえに、民間語源の作用が働いたの
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かもしれない。そうなると、全部嘘、という可能性すらでてくる。
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 なお、複数の国語辞典に当たったが、どれも「不味い魚」という語義を当てている。


 ちょっと待て、それはつまり、方言じゃないってことか?


 話は急に変わるが、たこ八郎というボクサー・俳優がいた。
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 彼は大酒のみで、かつ酒を選ばない人だったそうだが、そんな彼でも飲まないような不
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味い酒を、仲間内では「たこまたぎ」と呼んでいたそうである。


 食い物の話の筈がまた酒に傾きつつあるのだが、醸造過程では、米を発酵させて
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「醪・諸味 (もろみ)」とし、それを搾って酒とする。残ったものを「酒粕・酒糟 (さけかす)」
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と呼ぶ。
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 いままで、これは「さげかす」と呼ぶのだと思っていたが、この間、これを「さかがす
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と呼ぶ人を見かけた。「が」は鼻濁音の「か゜」である。
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 地域差なのか、個人差なのか、今のところ不明だ。


 今年の夏、すんでのところで記録更新を回避できた 27 日間の連続真夏日がとぎれて
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すぐの土曜日、とあるスーパーで「きりたんぽ特集」をやっていた。気が早いにも程があ
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る。真夏日じゃないとは言え、最高気温は 29.8 とかそんなあたりをうろうろしているのだ。
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 ま、スーパーの方でも、それを企画した時期には、まさかここまでくなるとは思わな
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かったのであろう。
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 それにしても暑苦しかったことであった。



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第151夜「もの言えば腹がひっこむ秋の風」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp