Speak about Speech: Shuno の方言千夜一夜




第12夜

腹へった



 食い物の話、というのは実は難しい。
 というのは、ご当地料理の話を始めるといくらでも出てくるのだけれども、ここは料理教室ではないから、そっち方面に展開するわけにはいかないからだ。その気になれば、郷土料理は売るほどあるし、山菜などの名前もあるのだが。
 だから、
・鰰 (ハタハタ) の卵のことを「ぶりこ」と言って秋田衆が珍重する
・昔、鰰が大量に取れた頃には「ぶりこ」だけ残して捨てた
・取れすぎるため、木箱の方が、中に入っている鰰より高かった
・猫も食べないくらいありふれた魚、ということで「猫またぎ *1」などとよばれた
・近年はほとんど取れなくなったので、一時的に漁をやめ、1995 年から再開した
・それでも浜値で 1 匹 \1,000 くらいついたりすることがある
 というような話を延々するつもりはない。
 それにしても、何故「ぶりこ」なのだろうか。「ぶり」の子どもでもないのに。*2

 「だだみ」というのは、鱈の白子である。新鮮なものであれば刺し身で食べるが、「塩汁 (しょっつる)」などの鍋料理に入れることも多い。内臓なので、見た目での好き嫌いはあるようだ。

 「かすべ」。平たく言えば、「えいひれ」を醤油で煮込んだもの。骨もなにもとらずにぶちこむのだが、長時間コトコトと煮るので、大変に柔らかい。7 月に秋田市土崎で行われる湊祭りには欠かせない料理である。

 「とんぶり」は、ほうき草の実である。黒い粒なので「畑のキャビア」などというキャッチフレーズがついていたりする。粘り気があり、長芋をすり下ろしたのとまぜて、醤油をかけると旨い。「山かけ」の芋のかわりにいれることもある。

 …やっぱり、食い物自慢になっている。
 言葉の話に軌道修正しよう。

 「飯」のことを「まま」というのは有名な話であろう。秋田に限ったことでもないし。
 「がっこ」は「漬物」のことだが、場合によっては「沢庵」だけを指すこともある。だから、飲み屋で「がっこけれ」と言った場合、漬物盛り合わせが来るか、沢庵だけになるかは運次第である。普通は前者だろうが。
 大根を薫製にしてから漬け込んだ「いぶりがっこ」というのもある。これは大変に旨いのだが、24 時間体制での火の番を強いられるので作るのが大変…また逸れてしまった

 一汁一菜を揃えるならば、味噌汁のことにも触れなくてはなるまい。
 「おづげっこ」という。
 「っこ」は、「指小辞」というやつで、小さいものや親愛の情を持った物を表現するときにつく。「お」は丁寧語の「お」だから、本体は「づけ」である。
 「『づけ』が本体ぃ?」と思った人もあるかもしれない。
 では、問題。  「おみおつけ」を漢字で書くとどうなるでしょう (正解は)。

 最後は「ぼだっこ」。
 「塩鮭の切り身」である。生きて泳いでる奴とか、サーモンステーキ、ハム、鮭フレークなどは「ぼだっこ」とは言わない。あくまで「塩鮭の切り身」だけを指す。
 非常に守備範囲の狭い単語だが、これは食習慣のせいもあるのだろう。今でもきちんと生きている。
 ついでだが、「シャケ」は東京方言である。

 軌道修正しながらの話は難しい。
 人間の体の中で最もエネルギーを消費するのは脳だそうだ。
 従って、頭脳労働の後は腹が減る。
 冷蔵庫でもあさってみるとするか。



注1:
 「猫またぎ」と呼ばれる魚は、地域によって違うそうだ。(
)

注2:
 食べたときに卵が割れて「プリプリ」「ブリプリ」という音がするからだそうだ。(970223 加筆)(
)


正解:「御御御つけ」。お疑いの向きは、辞書をどうぞ。()




音声サンプル(.WAV)

だだみ(11KB)
かすべ(9KB)
まま(9KB)
がっこ(11KB)
がっこけれ(17KB)
ぼだっこ(11KB)


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第13夜「腹一杯」

shuno@sam.hi-ho.ne.jp