Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜
第9夜
やだーきったなーい
「ズーズー弁」とかいう言葉が示すように、東北弁は「汚い方言」というイメージが強い。
ま、濁点が多いのは確か。今回は素直に認めよう。
認めるだけじゃなくて、特に汚そうな表現を集めてみた。
「んが」
二人称だ。ただし、「お前」に相当する単語なので、喧嘩の時か、目上のものが目下のものを呼ぶとき、あるいは、かなり仲のいい関係でないと使えない。
今、ある漫画を思い出している人は、あまり若くない。
「だば」
二人称の話で、津軽の版画家・棟方志功の「わだばゴッホになる」という言葉を思い出した。「俺はゴッホになる」という意味だ。
「だば」は、主格を示す助詞「は」に相当する。
「どかちかで」
何かを成し遂げようとする時、騒がしく、かつおっちょこちょいな人を形容するときに使う。で、その作業は、手際が悪いとか、成功しないとか、マイナスの評価が与えられるものでなければならない。バタバタと大騒ぎしながらも、なんとか成功に漕ぎ着けるような場合は「どかちかで」は使いにくい。
例えば料理の時に、塩がない、味噌はどこに行った、しまった白菜を先に切っとかなきゃ駄目だった、あー鍋がふいてる…と大騒ぎした挙げ句、肝心のご飯を炊くのを忘れていた、という場合、この人は「どかちかで」と言われても文句が言えない。
汚い、というよりも、不思議な音の単語である。しかし、秋田衆にはこれがピッタリとくる。
「げんげ」
「非常に」という意味だが、どちらかと言えば「異常に」の方に近い。しかも「意外」という含みも持つ。よい意味にも使える。
朝一番に出社した人が「なんだが、げんげあったけと思ったっけ、夕べ暖房止めねで帰ったいんた(なんだかすごく暖かいと思ったら、夕べ、暖房を止めないで帰ってみたいだ)」という風に使う。
「がっぱり」
大抵は、後に「はまってしまった」が続く。「ずっぽり」に相当するか。
「ずっぽり」もきれいではないな。
怪獣の名前ではない。
「がめる」
「盗む」だが、どちらかと言えば、万引き程度の小規模なものを指す。金庫破りとか、強盗
などには使えない。
万引きの方は、最近は「ぎる」という様だ。
「ばっぱ」「ばば」
大便。
モノはともかく、音が汚い。
「しね」
汚いというよりは、ショキングな言葉だ。
あなたが友人とスルメを肴に酒を飲んでいたとしよう。楽しい話が、酒が進むにつれて、いつのまにか口論になり、場の雰囲気が非常に悪い。彼は、気まずさを誤魔化すかのようにスルメを口に運び、ひとこと「しね」とつぶやいた…恐い風景である。
ご安心を。これは「固くはないが、噛み切りにくい」という意味である。餅などの様に、ネバネバして変形するものには使えない (と思うが自信ない)。
この、ほとんどイカとタコを食うときにしか使えない単語が、どうして命脈を保っているのか、ちょっと不思議である。最近は、グミとかもあるが。
あなたはこれがスルメであったことに感謝するべきであろう。もし、柿ピーであったら…。
あ、スルメを食っていたからといって、彼がスルメのことを形容しているとは限らない。
音声サンプル(.WAV)
んが(13KB)
どかちかで(11KB)
げんげ(11KB)
なんだが、げんげあったけと思ったっけ、夕べ暖房止めねで帰ったいんた(43KB)
がっぱり(16KB)
がめる(10KB)
ぎる(11KB)
しね(10KB)
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