Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第98夜
痩せの大食い
食欲の秋がまたやってきた。
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とは言っても、俺の場合、飲みすぎて食欲がない、ということはあっても、夏バテのた
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めに食欲がない、という経験がないので、その反動としての「食欲の秋」には今一つ縁
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が薄い。
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更に、季節感に関する常識もないので、辛うじて秋刀魚が秋の魚だというのは知って
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いるものの、他の魚はさっぱりである。「秋味」なんて言葉も、同名のビールが発売され
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るまでは知らなかった。
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まぁ、栗やキノコが秋のものだというのはなんとか。
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そう言えば、中学生の頃、社会科の授業で、「米が最も品薄になるのはいつだ」って
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聞かれて「冬」と即答してしまったことがある。冬に取れる作物が少ないのは事実だが、
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米は秋に収穫されるのだから、品薄である筈がない。
またまた山形の話で恐縮だが、「芋煮会」の件。
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以前、秋田では「鍋っこ遠足」と言う、と書いた。これがまた大嘘なんである。
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何が嘘って、その浸透度というか、重要性というか。
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例えば、春になると全国の職場で「今年の花見はどうする?」というような会話が、当
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然のように交わされるであろう。それと同じレベルで「芋煮会」の話が出る。
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確かに、秋田でそれに相当する行事は「鍋っこ」と呼ばれるわけだが、俺は今だかつ
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て「今年の鍋っこはなんとする?」という発言を聞いたことがない。「鍋っこでもやるが?」
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程度ならある。
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つまり、秋田では大人達の定例行事として定着していないのである。
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「芋煮会」では、小規模ながら旅行会社のツアーがある、と言えば想像がつくだろうか。
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例の、ショベルカーを動員する「日本一の芋煮会」のことではない。
話を魚に戻すことにしよう。
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聞くところによると、天然ものの鮎は、尻尾と背骨を分離してから頭蓋骨を引っ張ると、
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スポっと抜けてくるらしい。魚を食うのが下手な俺にとってはありがたい話である。
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別に取りたてててぼっけ(不器用)な訳ではない。父親は、「猫またぎ」なんて言われる
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ほどきれいに食う。妹も上手いようだ。が、俺に伝わっていない。
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だもんだから、それができる骨格の魚であれば、背骨と鰭をとったらガブっといくんで
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ある。
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大概はOKだが、たまに小骨が喉に刺さったりする。
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この小骨のことを「とぎ」と言う。
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多分、「棘(とげ)」であろう。『大辞林(1989、三省堂)』には「かたくてとがった小片。魚の
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骨など」という記述があった。
東京都北区の、「おばあちゃんの原宿」って名前ですっかり有名になってしまった、と
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げぬき地蔵(注)。
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魚の小骨が喉に刺さってしまったときは、ここでもらったお札を飲むといいとかいう話
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を聞いた。東京の、一定以上の年齢の人には有名な話らしい。
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つまり、「魚の小骨」を「とげ」というのは、別に秋田弁に限ったことではないわけだ。
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大学があの辺にあって、「4のつく日には都電に乗るな」とかいう言い伝えがあったの
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だけども、どこだか忘れてしまったが9のつく日にイベントのある寺だか神社だかもあっ
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て、つまり月の 1/5 は混雑するのだった。
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年に1回とは言え、これに大学祭が重なるとエラいことになる。
残る問題は、「とぎ」に変化したのが秋田弁特有の現象なのかどうか。
この「とぎ」が、
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ほぼ幼児語だというのが引っかかるのである。
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かと言って、東京では「とぎ」を聞いたことがないし。
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ちょっと困った単語ではある。
標準語に直しにくいのが、「はだげる」。
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アクセントは「はだげる」である。
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無理に言えば、「平らげる」というのが最も近いのだが、もっと範囲は限定されていて、
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釜の中のご飯をみんな食べてしまう、という感じである。「平らげる」だと、並べられた
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料理を全部、という意味でも使えるが、「はだげる」はそういう使い方はできない。
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「大き目の器の中の料理をみんな食べてしまう」というのが原義で、シチュー鍋でもい
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いのだが、「こそげとる」になってしまうと意味が全く違う。
最後に以前の文章の補足。
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イカみたいに「柔らかくて、なおかつ噛み切りにくい」という食感を「しね」というのだが、
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これは、ひょっとして「撓(しな)る」と関連があるのだろうか、と思ったりする。
それにしても、都電そばの大学にいた頃、触ると小骨が刺さるとまで言われた俺が、
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内臓脂肪のことを気にするようになるとは誰が想像したであろうか。全く、時の流れと
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いうのはむごいものである。
注: とげぬき地蔵については、以下のサイトが詳しいようだ。
Welcome to“おばあちゃんの原宿”
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